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[百万件のクチコミが語るホテル顧客満足度と構造]2.解決するお困りごとについて


はじめに

前回の記事では調査・分析手法などやや技術的な匂いのする話をさせていただきました。いきなり「手段」の話になったわけですが、その「手段」をもって「何をするのか?」がもっと肝心なことです。

「クチコミ満足度調査」は「クチコミ分析」を改善することを狙いとしています。具体的には、前回記事で「クチコミ分析」の弱点として挙げた問題を解決することを狙っています。そのために「満足度調査」で利用される手法を導入します。

今回の記事では、直感的に分かりやすくするため、「クチコミ分析」をするにあたって直面する具体的な「お困りごと」を挙げながらお話を進めてゆきたいと思っています。

まずは「ホテル事業者」のお困りごと、次に「(ホテル選びをする)旅行者」のお困りごと、の順番で進めさせていただきます。

クチコミ活用におけるホテル事業者のお困りごと

観光ホテルレビュー登録件数推移:クチコミ活用気運の高まり

本題に入る前に、私が今回の記事を作成するために収集した全国観光ホテル・旅館利用者のレビュー(クチコミ)件数の年次推移を示すチャートを共有します。なお、「観光ホテル・旅館」の定義については、以下の記事の中で触れております。

あくまで私が収集したレビュー登録数の年次推移であり、公的な統計をチャート化したものではありませんので、あらかじめご承知おきください。とは言え、意図的に新しい年次のデータを収集したわけではありませんので、レビュー登録数の増加トレンドを確認するには有用なものと考えます。

このチャートを共有する意図ですが、2015年以降レビュー登録数が急激な増加傾向にあることをお伝えしたかったからです。2020年~2022年というコロナ禍においては大幅にホテル利用者が減少しているにも関わらず、大きな伸びを示しています。チャートではカバーされていませんが、2023年以降はさらにレビュー登録が増加しているものと思われます。

また、後程お見せすることになるかと思いますが、ホテル別のレビュー件数推移を見ますと、必ずしも右肩上がりのチャートにはなりません。ホテルによっては、レビュー件数が横ばいのケースもあれば、むしろ減少傾向のホテルもあります。

このことは、「レビュー登録数の増加傾向」の背景に「ホテル側による顧客へのレビュー登録誘導」があることを示唆しています。利用者に対し、レビュー登録を熱心にお願いしているホテルもあれば、そうでもないホテルもあることを示唆しているわけです。

それでも全体傾向としては「多くのホテルがレビューを収集する意思を強めている」と、上記チャートが語っているわけです。

収集する以上、活用しているはずです。観光ホテル・旅館で、レビューを活用しようという気運が大きく高まったのはつい最近(2015年以降)のことのようです。やや意外な気もしますが、本記事を公開するタイミングは、偶然ですが、「タイムリー」なようです。

このようなトレンドの中で、全国の観光ホテルがレビュー(クチコミ)活用に何らかの悩み、お困りごとを抱えていると考えられます。以下、想定される「お困りごと」を挙げ、本記事が提案する「クチコミ満足度調査」手法がどのように解決してゆくのか説明してまいります。

お困りごと(1)統計処理にはサンプル数不足

本記事の主な対象を「観光ホテル・旅館」とします。これは自然環境に恵まれ、自然美や豊かな温泉を主な観光対象とする「観光地」に立地するホテル・旅館です。

一方で東京や京都、地方都市の中心部に立地するいわゆる「シティホテル・ビジネスホテル」と呼ばれるホテルもあり、これらも「観光目的」で、しばしば利用されるようです。これらも広義の「観光ホテル」と考えられます。

しかしながら都市の中心部に立地するこれらのホテルは、明らかに上記の「観光ホテル・旅館」とは性質が異なりますので、「観光ホテル・旅館」と同列には扱わず、「シティホテル・ビジネスホテル」と言うまとまりで別途記事を書いてまいります。

明らかに性質の異なる集合を混ぜこぜにして集計、平均値等を算出するとミスリーディングな結果になりかねないからです。

従いまして、当面は「観光ホテル・旅館」に限定して、お話させていただきます。

これら「観光ホテル・旅館」には規模の小さな施設が多く含まれます。

大規模なホテルで積極的にお客様にレビュー登録を誘導すれば比較的短期間でも多数のレビューを収集することができます。多数のレビューをしっかり読み込めば、どのようなことにお客様が喜び、また落胆するのか、ある程度傾向が掴めます。

しかしながら、そもそも部屋数が少ないなどの状況では多数のレビューを獲得することは難しくなります。結果、少数のレビューを手掛かりに、自社ホテルの改善を進めるとなると、果たして打つ手が的を射たものになるかは怪しくなります。

例えば一定期間に収集された10件のレビュー中、アメニティーに関する不満が2件投稿されたとします。しかし、本当に多くの顧客がその改善を望んでいるのか、確信が持ちづらいでしょう。

また10件のレビューの中に、旅館の立地に関する不満が3件含まれているとしたらどうでしょう?旅館の立地を改善するとなると大変なことですが、「
30%もの顧客が改善を望んでいるから」との理由で、大きなコストをかけてでもやるべきことなのでしょうか?

