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「エッセイを書くといいと思う」と言われたので絵描きが日記をはじめてみる
「火詩さんは、エッセイを書くといいと思う」そう言われ、日記を書きはじめた。
言ってくれたのは、くめさん(旦那さん)にリノベーションの依頼をしてくださった素敵なご夫婦なのだけれど、なぜか私のことまでとても気にかけてくださっていて、今や誰よりも私とくめさんのX(Twitter)、Instagram、Threadsを(ちょっともう、慄くくらいに)見てくれている。「火詩さんはね、お友達」と言っていただいたので、私の最高齢のお友達である。
エッセイ。読むのは好きだけれど、何を書いたらいいだろう。構えると難しそうだから、とりえあえず今日のことを書いてみよう。そう思って書きはじめたら、なんだか楽しくなってきて、だんだんと日課になりつつあるので、公開してみることにした。
いつものnoteは、読んでくれる人に向けての言葉だけれど、これは日記なので誰宛でもない。文体も自然と変化して、今はなんだかしっくりきている。この調子でSNSを書こうと思うと手が止まるのが不思議だ。多分、この文体で告知を書くのも難しそう。
そんなわけなので、少し遡りながら、ここに日記を置いていきたいと思う。ちなみに、日記はMacのメモアプリに綴っているので、ひとまず「今日のメモ帖」とする。イラストレーターなので、この日記はたまに絵日記にもなる。
今回は、8月と9月の日記。この頃はまだ、まばらです。
はじめに
書いている人:私(久米火詩)
イラストレーター。物心がついた頃から絵を描いて育ちました。紙と本と古いものが好き。https://www.hiuta.net/
よく出てくる人:くめさん(久米岬)
旦那さん。建築家。存在がゆるい。仕事モードになるとしゃっきりします。チョコと猫と辛いものが好き。
https://note.com/misakikume
暮らしている場所:東京都調布市の団地
自然がたくさんあっていいところ。窓を開けると子どもたちの楽しそうな声をBGMにできるのがお気に入り。
2024 8月某日 荷札事件
長野の父から野菜が届く。長野の実家の庭にはプチトマトの温室があり、毎年山盛りのトマトが幾便かに分けてやってくる。暑さにぐったりしていてもこのプチトマトだけは食べられる。
山のように届くことに慣れきって育ってしまったから、上京して一人暮らしをし始めた頃はスーパーや八百屋に並ぶプチトマトの高さに慄き、手が届きそうなパックを買ってみたら今度は味の薄さに愕然。夏の私はこのプチトマトに生かされていると言っても過言ではないと思う。ありがとう父。
もりもりと届いた野菜に喜んでいる横で、くめさんが少ししゅんとした顔で「お義父さんはまだ結婚を認めてないみたい……」と一言(※7月に入籍したばかり)。手元を見ると私の名前が旧姓で書かれた宅配伝票。うん、ごめん、それ去年実家に行った時に「宛名を書くのが面倒だから書いておけ」と父に言われて私が書いた伝票だね。
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2024.8.21 水 はじめての梅干し
先月大忙しの最中に必死で天日干しした、人生初の自家製梅干し。ワクワクしながら食べてみたら、笑っちゃうくらいしょっぱかった。ネットで調べたら水に浸けて一晩塩抜きするといいらしい。たくさん作ってしまったけれど美味しく食べれるんだろうか……。
2024.9.6 金 ファブニール
この日はアレクサンダー・カルダーの『そよぐ、感じる、日本』を観に、くめさんとふたり麻生台ヒルズギャラリーへ。彼は動く彫刻「モビール」の発明で知られたアメリカの彫刻家。大学生の頃、美術史の授業で教わってから好きな作家なので、今回の展示は必ず行こう、ととても楽しみにしていた。
会場はコンパクトだけれど作品がぎゅっと詰まっていて、前にも後ろにも、そして上にも、どこを向いてもカルダーさんの作品がある! 沢山の作品が一堂に会する場でしか味わえない空気が確かにあって、来られて本当によかった、企画してくれてありがとう、と思わず感謝の合掌をする。
カルダーさんの大規模な作品展はなんと35年振りだそう。その頃まだ私は生まれていないし、今から35年後は立派なおばあちゃんになっている。本当に貴重な機会だ。
展示台や壁面なども、作品に合わせられて作られているのが伝わってきて嬉しくなる。カルダーさんの作品は、立体も絵画もみなどこか愛嬌があって、特に彫刻作品は今にも歩き出しそうな(モビールだから動いてはいるんだけど、それとはまた別に)気配がありとても楽しい。
