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うつくしいものを美しいと思えるあなたのこころがうつくしい

10月、大学時代に4年間過ごした東京に半年ぶりに赴いた。
今回からは、"旅行"という形で。

新しく買ったミラーレスカメラを片手に、高揚感を覚えながら色々なところへ足を運んだ。
大学のキャンパスや、よく飲みに行った高田馬場、色々と思い入れのある浅草。
限られた日数で、できるだけ多くの思い出を回収したかった。

そして、六本木。
正直、六本木は大学時代に数えるほどしか来たことがない。
森タワーの中にあるApple社に見学に行ったり、クリスマスのイルミネーションを見にきたり。
思い出を回収しに来たというよりは、展望台から夜景を撮りたかったのだった。

六本木の森タワーに着いた時、ふと腕時計に目をやると、17時前になっていた。
もう夕暮れだ。

「そうだ、ここから東京タワーが見えるんだ」
森タワーの敷地内には、何にも遮られることなく東京タワーを一望できる場所がある。
自然と足はその場所に向かった。

先ほどまでどんよりとたちこめていた雲は去り、やわらかな薄桃色に染まる空が一面に広がっていた。その色に溶け込むように、東京タワーがやさしげに立っている。
ため息の出るような美しい夕景に、すぐさまカメラを取り出し、電源を入れて構えた。
こんなに綺麗な夕景を写真に収められるとは。
感動がすぐに落ち着くはずもなく、夢中でシャッターを切った。

そのうち、1人また1人とその場所に集まってくる。
スマホを横にして写真を撮ったり、ただ佇んで眺めたり。
その数はどんどん増えていくのだった。

夕景を夢中で撮っていた私は、ハッとしてカメラをゆっくりとおろした。
胸にくるものがあったのだ。
写真を撮る人の中に、黒いジャケットのボタンを外したサラリーマンや、ハイヒールを履いたいわゆるキャリアウーマンが何人もいた。
仕事が終わって森タワーから出てきたのだろう。

私のようなたまにしか六本木に来ない者が、冥土の土産と言わんばかりにカメラを構えるのはまだわかる。
だが、仕事終わりの人々は違う。
何百、何千回と飽きるほどここに通って仕事をしてきた方々のはずだ。

それなのに、私と一緒に夕景を見て、足を止め、
思わずスマホを出してカメラを撮っている。

通い慣れた人すら虜にしてしまうほど素晴らしい夕景だからだろうか。
だが、仮にそうだとしても、通い慣れているのなら、夕刻の東京タワーを見る機会など何度もあったはずだ。

それでも、夕景を「美しい」と感じ、思わず足を止めて眺めてしまう。
その心に、姿に、じんわりと込み上げてくるものがあった。

相田みつをの言葉に、
「うつくしいものを美しいと思えるあなたのこころがうつくしい」
というものがある。

朝から晩まで働き、いく日も同じ場所に通い。
それでも、帰り際に見た夕景にふと足を止めて眺めてしまう。
その澄んだ心に、尊敬の念にも似た深い感動を覚えた。

本当に綺麗な風景を写真に収めることができた。



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