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町と人に寄り添う、おもちゃ屋の名物オヤジ

「ひとすじ」は、”50年以上ひとつの仕事を続けている”方々を、フィルムカメラを用いて写真におさめるプロジェクト。
個人が自由に仕事を選べるようになり、転職や職種転換も当たり前になった現代だからこそ、その人々の生きざまはよりシンプルに、そしてクリエイティブにうつります。
このnoteでは、撮影とともに行ったインタビューを記事にしてお届けします。

初めて降り立ったのに、なぜか懐かしい気持ちになってしまう町、ときわ台。

その町の中でもひときわノスタルジーを感じさせる佇まいの「ホビーストア フジヤ」
長い間ときわ台の町とそこに暮らす人々を見守るこの店で、今日も真剣な眼差しでおもちゃ・模型作りに向き合うのが、この店の店主・藤田宏さん。

おもちゃと町を愛し、全力で人生を楽しむ”ときわ台の名物オヤジ”の熱い思いを聞かせてもらいました。

店主・藤田宏さん。(通称:マスター)
奥様・息子さんご夫婦と4人で店を切り盛りし、それぞれ各パートを担当。
そんなご家族を「仲間でありながらライバル」と藤田さんは語る。

長年愛され続ける”町のおもちゃ屋さん”

ー 昔懐かしいおもちゃ屋さん、という感じでなんだかワクワクしますね!
藤田さん:そうでしょう?うちの店の前の通りも、昭和30〜40年代頃までは150軒のお店があったんだけど、いま日曜日も開いている店はウチだけなの。みーんな閉めちゃって。
でも、俺は、「おもちゃ屋というのは社会的になくてはならない、責任ある仕事」だと思ってるの。

ー おもちゃ屋さんが「社会的な責任ある仕事」…?
藤田さん:そう。売れなくなったからって店を閉めちゃうのは簡単だけど、そうすると、うちが今まで仲良くさせてもらってたお客さんとか、付き合いのあるお店さんとか、そういう蓄積されたものが全部なくなっちゃう。
町のつながりや、この町に住むお客さん一人一人のために、絶対にこの店は存続させるべきだという使命を感じている。
それは、今店主を引き継いだうちの次男にもいつも話してること。

ときわ台の人々に長年愛される「フジヤ」

ー なるほど。確かに小さい頃、誕生日とかにおもちゃ屋さんにおもちゃを選びに来る時間って特別でしたもんね。
藤田さん:そうでしょう?やっぱり、悲しいことに、今は1円でも安く買いたいってAmazonとかに流れていっちゃうお客さんが多くて、それで、そのおもちゃの組み立て方がわかんないから、ってうちに持ってきたりするの。
でも、そんなの嫌だよ。笑
うちで買ってくれたら、作り方も、楽しみ方も、全部教えて、1000円分のもの買っても2000円分くらいの価値にしてお返しする自信あるよ。
それが、町で店舗を構えるおもちゃ屋の良さでもあるしね。

ー 確かにそうですよね。ここには昔懐かしいおもちゃがたくさんあるように見受けられるのですが、どんな基準で商品を仕入れているんですか?
藤田さん:やっぱり、さっきの話と近いんだけど、社会的に責任があるおもちゃだね。
社会的に責任があるおもちゃっていうのは、「時代が変わっても、家族で一緒に遊ばれることが想像できるおもちゃ」だね。

ー 人生ゲームとか、そういうのですか?
藤田さん:そうそう。ああいう、時代が変わっても根本を変えずに、ずっと長く売ることのできるおもちゃだね。
例えば、この四目並べ。これは、この町の人全員に売ったよ。笑
この木のぬくもり。幼稚園から遊べて、年齢上限はなし。
じいちゃんばあちゃんが孫と一緒に遊べるおもちゃなのよ。
俺はこれを、「孫に勝てるおもちゃ」として売ってんの。笑
これは、絶対におもちゃ屋になくてはならないおもちゃでしょ?
こういうのを売りながら、新しいおもちゃも取り入れて、長く続けてる。

藤田さんが町中の人に売ったと語る四目並べ

授業そっちのけで広告の本を読み漁った学生時代

ー 藤田さんは、どうしてそもそもおもちゃ屋さんになったんですか?
藤田さん:学校出た時は、本当は広告代理店に入りたかった。
学生の頃、授業そっちのけで、広告雑誌の「ブレーン」とか、「宣伝会議」とか読んで、毎週のようにポスター描いたりして。

