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【イエス・キリスト像】

 キリスト教の教祖像。
 本来キリスト教も聖典としている旧約聖書に、有名な「モーゼの十戒」として偶像崇拝の禁止が明記されている。

あなたは自分のために、刻んだ像を造ってはならない。上は天にあるもの、下は地にあるもの、また地の下の水のなかにあるものの、どんな形をも造ってはならない。(旧約聖書「出エジプト記」20章4節)

 この禁止は4世紀のローマ帝国によるキリスト教公認、それにともなう広範な布教活動のなかでイエス像・マリア像が使われ、厳密には守られなくなっていった。
 しかし7世紀に東ローマ帝国と隣接する西アジアでイスラム教が勃興すると、彼らはキリスト教の偶像崇拝を厳しく批判するようになり、その影響でキリスト教内部でもいわゆる「聖像崇拝論争」が発生した。
 726年、東ローマ帝国皇帝レオン3世が聖像禁止令を出し「聖像破壊運動(イコノクラスム)」が広がった。聖像禁止令は787年の第2ニケーア公会議で廃止されたもののその後復活し、843年に最終的に廃止された。ただし立体像は相変わらず許されず、平面像のみが許されるとした。
 この聖像崇拝問題はその後も現れる東西教会の様々な対立要素のはしりとも言えるものであり、最終的には教会の東西分裂(大シスマ)へと発展することになる。

 それとは別に、現代ではキリスト像のイメージが「白人中心主義的」であるという批判が起こっている。

 2001年にBBCは「神の子」と題したドキュメンタリーで、法医人類学者リチャード・ニーブ氏の協力のもとで「当時のガリラヤ地方の男性の顔」を再現してみせた。色の浅黒い、現代でも中東の人といわれて納得する外観である。

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(「【寄稿】イエス・キリストの本当の姿は?長髪にひげは本当か」より)

 一般的にキリストの姿としてイメージされがちな「長髪と髭」「白めの肌」「ゆったりとしたローブのような服」をまとったキリストの姿は、主にビザンチン期のキリスト教美術に由来する。そしてその源流となっているのは古代ギリシア美術の主神ゼウスのイメージだと言われている。初期のキリスト教徒が残した図ではキリストに長髪や髭は描かれていない。

 Newsweek日本版「イエス・キリストは白人から黒人に戻る?」によれば、様々な文化でのキリスト教会を訪問した経験があるイギリスのカンタベリー大司教ウェルビー氏によると「イエス・キリストの姿は、文化、言語、解釈の数と同じだけさまざまな描写がある」「白人のキリストではなく、黒人や中国人のキリストもいる。アラブ系のキリストの姿もあって、それは最も本物に近い」という。下記引用も同記事から。

 宗教機関による描写の再検討に加えて、教会の敷地内に設置されているキリスト像やその他の歴史的人物のあらゆる彫像の必要性を見直す時が来た、とウェルビーは語った。カンタベリー大聖堂やウェストミンスター寺院のような場所に現存する多くの彫像を残すかどうかは自分が決めることではないが、すべてを残す必要があるかどうかは議論の余地がありそうだ、と彼は言う。

 しかし世界各国の人々がキリストを自分達に寄せて描いているなら、当然ビザンツ帝国の芸術家たちがゼウスやキリストの像をそうしたのも正当だったことになるし、破壊や撤去の対象になる筋合いはないとも言えるだろう。

 2020年6月22日、反人種差別を標榜する運動「BLM」の活動家ショーン・キングは、ツイッターで「肌の白いヨーロッパ人」としてキリストを描いた「彫像、壁画、ステンドグラスなど」を破壊するべきだと宣言した。これに対し、ニューヨークの黒人牧師はキリスト像破壊の呼びかけを批判し「BLMの暴力行為は中国共産党が引き起こした文化大革命のよう」だと指摘した。
 トランプ米大統領は同月24日、キリスト像を含む歴史上の人物の像破壊に対して警告を発し、国防総省は州兵400人を待機させた。

参考リンク・資料:

キリスト像の撤去まで求める過激な主張の根拠──黒人差別反対運動

イエス・キリストは白人から黒人に戻る?

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