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【A DAY IN THE AICHI】

 カンパニー松尾監督による2019年作品。
 愛知県の30名以上の地元民とのインタビューで構成されるドキュメンタリー映画で、カンパニー松尾は同県出身のAV監督である。かの”あいちトリエンナーレ2019”の出展作であるが、その中の企画展「表現の不自由展・その後」とは無関係。
 本作そのものは問題作でもなんでもなく、あいちトリエンナーレ2019でも無事に公開された。

本作完全版(ウェブサイトより)

 2019年11月、岡本有佳・アライヒロユキ編『あいちトリエンナーレ「展示中止」事件 表現の不自由と日本』が出版された。

 同書の中でフェミニストの北原みのりが本作をバッシングし、このようなものを「表現の自由」に含めるのは「形式論」であると否定している。

 彼女にとって、本作のどういった所がいけなかったのかというと、「ハンディーカムを片手に、生まれ育った愛知にゆかりのある人々に対し、一対一でインタビューを繰り広げる」ところだという。

 ??? もちろん、これだけでは何がおかしいのか全くわからない。
 なぜそれがいけないのかというと、監督がAV監督で、インタビューするのもAVによくある女優インタビューと似た手法だというのである。

 性暴力をも「表現」に取り込む形式論
 あいちトリエンナーレ2019のHPをみていたら、カンパニ―松尾という男性監督による作品(AVではない)が出展されていることを知った。女性を殴り、怒鳴り、顔に吐瀉物を吐き散らす暴力的なAVをつくるバクシーシ山下と同じメーカーで働き、共同作品もある仲間である。この男性監督に、あいちトリエンナーレは今回新作を依頼していた、出品作品は、“ハンディーカムを片手に、生まれ育った愛知にゆかりのある人々に対し、一対一でインタビューを繰り広げる(HPより)”ものだという。
 それはまさにハンディカム片手に女性と一対一になり、女性をインタビューし、自ら性交するという、この監督の得意な表現方法そのものに見える。あいちトリエンナーレは、AV撮影の手法で一般作品をつくってほしいという依頼をしたようなものだろう。公式HPでは「「動物として欲し、人間として愛す」矛盾を記録」「欧米とは明らかに違うアジアの性愛について考える上で重要な作家」ともっともらしい評価がなされているが、それは“欧米の人権感覚”で「日本のポルノ」をジャッジするなという牽制としか読めない。そもそも「アジアの性愛」と一括りにする雑さも含め、この監督の起用は、AVをカルチャーとして消費し、嗜好している側の発想だ。
 AV業界からの被害を訴える女性が声をあげたのは二〇一五年だった。その声によって、次々に「私も被害にあった」「ネットに出回っている作品を削除したい」という声が大変な勢いで支援団体に届いている。最初の声から四年、まだ被害の実態も全容も明らかになっていない状況で、男女平等を掲げるあいちトリエンナーレで、AV監督に仕事を委嘱するような“挑戦”“挑発”が必要だったのだろうか。

岡本有佳・アライヒロユキ編『あいちトリエンナーレ「展示中止」事件 表現の不自由と日本』岩波書店

 断っておくが同書は表現の自由を尊重する方向であり、『A DAY IN THE AICHI』をバッシングしているのは北原みのり唯一人でる。

インタビューするなんてAVみたい」という、この明らかに無茶苦茶などうでも良すぎる共通点のほかは、彼女が敵視するバクシーシ山下氏と同じ会社にいたAV監督の作品だからという、過去の仕事を理由にした排除論しかない。のちの【#ラブタイツ】叩きでフェミニスト達が「男性向けのエロイラストも描いてた絵師だ!」といって参加イラストレーターを攻撃したことを彷彿とさせる。
 これが純度100%の差別であることは論を待たない。

 重ねていうが同書は(「表現の不自由展・その後」そのものと同じく党派的に「左翼」的価値観に偏ってはいるのだが)あくまで展示中止事件を批判し、表現の自由を訴える内容の本である。
 その寄稿者たちの中にあって「こっちの作品は気に入らない、トリエンナーレに入れるべきじゃない」と場違いな叫びを上げているのは、後にも先にも北原ただひとりである。他にそんなことをしている寄稿者はいないし、そんな仕打ちを受けている作品もない。
 フェミニズムというものがいかに自由にも反差別にも役立たずであるか、その一つの事例であったと言えるだろう。

 本作はのちに編集・追録をくわえ『A DAY IN THE AICHI 劇場版さよならあいち』として劇場公開されたほか、『A DAY IN THE AICHI 完全版ただいまあいち』として期間限定での有料配信もされた。
 そして「ただいま」の売上は、コロナ禍で苦境にあるミニシアターやライブハウス支援のために寄付されている。

参考リンク・資料:

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