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たまごものがたり🥚第二話 〜たまごの王様のお話〜

一匹のたまごがいました。

そのたまごは、
誰から生まれたのか
どこで生まれたのか
兄弟はいるのか
何も知りません。

名前も、まだありません。

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だけど、

そのたまご はこんなことを思っていました。
「ボクは王様だ。
 この世で一番偉くて、強い王様なんだ。」と。

たまごの王様は、歩き始めました。

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すると、
ある動物が話しかけてきました。

鳥です。
「どうして君は、空を飛ばないの?」

自分を王様だと信じてやまない彼は、こう答えました。
「空を飛ぶ?
 なんだい。
 ボクは王様だから、空なんか飛べなくていいのさ。
 そんなこと、君みたいに空を飛べる者に乗せてもらえばいい。」


〔王様だって・・・?ただのたまごに見えるのに。〕
そんなことを思いながら、鳥は、たまごの王様を背中に乗せました。


また、ある動物が話しかけてきました。


魚です。
「どうして君は、海を泳がないの?」

鳥の背中に乗って空を旅した王様は、すっかりご機嫌でこう答えました。
「海を泳ぐ? ハハッ。
 そんな必要はない。
 だってボクは王様だからさ。
 そんなことより、お腹が空いたなぁ・・・」


すると、
魚は、たまごの王様に食べられてしまいました。


〔そ、そんな・・・〕
鳥は、たまごの王様の行いに、ショックを隠しきれません。


今度は、蛇が話しかけてきました。
「どうして君は、丸くて、白いんだい?」

鳥に乗って、魚を食べて、すべて思い通り。
すっかり鼻高々のたまごの王様は、こう答えました。
「そんなのは決まっている。
 王様だからさ。
 それより君は、どうしてニョロニョロなんだい?
 そうか、こうやって使うんだな。」

たまごの王様は、蛇を縄跳びにして遊びました。


蛇は、惨めな姿になって、泣きながら逃げました。


もう我慢できない鳥は、たまごの王様に言います。
「ヒドイじゃないか。
 蛇は泣いてしまった。
 魚は・・・食べられてしまった。
 2人がどんな気持ちだったか、君は分らないのかい?」

たまごの王様は答えます。
「ボクは、この世で一番偉くて、強い王様だ。
 ボクに従うのが当然だろう?」



鳥は言います。
「そんなこと、誰が決めたの?」



そう言われて、たまごの王様の頭にふとこんなことが過ぎりました。
〔そういえば・・・。そんなこと、誰が決めたのだろうか?〕
自分を王様だと信じていた彼は、初めて自分の考えを疑います。
そして、急に不安になって、走りだしてしまいました。


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たった一人になった たまごの王様。


すっかり自分を王様だと信じることができなくなった彼は、
ブルブル、ブルブル、震えていました。

すると、たまごにヒビが入って、王様はびっくり。中から出てきたものは・・・

自分が食べてしまった、あの 魚 でした。

魚は言います。
「キミは、自分が何者か分かっていなかった。
 キミは、たまご なのだよ。

 誰が決めたわけでもない。
 キミは生まれたときから たまご だ。
 王様じゃあないんだよ。

 あの後、鳥が天高く昇ってきて
 ボクの魂に語りかけてくれたよ。

〔たまごの王様の行いは酷かった。それは許されることではない。
 しかし、まだ見識のない彼が、自分を王様だと思い込んでも無理もない。
 本当に、哀れな たまご だ。〕

 そう言うと、透き通っていた鳥の翼は少しだけ紺碧に染まった。
 おかげで僕は癒され、今ここに存在することができている。」

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そして魚は、次第に薄れて消えた。たまごの種を残して。

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真っ白なたまごの種。


この種は、善も悪も人倫も、何もまだ知らない。
真っ白で、そこにはただ空間があり、時が流れているだけ ー。


どうかこの種が、
豊かな見識を持つたまご を生み出してくれますように。

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