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人生にスパイスを与える、映画の名言#008 もう心配ない/信じて、何もかもうまくいくよ

I'm really OK. 
Trust Me. Everything's gonna be fine.

もう心配ない
信じて、何もかもうまいくよ

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-ファイト・クラブのルールその1
「クラブのことは他言するな」
-ファイト・クラブのルールその2
「クラブのことは他言するな」

 自動車会社に勤める"僕"(エドワード・ノートン)は、高級マンションで生活し、好きな北欧家具を手当たり次第買う日々を送るも、深刻な不眠症に悩まされていた。ある日、出張途中の飛行機の座席が隣り合った謎の石けん商人/タイラー・ダーデン(ブラッド・ピット)との出会いから、彼の人生は一変し始める。自宅のマンションが爆発事故に遭い、ダーデンとバーで酒を飲んだ後、彼からこんな提案をされる。「俺のことを力強く、思いっきり殴ってくれ」。その暴力と痛みを通した繋がりが、やがて他の人々も巻き込んだ”ファイト・クラブ”という、殴り合いをする集まりに発展していく。"僕"は自助グループで知り合った女性/マーラ(ヘレナ・ボナム=カーター)を巻き込みつつ、クラブは物質至上主義や消費主義を破壊するためのテロリスト集団として「プロジェクト・メイヘム=騒乱計画」と題した、破壊活動を開始する・・・。

 「人生にスパイスを与える、映画の名言」が始まって以来、今のところ最も暴力的で混沌とした作品が、この『ファイト・クラブ』だ。本作が公開された1999年は、21世紀を目の前にし、ある種の"興奮"と"不安"が混在していた時代。そこに脳天をぐらつかせるような強烈なパンチを与えてくれたのが本作だった。映画製作時点でチャック・パラニュークが書いた原作にも批判があり、アメリカでは公開された直後から一部の映画評論家や批評家から大バッシングを浴び「男性優位を描いた暴力礼賛映画」「マッチョ・ポルノ」「テロリズムを助長している」等々、徹底的に非難された。
 アメリカでの公開から約2ヵ月遅れた1999年12月、クリスマス直前に日本でも公開されたが、初日に見に行った劇場は驚くほどガラガラで「これは大丈夫だろうか・・・」という一抹の不安を抱かせたものの、冒頭で勢いよく始まる脳内細胞の映像を見た途端、全てが吹っ飛んだ。当時中学3年生だった僕の目に映ったのは、かつてないほど興奮するような映像マジックとハチャメチャな内容、明確に狙ったブラック・コメディ要素(映画と観客のバリアとなる"第四の壁"を簡単に破壊し、主人公とタイラーが観客に話しかけるシーンも複数)そして恐ろしさとカッコよさが合わさった暴力描写だ。残念ながらアメリカでも興行的に失敗し(映画会社の重役が何人もクビになった)日本でも思ったほど話題にならなかったが、公開から20年以上経った今では「映画史上最高の作品の一本」として、海外では大学の映画専攻における授業の題材としても使われるほど、評価は大逆転。90年代を締めくくった歴史に残る大傑作として、永遠に語り継がれる作品となった。まさに「時代を先取りしすぎた」のは、間違いないだろう。

 今回取り上げた名言は、まさにクライマックスを迎えた瞬間のセリフだが、これをハッピーエンドと捉えるかどうかは、見る者の判断による。だがこのセリフを言った途端、目の前に広がる景色は、映画ファンならずとも生涯忘れられない光景となるはずだ。そして流れるピクシーズ(Pixies)の名曲「Where is My Mind?」は、あまりにも完璧すぎる選曲。この曲の歌詞に含まれた意味も含めて『ファイト・クラブ』は、その深遠なテーマを完成させたと言える。もし本作を未見の方は、興味本位で構わないので、是非一度"体感"してほしい。ようこそ、ファイト・クラブへ。

With your feet in the air and your head on the ground
Try this trick and spin it, yeah
Your head will collapse
But there's nothing in it
And you'll ask yourself

Where is my mind
Where is my mind
Where is my mind
Way out in the water
See it swimmin'

足は宙に浮いているのに、頭は地面についている
そのトリックで回ってみるんだ、ほら
お前の頭は破壊されるだろう
だけど中身は何もない
そして自分自身に問いかけるんだ

俺の意識はどこにある?
俺の心はどこにある?
俺の考えはどこにあるんだ?
遠く離れた水の中で
それが泳いでいるのが見えるんだ


-ファイト・クラブ(1999年)
監:デヴィッド・フィンチャー
脚:ジム・ウールス
原:チャック・パラニューク
出演: エドワード・ノートン、ブラッド・ピット、ヘレナ・ボナム=カーター

この記事を書いた人
大石盛寛(字幕翻訳家/通訳)
通称"日本字幕翻訳界のマッド・サイエンティスト"。
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目覚めたとき 帰りの電車の中 静かに眠る前 そんな「ひととき」 自分に帰ってこられる場所になってほしい。   そんな気持ちをこめて6人でスタートした「ひととき」です。一緒に盛り上げていただけたら嬉しいです! いただきましたサポートは新しい活動や記事づくりに活用させていただきます。