ー でも広告代理店には入らなかった?
藤田さん:うん。元々、ここはお菓子屋だったんだけど、うちのお袋が「あんたそんなに好きなら広告代理店もいいけど、まずはお菓子屋の一角でなんかやってみなよ」って。
で、角っこの4坪の敷地をもらっておもちゃ屋をはじめたの。
玩具とお菓子は相性が良いな、ということでね。

今でも店の一角で駄菓子を販売している。

ー 広告の仕事とおもちゃ屋さん、なんだか遠い感じもしますが。
でも楽しいことをずっと考えて、モノづくりをするという点では似ているのかも。
藤田さん:一番楽しいのは、「これを作りたい」というものが湧き出てきた時。あとは手を動かすだけ。
ひらめきが、おかげさまで今んとこあんまり枯渇してないんだよ。
おもちゃ1つでも無限の種類と楽しさがあるから、飽きないしね。

ー すごい!天職ですね!
藤田さん:(すかさず)だね!!
やっぱり、0から1を作ることが好きなんだよね。
そういう意味では、1を10や100に広げるのが広告屋の本質だと思うから、俺には向いてなかったかも。笑

黙々とモノづくりに没頭する藤田さん

シルバニアで大好きなときわ台を盛り上げたい

ー 藤田さんはただメーカーから商品を仕入れて販売しているだけではなく、メーカーに改善点を提案したり、オリジナルの玩具を作ったり…アイデアマンですよね。
藤田さん:うん、そうだね。メーカーに「ここをこうした方がいい」とかしょっちゅう言ってた。
メーカーからしたら厄介だっただろうね。笑
1/43っていうF1ミニカーのタイヤは俺のアイデアでオリジナルで作ったものなんだけど、これは売れたね〜!
その儲けでモナコもいった。笑
(もう1つのオリジナルの)1/12スケールの瓦屋根は、海外からわざわざ買いに来てくださる方もいるの。
オリジナル、準オリジナルのものがないと、こんな小さな店はやっていけないからね。

藤田さん開発の瓦屋根とタイヤのおもちゃ

ー シルバニアの模型(※)も、藤田さんのアイデンティティですよね。
藤田さん:俺は、シルバニアを作った人すごいと思うよ。
シルバニアは、擬人化できる。鳥獣戯画じゃないけど。
そこに人格を持たせると、おもちゃが動く。だからそれを使って、まちづくりができる。それが面白いんだよ。
俺はある意味そこに乗っかっているだけ。
(※)藤田さんは、ときわ台にあるお店や駅舎などの模型を作り、シルバニアで町を再現している。

ー 依頼されて模型を作ることが多いんですか?
藤田さん:今は、シルバニアの模型を知ってくれる人も増えたから、有難いことに「作ってください」と言ってくれる人もいるんだけど。
でも、基本は勝手に作ってるよ。
この焼き鳥屋さんのシルバニアは近所の店なんだけど、そこの息子2人がうちの息子2人の小さい時に重なって、どうしても作りたいと思って作ったの。応援したかったの。

近所の焼鳥屋さんの模型(現在は店構えを改装している)

ー 素敵です。鳥獣戯画っておっしゃってましたけど、藤田さんの模型にはリアルな町の空気感がありますよね。
藤田さん:やっぱりときわ台って町が大好きだからさ。
俺の模型で町を盛り上げられるなら嬉しいよね。
最初は模型だけ作ってたけど、それだとマニアしか振り向かない。
でも、そこにシルバニアを乗っけることで、みんなが見てくれるようになるんだよ。
駅舎のシルバニアも、これを見に、駅まで来る人がいるんだよ。
取手だとか横浜だとか。こんな嬉しいことはないよ。

ときわ台駅の改札内に飾られる藤田さん作の駅舎模型

死ぬ直前を人生のピークにしたい

ー 藤田さんのお話を聞いて、お店に飾られているおもちゃを見ると、本当にときわ台への愛を感じます。
藤田さん:おもちゃだけじゃなくてね、町内新聞とかも作ってたんだよ。
地域のニュースとか、いろんな人の似顔絵描いたり。全部手書きで。
仕事そっちのけで作ってたね。笑

藤田さん作の町内新聞

ー すごいですね!自発的にですか?
藤田さん:そうだね。もちろん印刷代とかは町内会費から出てるんだけど、俺の稼働はボランティアで。あくまで主役は町民だからね。
あとは、イベントを企画したり。

