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『AV出演は「トラウマの再演」?「複雑性PTSD」の謎』2022-05-27

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AV女優を議論から排除するフェミニスト

 いわゆるAV新法の議論に伴い、フェミサイド(side)からのAV女優に対する偏見の垂れ流しが酷くなっている。これに対して、5月22日新宿でのこうしたフェミニストに対するカウンター抗議行動、5月26日での国会での院内集会などが行われている。
 セックスワーカーは、これまで「本物の」差別によって、なかなか声を上げることができなかった人達だ。同じことを自称しながらも本当は上げ放題だった「女性」「フェミニスト」とは全く違う。本当に声を封じられてきた人たちが、ようやく反論の声を上げている。

 特に酷いのが、「AV出演対策委員会」なるグループ代表を名乗る郡司真子というフェミニストである。筆者が勉強会に潜入した「AV業界に有利なAV新法に反対する緊急アクション」の呼びかけ人にも名を連ねている。
 郡司氏は自分達の主張に都合のいい「被害者」になってくれない女性やセックスワーカーの発言を遮断し、彼らを「議論のテーブルにつかせてはいけない」と、当事者抜きで議論を進めることを主張している。

 この人物・発言の酷さについては来殿ベルさんが女性としての立場から強く批判している。

 私は、少し別の角度からこの郡司真子の発言を批判して行きたい。

 この人物は、AV女優が自ら望んで出演する事実を認めない。
 もちろん実際には、AV人権倫理機構の管理下のもと、出演者はその意志を厳重に確認されて撮影に臨んでいるし、幾人もの女優さんがSNS上でそのことを表明している。
 しかし郡司氏にとって、そんなものはノーカウントである。
 なぜならAV女優の出演意志は真の主体性ではなく、ただの病気に過ぎないからだというのだ。

自ら志願した人に関しても、上記の特性及び、複雑性PTSD、性化行動、性的自傷、トラウマの再演により、自ら進んで傷つく体験を求めて行動することが、精神科医療の研究では、明らかにされています。契約時に、逆境サバイバー、性暴力被害者、DV被害者、家出人などは、容易に関係性の依存を発症します。発達障害、ASD、ADHD、LD、境界知能、知的障害、逆境体験、DV、性暴力被害者と契約してはいけないという縛りが必要です。

複雑性PTSDの症状でAVを志願する人は、AV出演ではなく、医療へ繋ぐ必要があります。自身のトラウマの再演に気づかず、撮影を行った場合に、さらなるトラウマを負い、複雑性PTSDの症状が悪化し、自死に至る危険性があります。経済的困難を理由に志願する場合は、各自治体の福祉支援に繋ぐことを出演よりも優先しなければいけません。

複雑性PTSDに気づかず出演した場合、トラウマ再演による更なるPTSD悪化の可能性が高くトラウマインフォームドケアが必要となります。また、契約時に問題が発見できなかった人も、性行為を行う撮影で、容易にトラウマやPTSDを発症することが、臨床的に明らかになっています。

AV出演対策委員会 撮影被害当事者声明

経済的貧困理由の場合は、まず、自治体などの支援に繋がる必要があること。 AV業務は、性依存、トラウマ再演、複雑性PTSDを発症する可能性が高く……

色管理 歌舞伎町に吸い取られる

 私が気になったのは、複雑性PTSDという言葉だ。

複雑性PTSDとは?

 実は郡司氏がいう「複雑性PTSD」というのは、まともな医学的知見ではなく、トンデモ医療に基づいているのである。

「え? だって世界的に認められている診断基準の『ICD-11』にも載ってる病気でしょ?まともな意見なんじゃないの?」

 と思うかもしれない。
 確かに、複雑性PTSDという「名前は」載っている。

 順を追って説明しよう。

 PTSDという言葉は比較的有名である。
 Post Traumatic Stress Disorder(心的外傷後ストレス障害)の略で、死や強姦などの非常な危険などに直面した後、精神的な不調をきたすこと――ぐらいの理解は一般人にもあるのではないだろうか。

