「蛇の道」鑑賞後メモ

 洗練されたサスペンス・スリラー映画でありながら、程よい塩梅でユーモアも挟まれる手際の良さ。質のいい刃物がほんの少しの力だけで体内に侵入してくるかのように、作品のトーンは決して重くなりすぎないのにも関わらず鑑賞後にはドープな余韻が忘れがたく残る。外→監禁用の建物→病院→外→再び監禁用の建物、といったような流れでミニマルな場面の展開がなされていく非常にシンプルな構成でありながら、ひとりずつ増えていく登場人物それぞれの思考のすれ違い方は絶妙で、「真実」と「虚実」のレイヤーが積み重なっていく。それによって、復讐劇をベースとしたサスペンス・スリラーの下地が出来上がっていくが、それと同時に今作の主人公に新島小夜子(柴咲コウ)という存在が据えられることで、登場人物の男性たちが勘ぐり合い、傷つけ合う様を俯瞰した視点から冷静に見つめるサイコホラー的なムードも漂い始める。その構図は映画全体の演出を手がける監督と、役者陣との関係性を表すものとしても読み取れそうだ。手を汚すほどに心身ともに「強さ」を少しずつ獲得していくかのようなアルベール(ダミアン・ボナール)、そして死体に刃物を突き刺す瞬間だけ強い感情を露わにする新島小夜子が象徴するように、仇を討つというようなヒロイックな復讐を描くのではなく、復讐の快楽性そのものを取り出してみせている。

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