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地域おこし協力隊~地方起業と地方創生の新たなカタチ~

(1)はじめに


今回のトピックは、「地域おこし協力隊」

"地域おこし協力隊"、この言葉を耳にしたことがあるでしょうか?

総務省が管轄するこのプログラムは、若者を中心に地方へ隊員を誘致し、地域の活性化を目指しています。多様なバックグラウンドを持つ協力隊員たちは、各地域で活躍し、地方の魅力を再発見/発信し、地域の可能性を最大化するために尽力しています。

そして、隊員の中には自身が起業家となり地域の振興を図る者も増えており、このような形態での地方起業は、個人事業主や一人会社の形態で従業員を雇わない若しくは家族経営などの形をとることも多いです。

本記事では、地域おこし協力隊の概要から、隊員による起業の可能性、そして今後の更なる普及の可能性などを解説します。

記事の詳細は、以下をご確認ください。

(2)地域おこし協力隊とは?

地域おこし協力隊は、地方自治体が地域資源を活用した取組みを推進するため、その計画に賛同し活動を行う意欲ある人材を募集・配置する制度として総務省により設立され、2009年より制度化

制度の目的は、地方自治体の地域おこしの取組に対する支援と、新たな住民や活動人口を地方に呼び込むことにある。具体的には、地域資源を活用した地域おこしの取組みを推進し、新たな住民や活動人口を地方に呼び込むことを目指している。

そして、隊員の中には、地域資源を活用した観光事業を立ち上げる者、地元産品のブランディングを手掛ける者など様々なバックグラウンドを持つ人々が存在。彼らは地方自治体や地域に対して新たな視点やアイデアを提供し、地域の振興に寄与するとともに、地域とともに自らも成長していくことを期待されている。

このように、地域おこし協力隊は地方創生の一翼を担う存在であり、地方の振興と個々の隊員の成長を両立させるという重要な役割を果たしている

(3)地域おこし協力隊の給料など

地域おこし協力隊は以下のような特徴を有する。

●隊員の約6割が男性/4割が女性
●隊員の約7割が20代~30代
●隊員の任期は約1年~3年
●任期終了後、約65%が同じ地域で定住
●任地と出身地が同じ割合:28%(すなわち、出身地ではない場所での就労ケースが多く72%)
●配偶者の有無:有・同居→25%、有・別居→11%、無→64%
●子供の有無:有・同居→12%、有・別居→11%、無→77%
●総務省が、隊員1人につき報償費等として年間280万円(各隊員の給与相当分)、活動費(活動旅費・消耗品費・事務的な経費・研修等経費など)として年間200万円をそれぞれ上限に地方自治体に対して交付
●総務省は令和8年度に「地域おこし協力隊」を10,000人に増加予定(令和4年時点で約6,400人)

出典:令和5年度 地域力創造グループ施策について(総務省 地域力創造グループ)

(4)都道府県別隊員数

上位5団体は以下の通り(%は、全国に占める各都道府県の割合)であり、
上位5自治体で、全体の約1/3を占める

1位:北海道(943人、14.6%)
2位:長野県(421人、6.5%)
3位:福島県(281人、4.4%)
4位:高知県(270人、4.2%)
5位:新潟県(253人、3.9%)

出典:令和4年度 地域おこし協⼒隊の隊員数等について
(総務省 地域⼒創造グループ地域⾃⽴応援課)

(5)地域おこし協力隊による起業

定住した隊員の就労状況の特徴は、「地域おこし協力隊の定住状況等に係る調査結果概要」を踏まえると以下の通り。

●任期終了後、約65%の隊員が同じ地域に定住
●同一市町村内に定住した者は4,292人であり、内訳は以下の通り。
 - 約42.4%(2,174人)が起業
 - 約38.4%(1,970人)が就業
 - 約11.6%(593人)が就農・就林等

●また、数は多くはないものの、1.1%(57人)が事業承継を実施

出典:令和4年度 地域おこし協⼒隊の隊員数等について
(総務省 地域⼒創造グループ地域⾃⽴応援課)

また、起業に際しては個人事業主や一人会社など、従業員を雇用せず小さく始める起業形態や家族経営の形態が多い。

(6)地域おこし協力隊による起業時の業種選択動向

以下の業種が多いものの、「その他」が40%占めるように、多様な起業機会が見込まれる。これは、自己の趣味や夢などを実現する手段の一つとして機能しているとも捉えることができる。

【代表的な起業時の業種】
- 飲食サービス業(古民家カフェなど)
- 宿泊業(ゲストハウスなど)
- 美術工芸、デザイナー、写真映像業など
- 小売業(パン屋、移動販売、農作物通販など)
- 6次産業(ジビエなど食肉加工など)
- 観光業(ツアーガイドなど)
- まちづくり支援業(地域ブランド作りなど) など

出典:令和4年度 地域おこし協⼒隊の隊員数等について
(総務省 地域⼒創造グループ地域⾃⽴応援課)を当社加工

(7)都道府県別定住率ランキング

全国平均の定住率(任期終了者数に占める定住者)は65.4%
定住率が70%を上回っている自治体と、60%を下回っている自治体に整理した結果は以下の通り。
(※ 東京都(85.7%)と大阪府(100%)は、サンプル数の少なさや都心性を考慮して除外した)

【定住率の高いランキング上位の都道府県】
1位:山口県(78.9%)
2位:静岡県(77.6%)
3位:北海道(73.7%)