このようにレビュー件数が少ないことで、特定のお客様の声が「レアケース」なのか、お客様満足度に強く影響する「重要メッセージ」なのか?判別が難しくなります。

下のチャートは、今回の記事を作成するために私が収集したデータを集計したものです。

チャートの意味ですが、横軸「レビュー件数レンジ」、縦軸が「ホテル数」となっています。例えばレビュー件数が「3件~99件」に留まっている観光ホテル・旅館数が最大で3606件あり、次いでレビュー件数が「100件~199件」の観光ホテル・旅館数が964件、という意味です。

このレビュー件数の登録時期は2010年~2023年半ばです。と言うことは10年を超える期間に収集されたレビューが100件に満たないホテル・旅館が最も多く、3606件(全体の約60%)ということです。

このような状況では、レビュー件数の少なさがレビュー活用の大きな制約となってしまいます。

ちなみにしばらく先になりますが、いずれシティホテル・ビジネスホテルの分析も行う予定ですが、これらのホテル群は大規模な施設が多いせいかレビュー登録数が多いようです。「部屋数が多いからレビュー数も多い」という理由だけでなく、ホテル側が積極的にレビューを収集しようとしている意思の表れではないかと、あくまで仮設ですが、思われます。

一方、多くの観光ホテル・旅館では、レビュー件数の少なさが、レビュー活用におけるお困りごとの根底にあるように思われます。

その典型が「統計手法が適用できない」ことです。前の記事でも統計処理できないことの弱点に触れました。再度記載しますと「投稿者の個性や感情による情報バイアスの見極めが困難」「全体を見渡すことには不向き」ですが、上で書いていることとほぼ同じ意味ですね。何とかして統計手法を導入したいところです。

お困りごと(2)評価スコア基準が不明

上記の「お困りごと(1)」は自社ホテルのレビュー件数が少ないことが原因ですが、自社/他社ホテルを含むホテル業界全体の統計データが整備されていないことにも悩まされるはずです。

仮にレビュー数を多く集めているホテル・旅館であっても、自社が獲得している評価スコアが満足すべきレベルなのか、危機感を持つレベルなのか、現状では判別するのは難しいです。その判別には基準となるべき、業界全体の統計が不可欠だからです。

全国観光ホテル評価の平均だったり、自社ホテル立地地域の評価平均値、自社ホテル同等価格帯の評価平均値、など自社ホテルを評価する基準(比較対象)が必要です。総合評価に加えて、カテゴリ別評価を分析したい場合は、なおさらです。

全国の評価平均や価格帯別評価平均を算出するには膨大なデータ収集、すなわち膨大な工数が求められます。

ネットに公開されたデータとは言え、大量に収集するには自動プログラムを作成し、データ収集することが現実的です。また対象サイトによっては自動プログラムによるデータ収集が禁止されているサイトもあります。また、禁止されていなくともサーバーに大きな負荷を与えるデータ収集は、サーバーの正常な稼働を阻害しかねません。他人様のサーバー稼働を妨害すれば、必然として責めを負うことになります。

従って、一定以上の技術、法知識が無ければ、害のない自動プログラムは作成できませんし、運用できません。しかもサーバーに大きな負荷を与えないよう運用するには、短時間に大量のデータを取得するのではなく、じっくり時間をかけデータ収集しなければなりません。

つまり自動化したとしても、依然として時間がかかるというわけです。本記事を作成するにあたって百万件を超えるレビューを収集しておりますが、半年ほどかけてのデータ収集でした。

その膨大なデータを分析するにも専門性が求められます。私自身、長年に渡ってexcelを駆使してのデータ分析を経験してきましたが、excelで百万件ものデータ集計をするのは困難です。そこでpythonというプログラミング言語でデータ分析を実施しております。

お困りごと(3)自社ホテル改善に向けた参考取り組み事例の収集

自社ホテルのレビュー数が少なくとも、全国の他社ホテルに寄せられたレビューは膨大で、ネット上で自由に参照可能です。しかし膨大な数のレビューの全てに目を通すことは不可能です。仮に全てに目を通したとしても、それによって何が得られるでしょうか?