ー イベント!どんなことやったんですか?
藤田さん:この町のお祭りが、少し中断した時期があって、今のせがれたちが小学校のときに復活しようと思って、3人の親父チームで一緒に企画したの。
あいつらにお祭りを体験させてやりたくて。
再開しよう!となってから、雑誌とかお神輿を用意するわけよ。
俺がイラスト描いて、小学校まで配りにいって。町内の掲示板にも出したりさ。

ー ワクワクしますね。
藤田さん:でも、お客さんが来るか来ないか分からないわけよ。ずっと中断してたからね。
それで当日、土曜日午前中まで学校があって、お祭りが13時からで。
本当に人が集まってくれるのかって、不安じゃん?
もちろん俺らの息子たちは来るんだけど、それ以外はわかんない。
12時半くらいになってもまだ人もまばらでさ、3人でマイク持って町中を周ったの。
で、帰ってきたら、これ俺思い出すと今でも涙しちゃうんだけど、(言葉を詰まらせながら)いっぱい人が集まってたんだよ。
あの感激はねちょっとね、今まで体験した中でも、3本の指に入る。
あれは本当に、嬉しかったね。ああいうイベント作りを、もう1回やりたい。
イベントは面白いよ。
みんなを動かして、それが伝わった時というのは、ものを作る人間の1番の喜びなんじゃないの?
だからモノづくりはやめられないよね。

ー 仕事とかプライベートとか関係なく、ずっと好きなことに熱くなれる姿が本当に羨ましいです。
藤田さん:何でみんなこれやんないのかなあ、と思うもんね。笑
楽しくて仕方ないもん。嫌だと思ったことない。だって、嫌なことしないもん。
朝起きたら、今日何やろう?ってワクワクするの。

ー 最高の人生ですね!
藤田さん:俺ね、死ぬ1ヶ月前がね、人生のピークにしたいの。
(冗談まじりに)だから、俺、まだ死なないと思う。もうちょっといけると思うよ。笑

お店の前で1枚パシャリ。

<取材後記>

このプロジェクトで様々な方々に話を伺い、仕事に向かう姿勢や、生き方に多くのことを学ばせてもらいましたが、取材体験として最も強烈に記憶に残っているのは、この藤田さんへの取材だったと、今振り返って思います。

初めてフジヤへ伺って企画説明や取材依頼をさせていただいた時、「君たちがどんな思いでこの企画をやっているのか、それをきちんと理解して『乗ろう』と僕が思わない限りは取材は受けないよ。それでもいいなら、まずは話を聞かせてもらう。」と、藤田さん。話が弾んで、「じゃあそろそろ写真を...」と中村がカメラを構え始めた時も、「いやいや、まだ良いって言ってないよ」と、一見強く、しかし熱い姿勢と気持ちで私たちと、この企画と、向き合ってくださいました。

「誰にでも入り口は開いているけれど、その場だけではなく、お互いに思いを交換して、大事に思い合った先にもっと熱い何かが生まれる」フジヤというお店も、藤田さんも、それを体現されているような気がします。ときわ台の町も人も、シルバニアも、四目並べも、フジヤに並ぶたくさんのおもちゃたちも、フジヤと藤田さんに愛し愛されている。だから、ここで買うおもちゃは特別。

取材中、一番心に残ったのは、町のお祭りを復活させたエピソードを語ってくださった時のこと。「13時になったらそこに子供達がたくさん集まっていた」光景を、昨日のことのように熱い眼差しで、目に涙を浮かべながら語ってくださいました。その姿を見て、そこから動けないほど体が熱くなったことを今でも覚えています。「このプロジェクトはこんなに熱い思いを、姿を、受け取ることのできるものなのだ。」という高揚感で胸がいっぱいになり、より一層プロジェクトへの思いが募った出来事でした。

私たちも、このプロジェクトも、藤田さんに愛し愛される存在になれていたら嬉しい...そんな風に思います。藤田さん、出会ってくれてありがとうございます!

書き手:野澤 雪乃

フジヤ 店舗紹介

ホビーストア「フジヤ」
〒174-0071 東京都板橋区常盤台2丁目27−9
営業日:営業時間 11:00~20:00 / 日曜・祝日 11:00~19:00
定休日 火曜
電話:03-3960-2829
HP:https://fujiya-hobby.com/

取材/ライター:野澤 雪乃
編集:新野 瑞貴
撮影:中村 創
監修:後藤 花菜

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