AV新法反対「緊急アクション」にある"差別の論理"~郡司真子さんの問題ツイートから~
皆様、こんにちは。
来殿ベルと申します。今回はTwitterで議論になっているAV新法反対運動について、私が感じたことを述べたいと思います。
AV新法問題については、次の手嶋さん・ヒトシンカさんのnote記事が参考になります。ぜひご一読を。
(と言いつつ、背景の説明をサボる私……!)
では、さっそく問題に入っていきます。
まずは、こちらをご覧ください。「AV業界に有利なAV新法に反対する緊急アクション」(以下、「緊急アクション」)の呼びかけ人の一人であり、AV出演対策委員会に務める郡司真子さんのツイートです。
私は、「このツイートは、ずるい言い方をしている」と感じました。すぐに2つの疑問が頭に浮かびました。
①「強者で被害者に二次加害するような自称当事者」「被害を矮小化させたい勢力」とは誰のことでしょうか?
②その人のどの発言が、実際に「二次加害」や「被害の矮小化」だったのでしょうか?
上の郡司真子さんのツイートからは、この①②の具体的情報が全くありません。
つまり、証拠となる事実を挙げずに「あいつらの中には悪い人がいる」と匂わせているだけです。
確かに、郡司真子さんのツイート内容自体は、嘘ではないのかもしれません。
AV新法に関しては、数多くの当事者が問題意識を持ち、SNSを通じてそれぞれ意見を述べていらっしゃいます。多種多様なそれらをつぶさに探せば、「二次加害」や「被害の矮小化」に該当する意見もあるにはあるでしょう。
『攻殻機動隊』の草薙素子さんが言うように、ネットは広大ですから。
そうした問題のある意見に関しては、論敵からの指摘・批判を待つのではなく、自分たちの中でも積極的に自浄作用を働かせていく必要もあります。それは認めましょう。
ですが、郡司真子さんのツイートには隠された問題が存在します。
実は、「こちら側」からも郡司真子さんら「緊急アクション」側に対して同じ指摘・批判ができるのです。
例えば、私は嘘偽りを使わず次のような見解を述べることが可能です。
……いかがでしょうか?
方向性を逆にしつつ、郡司真子さんと同じ「ずるい言い方」を意図的に使った文例です。
一文一文は「真実」であり「正しい話」であっても、切り抜き方によってがらりと様相が変化します。どうとでも言えてしまうのです。
この論法を積極的に活用したことで知られるのが、いわゆる「ネット右翼」の人たちです。
彼らは「在日外国人には悪い人もいる」(=不逞外国人がいる)という論法で、「私たちはあくまでも"不逞外国人だけ"を問題視しているのだ」と言い逃れしながら、しかし間違いなく在日外国人全体に対する差別を助長していました。
この「不逞外国人論法」と郡司真子さんのツイートの論は、証拠なく一部の人々の「(一定以上の人数がいれば必然的に生じる)悪い人」を取り出し、相手の属性全体を代表させるように匂わせる点において、まったく同じだと言えます。
では、このような不当・不誠実な論法に陥らないためにはどうしたらいいのでしょうか?
答えは既に述べている通り、次の①②を具体的に示すことです。それが健全な批判です。
具体的な証拠もなしに「敵対者」を非難すれば、ネット右翼の人たちと同じになります。つまり、言い逃れする道を開けておきながら「敵対者」のイメージダウンを誘うずるい論法だと評価されます。当然です。
以上を踏まえて、もう一度、ツイート本文を読んでみましょう。
「被害者に二次加害するような自称当事者」が悪いのは当たり前です。それは、「嘘または非常に誇張したAV被害を申告するような自称被害当事者」が悪いのが当たり前であることと同じです。
しかし、いくら(前者でも後者でも)「多くの人の中にはそういう人もいる」と考えられるからといって、具体的な証拠なく、また「自称当事者」のうち何%がそうなのかという比率の情報もなく、ただ敵対者の「悪さ」を印象付けるのは、本来フェミニストが戦うべき「差別の論理」そのものであるはずです。
郡司真子さんが誰のどの発言を念頭に置いているのか分かりませんが、その発言は本当に「二次加害」や「被害の矮小化」を目論んだ内容なのでしょうか。
具体的な証拠がないことで、第三者による検証の道が閉ざされている以上、その信頼性は低いと言わざるを得ません。
少なくとも、本件で「緊急アクション」に対して否定的な意見を表明した現役または元セックスワーカーの月島さくらさんや七瀬アリスさん、中山美里さん、早瀬ありすさんの主張に関しては、私は「二次加害」や「被害の矮小化」にあたるような文章があるとは思えませんでした。
郡司真子さんにとって、たとえば上で挙げさせて頂いた4名は、議論のテーブルにつく資格があるのでしょうか。それとも、無いのでしょうか?
また、「議論のテーブルにつく資格」を決定するのは郡司真子さんでいいのでしょうか。4名の当事者性よりも、郡司真子さんの判断のほうが正しく、優先されるという理由は何でしょうか? 不当な排除にならないという保証はどのように担保しますか?
こうした問題が解決されなければ、「自分たちに反対するような都合の悪い当事者の声は聴きたくないし、聴かない。二次加害者・被害の矮小化をする人というレッテルを貼って、議論の場からだって排除してやる」という、セックスワーカー当事者に対する暴力的な差別性だけが残るでしょう。
そうして、ハートクローゼットの件で誹謗中傷が集中し、当事者の方々が「自分もこんなに非難されてしまうんだ」と思って声を出せなくなったように、郡司真子さんの発言も、当事者の声を抑圧するものです。
「緊急アクション」にはセックスワーカーへの差別を感じるとして、当初はその呼びかけ人の一人として名を連ねていた石川優実さんは、反対運動から脱退する旨を5月22日にツイートされました。
AV新法問題は色々と難しい問題を含んでいます。
反対・賛成または他の立場を採るにせよ、当事者の声を大切にして、慎重に検討することが必要です。特に意見の異なる人々へのレッテル貼りや排除は厳に慎むべきでしょう。それは決して生産的な議論にならず、当事者を救いません。
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