そもそも他社ホテルのレビューを参照する目的は自社ホテルの満足度向上です。「自社の弱点の何と何を優先的に強化すべきか?」が曖昧なまま、他社ホテルの好事例を見たところで、自社が取るべきアクションははっきりしません。膨大な情報に翻弄されるばかりです。

やはり、自社の強み・弱みとそれぞれの改善優先度あるいは維持優先度の整理、つまり前の記事で紹介した「CSポートフォリオ」のような整理が必須になります。

前の記事で例示した「CSポートフォリオ」は乗用車に関するモノでしたが、参考までに再掲いたします。

「CSポートフォリオ」を作成し、取り組むべき問題・課題を明確にすれば、欲しい情報が明確になります。欲しいものが明確になれば、それまで漫然と読んでいた他社ホテルのクチコミが途端に宝の山に見えてくるはずです。

ホテルクチコミ活用における旅行者のお困りごと

ホテル事業者にとってレビュー(クチコミ)の分析は業務ですから、ある程度時間を割いてでも良いアウトプットを出すことが求められます。しかし、一般の旅行者にとって、クチコミ分析に時間を割くことは無理があります。多くの場合、週末や通勤時などの時間を当ててのクチコミ分析になりますから、ホテル事業者以上に効率や要領の良さが求められます。

そこで、評価スコア(総合及びカテゴリ別)の活用が不可欠になります。もちろん、ホテル事業者にとっても評価スコアの活用が不可欠ですが、その目的は「分析結果の品質を高める」ことと「改善活動で成果に繋がる分析を得る」こと、つまり業務の品質面にあるのに対し、一般の旅行者は限られた時間内で要領よく結論出しをするため、つまり効率の追求となるかと思います。

お困りごと(1)評価スコア基準が不明

ホテル事業者のお困りごとと共通しますが、評価スコアの全国平均や価格帯別評価平均など基準が無い中で、評価スコアを眺めていても、ついつい高級ホテルに目を奪われたりして、なかなか自分が求める最適なホテル選びに至らないと思われます。

ホテルのクチコミ分析をしているのは、自分自身のみならず旅に同行する大切な家族、友人、恋人との最高の時間、思い出を作る第一歩であり、責任重大です。

特に未来の大切な家族を「得る」か「失う」かに関わる「恋人との旅」の計画には特に人は慎重になるようです。また、良い成果が得られている傾向が私のデータ分析でも判明しています(笑)。しかし、失敗を恐れるためか、予算面でもやや無理をする傾向にもあるようです(笑)。

私は「恋人」を想うあまりの「予算上の無理」は決して責められるべきではないと思いますが、同行者が「奥様」の場合、「奥様」には責められるかもしれませんね(笑)。

お困りごと(2)旅行者のニーズとホテル特性のマッチング

旅の目的、宿泊の目的、同行者、旅行者の性格、等によって求めるホテル特性は違ってくるはずです。

例えば、場所に縛られず仕事をする「ノマドワーカー(ライター・プログラマーなど)」と呼ばれる人たちの多くは同行者なく一人で宿泊するケースが多いと思われます。彼らは清潔な部屋、快適な作業デスク、信頼できるWiFiさえあれば満足でしょう。

一方、同行者が家族で、家族の思い出造りが重要な目的の旅ならば、家族の笑顔を大量生産してくれる温かみがあり、楽しいスタッフがいるホテルに泊まりたいと思うでしょう。

それぞれのニーズに合致したホテルを選ばないと「楽しいはずの旅行が。。」となりかねません。どんなカテゴリでどんな評価を受けているホテルがどんな特徴のホテルなのか?それを知る手がかりとして、評価スコアの読み解きが役に立ちます。

評価スコアの読み解きで候補ホテルを絞ったうえで、高評価・低評価を付けた評価者のフリーテキストを確認。そうすることで最高な旅行計画が可能、と言うわけです。

しかしながら、評価スコアの読み解き方をガイドしてくれるものは現状見当たりません。なので、本記事が提供してまいります!

お困りごとの解決策

私が本記事で提唱する「クチコミ満足度調査」による上記「クチコミ分析のお困りごと解決策」は、改めて言うまでもありませんが、「満足度調査」手法の導入です。

「満足度調査」の根幹を成すのは統計手法です。統計手法は大量のデータを前提にしています。しかしながら、上記の通り、ほとんどの観光ホテル・旅館は統計手法の対象となり得るほどの大量のレビューを保有していません。

そこで、分析対象は個別のホテルではなく、「同一特性を持つホテル群」とします。例えば下記のイメージです。全データ(ホテル)中、最安料金が¥10K(1万円)未満のホテル群をA、¥10K以上¥20K未満のホテル群をB、
¥20K以上のホテル群をCとして、それぞれに属するレビュー群に対して統計手法を適用するというものです。

仮にA領域の自社ホテルの総合評価が3.9で、A領域の平均が3.7であれば、自社ホテルが平均水準以上にあると考えられます。しかしながら、B領域の平均が4.2であるなら、自社ホテルの料金値上げには慎重にならざるを得ない、等の考察ができます。

分析方法のさらなる詳細については、具体的な分析をして行きながら説明してゆきます。

下のイラストは充分なデータが無い状況で、恋人との旅行計画に四苦八苦する青年の姿です(笑)。

補足:
◇ 記事で使用されている図表はexcelまたはpythonコードで作成しています。
◇ 記事で使用されているイラストはDALL-E(chat-GPT)を利用し作成しています。


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