4位:広島県(72.7%)
5位:石川県(72.0%)
6位:熊本県(71.8%)
7位:栃木県(70.6%)

出典:令和4年度 地域おこし協⼒隊の隊員数等について
(総務省 地域⼒創造グループ地域⾃⽴応援課)を基に当社作成

自治体による定住率の差異は様々な要素が複合的に影響するもののではあるが、例えば以下のような理由が考えられる。

1. 生活環境:
住環境や教育環境、医療環境など、生活の基盤となる環境が整っている地域では、隊員が定住しやすいと考えられる。
2. 地域の魅力:
文化的な魅力や自然環境など、地域独自の魅力が高い地域は、ビジネス化にも繋がり易く隊員が定住しやすいと考えられる。
3. 地域コミュニティとの結びつき:
地域の人々との深い関わりや共感、地域のネットワークへの参加など、地域とのつながりが深い地域では、隊員が定住しやすいと考えられる。
4. 移住支援策や起業支援策:
自治体の提供する移住施策や起業支援施策が充実しているほど、隊員は新しい生活の基盤を地域で構築しやすくなると考えられる。

(8)地域おこし協力隊への参加後、トラブルにも要注意

新たな土地での生活、未知の課題への対応、地域の慣習や文化への理解など、地域おこし協力隊としての活動に伴う難しさは様々。その中でも特に大きな課題の一つが「現地への溶け込み」であり、これによりトラブルが生じることも多い。
この点については、様々なネットワーク(コミュニティ)を構築することが最も重要な要素である(派遣前の期待ギャップの低減、任期中の事業面や精神面での効果が期待できる)が、ここでは、協力隊員の持続可能な就労環境を維持する上で必要な要素を2つ列挙してみたい。

1. 兼業・副業しやすい環境

兼業や副業が認められれば、隊員は別の収入源を持つことが可能となり、経済的な負担が軽減される。
さらに、副業や兼業を通じて協力隊員は新たなスキルを身につける機会を得ることができると共に、副業や兼業を通じて得たスキルや経験、ネットワークが地域振興活動に活かされる可能性もある。
そして、自分のビジネスを持つことは、地域に根を下ろす大きな動機となり、その結果、定着率の向上につながると考えられると共に、自身のビジネスが成功すれば、地域経済の活性化にも貢献可能である。
これらの理由から、自治体が副業や兼業を認めることは、地域おこし協力隊の定着率や起業率を上げるために重要な施策の一つと言える。

~参考:就業関係~

地域おこし協力隊と各自治体との間の就業関係は以下の通り。

●フルタイム又はパートタイムで自治体と雇用関係で働いている隊員:全体の約70%
●雇用関係はなく個人事業主として働いている隊員:全体の約20%

出典:地域おこし協力隊の現状と課題(一般社団法人 移住・交流推進機構)


出典:地域おこし協力隊の現状と課題(一般社団法人 移住・交流推進機構)

また、兼業・副業が制限されていて自治体の許可を得ることができない割合については、H29調査における34%からR4年調査では24%に改善しており、今後の更なる兼業・副業機会の拡大が見込まれる

出典:地域おこし協力隊の現状と課題(一般社団法人 移住・交流推進機構)

2. 起業ノウハウ習得の機会

地方定着を実現する手法の一つが地方起業であるが、地方起業を成功させるためには、ビジネスの基礎知識や具体的なスキルも必要。
マーケティング、財務管理、事業計画の作成などのスキルを習得することで、隊員は自分のビジネスを計画し、立ち上げ、運営する能力を高めることができる。
また、自身のビジネス経験は、他の隊員や地域住民に対する良いモデルケースとなり、他者の起業を助け、地域全体の起業率を向上させる可能性もある。

更に、起業ノウハウの一環として、補助金や助成金などの活用も念頭に置くとよい。
例えば、地域おこし協力隊員は、地域おこし協力隊員としての活動地と同一市町村内で起業することなどを条件に、100 万円を上限として創業時の手当てが支給される制度を活用できる。
また、「認定特定創業支援等事業」との親和性も高いと思われ、起業時のコスト負担を最小化し起業を行うことができる環境は、起業インセンティブの増大をもたらすものである

参考:「認定特定創業支援等事業」については以下参照。

(9)おわりに

地域おこし協力隊は地方創生の大きな柱の一つであり、地方移住促進や地域活性化のための重要な担い手となっている。しかし、その活動は必ずしも容易なものではなく、隊員と地域との間にはミスマッチが生じることもある。
そのため、応募前の事前の調査(OB・OGへのヒアリングなど)等を行い、自身の期待と地域の現状との間に深いギャップがないかなどを確認することが重要となる。

また、地域おこし協力隊の定着率や起業率を高めるためには、様々な支援策の実施が求められる。具体的には、副業や兼業の許可による経済的安定性の向上、起業に関するノウハウの提供、そして強固なネットワーキングの構築は、隊員が地域に根を下ろし、その地で新たなビジネスを創出するための重要な要素となるであろう。

更に、隊員定着率の高い自治体施策の取組み内容を分析し、全国単位でそのエッセンスを展開する等の対策も有効であろう。

このように、持続可能な地方創生を達成するためには、個々の隊員自身の努力だけでなく、地域の協力、そして日本全体で地域おこし協力隊の活動意義を理解し機運を高める取組みを推進することも重要である。

ぜひ、みなさまの、起業準備のご参考にされてください。

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