会場内のスケッチは禁止だったのが残念だったけれど(スマホでのみ撮影OK)感動したところを言葉でたくさんメモをした。今回は特に作品を随分近くで見られたので、針金同士の接合部、丁寧にくるりと曲げられた細部の美しさや、くるくると回りながら刻々と表情を変えるモビールならではの魅力を存分に堪能できたのが嬉しかった。
カルダーさん自身が映った映像もあり、一心に作品を作るカルダーさんに、少年が「どうしてそうするの?」と尋ねた時「楽しいからだ」と答えていたのがとてもいいなあ、と思う。そうだよね、楽しいからだよね、一緒だなあ、と嬉しくなる。
私が小学校から大学までを過ごした、名古屋にある市立美術館の入り口には、常設でカルダーさんの作品「ファブニール・ドラゴンⅡ」が飾られている(今回の展示では、この作品の姉妹作である「ファブニール」が観られてとても嬉しかった)ので、カルダーさんの作品が気になった方はぜひ名古屋市美術館のある白川公園へ。お隣の科学館では、日本一大きなプラネタリウムも見られます。
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2024.9.13 金 てきぱきてきぱきてきぱき
窓の外から園児たちの「てき!ぱき!てき!ぱき!てきぱきてきぱき!わあ〜」という声が聞こえてくる。なんだかよくわからないけれどかわいいので、我が家もテキパキ仕事をしたい時はこれを復唱しよう、ということにしました。
2024.9.23 日 夜中の震動音
夜中、くめさんが寝た後に洗面台の方からガタガタと風ではない音がする。ドキドキしながら見にいくと、電動歯ブラシがなぜか突然電源ONの状態でひとりでに振動している。ちょっと怖いのでやめていただきたい(ホラーは大の苦手)。
この歯ブラシ、実は以前も一度勝手に振動を始めて、何度電源を押しても振動が止まらず、うるさいのでタオルに包んで寝たことがあった。それ以降はおとなしくしていたので油断していた……。もう随分使っているからいい加減買い替え時なのかなあ、もうちょっと頑張ってほしい。それとも付喪神にでもなる気かい?
2024.9.25 水 ふくいんかんのえほんやさん
ずっと行きたかった「ふくいんかんのえほんやさん」に行くことができた。福音館書店さんが最近始められた取り組みで、本社ビルの一部を解放して、在庫書籍や関連グッズを手に取って購入することができる機会を、月に数度設けてくださっている。
絵本や児童書全般が好きでたくさん持っているけれど、福音館さんの絵本は特にしみじみと「いいなあ」と思うことが多くて、大好きな出版社さんなので、一度行って見たいなあ、とずっと思っていたのだ。
ドアを開けてすぐ、林明子さんの大きなタペストリーや、『まあちゃんの長い髪』の身長計、五味太郎さんをはじめとした絵本作家さんの色紙などが飾ってあって、大好きな本がたくさんで嬉しくなる。
ぐるぐるぐるぐる、本棚を巡って欲しい本を探していたら、本棚の最下部に貼られた絵に目が留まる。列車の中で過ごす人々の様子が描かれていて、なんとも愛おしい感じ。スタッフさんに尋ねると西村 繁男 さんの『やこうれっしゃ』という絵本ですよ、と教えていただいた。
文字のない絵本で、最初の見開き、駅のホールを鳥瞰で描いた絵を見て、ぐっと引き込まれる。初出はなんと1980年。40年経ってもこうして新刊で出会えるって、嬉しいなあ。
もうしばらく本を吟味していると、安野光雅さんのコーナーで一緒になった女性が、私と同じように『やこうれっしゃ』の絵を見て「なんの絵本だろう…」と呟いていた。思わず「私もさっき、同じことが気になったんです」とスタッフさんから教えていただいた内容をお話しすると、本を見に行った後「買います」と宣言してくれて、お互い手に持った『やこうれっしゃ』を見せ合った。
迷った末、安野光雅さんの『天動説の絵本』も買うことに決めてレジに並んでいたら、私の少し前でさっきの女性も、安野さんの絵本と一緒に『やこうれっしゃ』を買っていて、心の中でひっそり握手。福音館さん、素敵な機会をありがとうございました。
帰り道、メールをチェックしているとZINEを置いてもらっている名古屋の書店、ON READINGさんから、8月に納品したZINEの追加納品のご連絡が! とても嬉しい。ON READINGさんはくめさんも私も名古屋にいた頃から通っていて、大好きなお店。置いてもらえることが決まって大喜びしたのが今年の春。
イベントで直接手にとってもらえるのも嬉しいけれど、知らないところでこうして私たちの本を手にとってくれる人がいるってとても嬉しいことだ。