 郡司氏は「AV業務は、性依存、トラウマ再演、複雑性PTSDを発症する可能性が高」いという。
 しかしAVの撮影がなぜトラウマをもたらすのだろう。
 もちろん、本当に暴漢グループに拉致でもされて無理やり強姦され、それを撮影されてネットに動画を流された...…というのであれば、それは立派なトラウマ体験となる。しかしそんなのはAVとは言わない。ただの犯罪動画だ。
 AVは合意のもとで演技として行われるものだ。たとえ作中で強姦や盗撮として描かれていても、それはお話の中の出来事であって、ミステリーで人が殺されるのと同じである。
 お話の中で演技として行われた「死の危険」が本当に演者にPTSDをもたらすというのであれば、アクション映画や特撮ヒーロー番組はPTSD量産コンテンツになってしまう。

 実のところ、上の引用で郡司氏は、AV業務が「発症させる可能性が高い」と、AV業務が原因でPTSDになるかのように言っているのに対し、前者では逆にAV業務がPTSDの結果のごとく言っている。
 郡司氏にしてみればAV女優にビョーキのレッテルを貼れればそれでいいのであって、原因か結果かなど大した興味がないのかもしれない。

 では両方とも検討しよう。
 複雑性PTSDがAV業務の原因だと言う説、つまり「AV女優になりたがるなんて複雑性PTSDだ、トラウマの再演だ」という意見は妥当なのだろうか。

 精神疾患の分類は、国際的に認められているものが2種類ある。
 アメリカ精神医学会が作成しているDSM(精神疾患の診断と統計マニュアル)とWHOが作成しているICD(国際疾病分類)だ。
 このうちDSM-5では「複雑性」PTSDという病名は認められておらず(単なるPTSDはある)、ICDでは最新版のICD-11になって初めて病名として登録された。

 そのICD-11では、診断基準は次のようになっている。
 要するに『必須の特徴』として「極度の脅威や恐怖を伴い、逃れることが難しいか不可能と感じられる」出来事を経験していなければならないとされているのだ。

後藤内科医院HP「複雑性PTSDについて」より

 しかしそこまで凄惨な過去を持っているAV女優が、多少多いくらいならまだしも、軒並みそうだというのは、いくら偏見にしても極端だ。本人に否認されれば一発で偏見だとバレしまう。

 ここで、
「……待て、郡司氏が言ってるのは普通のPTSDではない。『複雑性』PTSDじゃないか。複雑性っていうくらいだから、普通のPTSDと違って症状も原因ももっと分かりにくい、ちょっとした微妙なことだったりするんじゃないの?」
 と思うかもしれない。

 実際、郡司氏の発言では「複雑性」PTSDであれば、本人さえも気づかないうちにAV女優になる選択の原因になってしまっていると言わんばかりだ。「複雑」なのだから表面的には分からなくても仕方がない、後から言い出しても仕方がない、証拠が無くても仕方がない。
 だからAV女優は自分が病気を良いことに性搾取されていると『気づけない』のだ...…というのがフェミニストの言い分である。

 ところが実際ICD-11の規定についての解説を見てみると、複雑性PTSDの理由となるトラウマ体験が「普通のPTSDよりも、ちょっとしたことであっていい」と取れる規定は、まったくない

複雑性PTSDについて

  つまり複雑性PTSDとは、普通のPTSDの基準を満たしたうえで、さらに特別な症状がある場合を指す言葉なのだ。
 普通はPTSDとは言わないような軽微なこと、本人も気づかないか忘れているようなことでもホイホイ認定して良いというようなものでは、まったくないのだ。

 ……そして、もうひとつ重大な疑問点がある。

「トラウマの再演」はどこ行った?

 『複雑性』PTSDならではの「特別な症状」をよく読んでみると、おかしなことに気付く。
 ICD-11に準拠した資料を読んでいくかぎり、郡司氏がAV出演の原因として強調する「トラウマの再演」なる用語、あるいはそれに該当しそうな症状が影も形もないのだ。

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