見出し画像

たまごものがたり🥚第三話 〜年老いたたまごのお話〜

画像1

一匹のたまごが歩いていました。

そのたまごは、
いつから歩き始めたのか
もう覚えてないくらい、
歩き続けていました。


たまごが歩いていると、
ある動物が、話しかけてきました。


鳥です。
「どうして君は、空を飛ばないの?」
「それは、羽が無いからだよ。」


たまごは、当たり前なことを答え、
当たり前なことのように歩き続けました。


また、ある動物が話しかけてきました。


魚です。
「どうして君は、海を泳がないの?」
「それは、ヒレが無いからだよ。」


と言って、
また、当たり前なことのように歩いて行きました。


今度は、蛇が話しかけてきました。
「どうして君は、真ん丸で、真っ白なんだい?」
「なぜなら、たまご だからさ。」


彼は、当たり前なことのように、自分が たまご だと言いました。


今度は、蜘蛛が話しかけました。
「どうして君は、歩いているんだい?」
「・・・ ー 。どうしてだと思う?」



どうして空を飛ばないのか
どうして海を泳がないのか
どうして真ん丸で真っ白で
歩き続けているのか

たまごは知っていました。


「ボクは、自分が何者か知っている。ボクは、たまご なんだよ。
そして、なぜ たまご が空を飛べず、海を泳げず、丸くて白いのかを知っているよ。

そう、知っている。

だから、歩いているのさ。

ボクが最初に、自分が たまご だと知った時、ちょっとショックだった。
皆んなみたいに手足は無いし、羽も無ければヒレも無い。
形や色もシンプルで、丸くて白い。
カッコイイ角とかフワフワな毛も無い。

何もない自分は、無力で何もできないんだと思っていた。

でもある日、
何もできないんじゃなくて、何もしていないんだってことに気がついた。
何もできないと思い込んでいるから、何もしていなかったんだ。

その日から、
ボクは 自分に何ができるのか を考え始めたよ。

考えながら歩き始めた。


しばらく歩いていると、真っ白な種が落ちているのを見つけた。

画像2

何の種か分からないけど、ボクはその種を観察することにしたんだ。

種は、雨の日も雪の日も、日照りの日も曇りの日もずっとそこにいた。
そしてある時、芽を出した。
芽は日に日に大きくなって、枝になり葉を生やし、一本の木になった。


最初、真っ白な種は何もしていないように見たけど、そうじゃなかった。
種は、雨で湿った土から養分を吸い、陽からエネルギーをもらって、時に影ったり雪に埋もれたりして熟成していた。
芽が出るための準備をずっとしていたんだ。


だから、
ボクもずっと歩き続けているのさ。
歩きながら、色んなことを知り、色んなことを経験し、色んなことに悩み熟成して、
たまごの殻を破る
 その日まで ー。」

すると、
たまごにヒビが入りました。中から出てきたものは・・・


真っ赤な果実、そう、りんご です。


真っ赤でツヤツヤ、甘くてみずみずしい
とても美味しそうで、美しい りんご。

それは
ずっと歩き続けてきた彼が、
ようやく実ったその努力を
とても嬉しそうに
笑って、
頬を赤く染めたかのような
本当に美しい りんご でした。


その りんご はとても輝いていて、誰もが食べたくなるような、素敵な りんご です。

この先、
この りんご を必要とする者が現れるかもしれません。
誰が必要とするか分からないけれど、
この りんご を手に入れた者は
きっと、
とても多くの"もの"を、得ることでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?