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 結局、人は自分が主人公の物語からは抜け出せない。

 あなたのせいで私はこんなにも傷ついた。

 その一言で私は加害者となった。だけど私なりの事情や考えがそこにはある。結果としてあなたを傷つけることになったことは申し訳なく思う。だけど一方的に被害者面するのは卑怯だとも思う。

 私は弁明したい気持ちを抑えてただただ加害者になることを受け入れた。何を言って、何を言わないか。思えば、私の人生は何を言わないかばかりを気にしてきた。

 どんなに私の立場が不利になろうとも、どんなに悪者にされても、ただただ黙っていた。もしかすると私の弁明で立場が逆になることもあったかもしれない。それでも私は言わないことを選択した。

 もちろん私の中にも言いたいことはたくさんある。あることないこと言われたり、明らかに私を攻撃するための発言に心臓から飛び出した棘で相手に仕返ししたいと思うこともある。

 それでも私は言わないことを貫いている。人は自分の都合のいいように物事を解釈する。解釈のなかにはコップに入った水が多いか少ないかだけじゃなくて、コップに小さな穴が空いているのを知っているのにそれを見なかったことにすることも含まれる。だから内心では自分が悪いと分かっていても、それを受け入れられない。そして受け入れられない自分をカモフラージュするために相手を攻撃する。攻撃するためには自分が被害者になったり、悲劇のヒロインを演じたり、弱者に仕立て上げる必要がある。こうやって自分に都合のいい物語の作者になるのだ。

 何を言って、何を言わないか。

 私は言わないことを選択して、何も言わない。だから加害者になったり、悪役として登場することが多くなる。それでもいいと思っている。虚構の物語の作者は向き合わなければならない現実から目を逸らして生きていけばいい。こうやって書いてきた私も都合のいいように物事を解釈して被害者面しているうちの一人なのかもしれない。

 結局、人は自分が主人公の物語からは抜け出せない。

 

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