見出し画像

【短編】コンスタンティノープル

明日から夏休みだ。期末試験が終わり、その返却時間。僕の世界史の点数は平均的だった。

先生は生徒たちに個人で復習するように言ってから教室を出て行った。おそらく職員室に一旦戻ったのだろう。先生たちに僕たちと同じ長さの夏休みはないが、学校はしばらく先生だけの場所になる。それだけでも少しだけ気分が軽くなるのだろう。

いつもならなかじーと今週のドラマの話でもするのだけれど、今日はおやすみモードみたいだ。机に突っ伏して丸まった背中がゆっくりと上下してる。まぁ、窓から吹き込む風と静かな教室の雰囲気には抗えないよな。

暇な僕は世界史のテストを眺める。

“コンスタンティノープル”

330年から1453年まで存在したビザンツ帝国の首都である。1000年以上繁栄し続けて最後はオスマン帝国に征服されて滅亡した。

1000年とは人間にとって途方もない時間である。いくつもの世代が入れ替わり、文化を作り、物語を積み重ねていく。

長く王朝が続けば、それだけ繁栄していく。いや、繁栄したから長く王朝が続いたのか。きっとビザンツ帝国の人たちは暇してたと思う。いや、働き詰めだったのかな。今みたいに便利な時代じゃないし。

1000年続いた王朝の民は最後の日にいったい何を思ったのだろうか。

征服されることの恐怖?はたまた家族や友人への愛だろうか。追い詰められたら人は愛だの神だの、抽象的なものへの信仰を強める気がする。

でも、意外になにも考えてないのかな?
どのくらいの規模かわからないけど、民衆からしたら平和に暮らせること以外にあまり興味はなくて、戦争なんて当たり前の時代だから、通常運転だったんだろうか。

まぁ、どうでもいいか。こんなことは。
歴史的な出来事についてはともかく、当時の人の気持ちなんてものはどこにも残ってない。わからないこと考えても仕方ないか。

あっ、そういえば今日の夕飯もカレーって言ってたな。2日目のカレーが一番美味しいんだよな。しかも、3日前のハンバーグもまだ冷凍庫に残ってるって言ってた。ハンバーグも乗っけてハンバーグカレーにしよう。学校最終日の締めくくりには最高の晩ごはんだ。テンション上がるな。なんか明日からの夏休みが楽しみになってきた。

夏休み一色になった幸せな頭はだんだんと重くなっていき、そっと目を瞑って眠りについた。

途切れる意識とゆったりとした思考の中で見た窓の外は、今までにないくらいに輝いている気がした。

◇◇◇

明日からトノマリスだ。最終カポリーが終わり、その返却時間。僕のレキトリーの得点は平均的だった。

セセイはモノリスたちに個人で復習するように言ってから教室を出て行った。おそらくガーメルに一旦戻ったのだろう。セセイたちに僕たちと同じ長さのトノマリスはないが、アカデーマはしばらくセセイだけの場所になる。それだけでも少しだけ気分が軽くなるのだろう。

いつもならラムIIJと今週のマラデンの話でもするのだけれど、今日はおやすみモードみたいだ。チコに突っ伏して丸まった背中がゆっくりと上下してる。まぁ、ビジュアルグラスのv4技術と静かな溶液媒体の酸素供給には抗えないよな。

暇な僕はレキトリーのカポリーを眺める。

“トウキョウト”

紀元前660から20xx年まで存在したニィポンの首都である。2000年以上繁栄し続けて最後は滅亡した。

2000年以上続いた国の民は最後の日にいったい何を思ったのだろうか。

縦書き版


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?