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【ポリコレカードバトル】

 ネットスラング。
「ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)」による援助や救済の不平等性を、トレーディングカードゲームに喩えた表現。

 アメリカ発祥の価値観であるポリティカル・コレクトネス(以下ポリコレ)はその理想に反し、実際には人種や性の平等を追及しておらず、その支持層が特に注目したり支持している特定の「属性」に肩入れしているだけである――という不平等性はよく指摘されている。
 たとえば同じ「非白人」(白人を排除すること自体が差別的であるが)であっても黒人の方が東洋人よりもポリコレに可愛がられているため、アジア人に対する人種不平等の是正は黒人よりも劣後するなどの問題が発生している。
 特に貧困層で社会的困難を抱えているにもかかわらず、ただ白人であるというだけで「ポリコレ」に洟も引っかけられないどころか邪悪視すらされる「プア・ホワイト」達の不満は、現代の社会的分断の大きな原因とされている。

 またいわゆる特殊性癖の持ち主についても、ゲイやレズビアンには特別に【性的指向】というカテゴリーが与えられ、SMファンやロリータ・コンプレックスといった嗜好とは異なる特別な政治的地位が(しばしば前者は生来のものだという疑似科学的説明がついて)与えられている。
 その一方でロリータ・コンプレックスやフィクトセクシャル(いわゆる「二次元萌え」に近い)の者は、しばしば児童虐待者と故意に混同され、負のレッテルを貼られている。

 これらの結果として特別な「ポリコレ」属性を持つ者が、社会的テーマの議論を自己に有利に進められたり、批判を差別問題にすり替えることができる。
 こうした不平等はポリコレ支持者内部では【権力勾配】として正当化されているが、外部の者からすれば単なる理不尽そのものであり、まるで運営会社によって強制的に設定されるゲームカードの強弱に酷似している(ただし、ゲームの運営会社によるカードの強弱調整は、あくまでゲームの面白さと公正性を担保しようとするものであることが「ポリコレ」とは違っている)。

 実際に本物のカードゲーム『Antifact』が「ポリコレ」による変更を余儀なくされたことがある。すでにこの時ネット上ではポリコレそのものがカードバトルのようなものだという意見が登場しており「ポリコレカードバトル」という名称も使われている。

57: 風吹けば名無し 2018/09/29(土) 13:20:49.44 ID:sbvjY0vsdNIKU
ポリコレカードバトルやからな
敵を見つけて先制攻撃や

【悲報】ポリコレさん、ついにTCGのカードの属性にも目をつけてしまう

 2022年の3月28日、アカデミー賞授賞式で司会のクリス・ロックが、出席者ウィル・スミスの妻ジェイダの脱毛症を揶揄するジョークを発し、これに立腹したウィルが、ロックに歩み寄って平手打ちを食らわせたという事件が発生した。
 日本では「女性を守る男性」という図式からウィル・スミスの行動には支持もしくは許容する意見が多かったが、本国アメリカではウィルの側が批判された。
 この違いの説明としてなされたのは、暴力に対する温度差ではなかった。
 むしろ二人とも黒人であること、ウィル・スミスがクリス・ロックより「格上の芸能人」であり『大衆に妬まれるセレブ』的立ち位置であることなど、二人が持つ属性を要因とする説明がなされていた。
 こうしたアメリカの芸能界特有の事情は日本には伝わりにくいものであるため、一見して伝わりやすい「ジェイダは女性・病人である」「クリスは男性である」ことのみが着目され、日本ではウィルに軍配が上がっていた。
 つまり認知されていた「カード」の違いに過ぎなかったわけである。

 その後、4月5日にクリスが実は「非言語性学習障害」と診断されていたことが報じられると、まるでカードゲームでいう「伏せカードをオープン」するかのような属性の後出しと受け取られ、この語はTwitterのトレンドに躍り出たのである。
 さらに直後、ウィル・スミス自身もADHD(注意欠陥多動性障害)の病歴があることを述べ、ますますカードゲーム感が深まった。

 ただし注意しておかねばならないのは、自己の「政治的に正しい」属性の開示が常に「ポリコレカードバトル」と揶揄されるべき卑しいものであるわけではない。
 たとえば他者から属性を誤って決めつけられ、訂正情報として属性を告白する場合には、ポリコレカードバトルに当てはまらない。
 よくある例としては、フェミニストがあるイラストを「おっさんの欲望丸出しの性差別表現」とフェミニストに決めつけられ、【作者は女性】だと訂正される場合がある。
 このような応酬は単なるレッテルとその訂正であり、実際にそれで作者が叩かれづらくなるとしても、訂正者はポリコレカードバトルをしているわけではない。

 ポリコレへの揶揄的比喩としては「気に食わない相手への攻撃手段に過ぎない」という意味を込めた『ポリコレ棒』という言い方もよく使われる。

参考リンク・資料:

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