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はじめてのアナログ盤制作(2013年2月、3月ブログ記事より)

2013年2月、3月のブログ連投記事より(2020年10月加筆修正済み)

2013年4月10日に新譜CD『Sympathy』をリリースするのと同時に、2011年発表アルバム『Music In You』をレコードで発売することになりました。

『Music In You』のCDリリースの時から、アナログで発売できたらとジャズの専門店ミムラさんに相談したりしていたので、少し時間が経ちましたが、実現して嬉しいです。

この時のレコーディングは、アナログ・レコーディングをしています。
通常はデジタルでのレコーディングなのですが、スタジオにアナログ・レコーダーが2種類常設してあり、それでレコーディングしたものを聴かせてもらったところ温度感が全然違うので、アナログで録音してみることになりました。この時は、テレフンケンというドイツのレコーダーを使用しています。せっかくそのような録音をしたなら、デジタルに一度も変換せずにアナログ化した方がそのままの音に近いですから、ゆくゆくはアナログでのリリースができたらいいなあと思っていました。それに加え、ジャケットのアートワークには池内晶子さんの繊細な作品の写真を使わせてもらっているので、やはり大きなジャケットで見たいな、とも思っていました。

CDより収録時間が短いため、CDと収録曲数が違います。CDの方が、ボーナストラック付きみたいな感じです。

そして、アナログ盤のためのマスターテープを作る作業の立ち会いに行ってきました。
STUDERのアナログレコーダーを2台つないで、レコーディング直後のマスターテープからアナログ用のマスターテープを作る作業。機械とそれを操るエンジニアさん、頭出しして移したり、テープを切って貼ったり、パソコンに全然触れない完全アナログな職人作業でした。来週はカッティングに立ち会います。

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写真は、レコーディング後のマスターテープ。1枚のアルバムが、3本に分かれて入っています。マスターテープには、録音の前後の声まで入っていました。
演奏後「良いんじゃないですか」とか、演奏前「じゃあいきまーす」「はーい」というやりとりや「1、2、3」というカウントも全部入っていて、その時の私は超ガラガラ声。そういえば、録音の前の週のライブは風邪明けで喉を潰していて、全然喋れてなかった時だったなあと思い出したりしました。
しかし、マスターを聴くと、CDよりもドラムの音が全然違って面白かったです。これで製品になったらどんな音になるのか、楽しみです。

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こちらの写真は2台繋がれたSTUDER、片方で再生して、片方でマスターに録音していきました。信号を聴きながらの録音調整は、初めて見ました。


20日にマスターテープ作りを終え、27日には鶴見区のレコードプレス工場、東洋化成へ、カッティングの立ち会いに行きました。
今回は、そうそう滅多にない機会なので、トリオ全員参加です。皆さんキャリア長い先輩方ですが、プロになってからのレコーディングがレコードになるのは初めてだそうです。

ちなみに先日、テナーの井上淑彦さんとご一緒した時にレコードの話をしたら、井上さんはレコードでばんばん録音してらした世代で、CDになった時は、えっ、こんなにちっちゃいの!と思ったそうです。
そう考えたら、レコード世代のミュージシャンは、自分の録音がレコードになるって嬉しかっただろうなあと思いました。私は先日、ジャケット校正の時も、でかい!と感激しましたが、自分の作品があんな大きなものになると、やっぱりモノ作ってる実感がありますよね。

都内某ライブハウスのマスターが元大手レコード会社の方なので、お話しを伺いましたら、以前はメジャーのレコード会社はどこでもレコード生産工場を持っていましたが、CDに移行して、レコードを作れる環境はどんどん無くなり、レコード時代は小さい存在だった東洋化成だけが今に残り、今はレコードが見直されて生産数が増えてきているので、とても大きな存在になっているとのこと。

余談ですが、初めて鶴見線に乗りましたが、しぶい街でした。同じJR線なのに鶴見からまた改札があったり、三両編成で一時間3本しかないし、無人駅。前の仕事が少し早く出れたので、駅周辺でお茶でも飲めばいいやと思ってたら、喫茶店もコンビニもない。電車から降りる人以外、誰も歩いていない。そして自販機もなくて、工場までの途中で最後に見かけた自販機まで戻って、缶コーヒーをゲットして誰もいない公園でトラックと工場の音を聴きながら飲むコーヒーは、工場街の中休みって感じで、なかなかいい感じでした。あとで聞くと、終着駅は東芝直結で東芝の人しか降りれないんですってね。京浜工業地帯を結ぶ重要な路線なんですね。

話が逸れましたが、東洋化成工場へ着くと、まずはカッティングルームへ。本カッティングではなく、ラッカー盤のテストカッティングです。
溝の全くない盤に、今まさに音楽が刻まれている様を見ることができました。また面白いのが、再生装置の1秒後に刻まれているそうで、大きな音は掘る溝の振幅が広いので、1秒の間にそれを計算して、掘る針をずらしているそうです。
顕微鏡で、掘った溝も見させてもらいました。超原始的な形で目に見えて、なんだか妙に感動。
そして、この作業中、東洋化成の技師さんがご丁寧にわかりやすくレクチャーして下さいました。これがとても面白く、皆から質問攻めにあっていましたが、ご親切で本当に有意義な時間でした。ありがとうございました。なんでもこのベテラン技師さん、今までで一番沢山カッティングしたのは、泳げたいやき君だそうです。

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テストカッティングが終わって、ありがとうございましたとカッティングルームを出る時に、「良かったらプレス工場も見学されますか?」と声をかけて頂いて、勿論!ということで連れて行ってもらいました。

まずは工程の説明。
さっきテストカッティングで作ったラッカー盤(凹)→マスター盤(凸)→マザー盤(凹)→スタンパー盤(凸)と、作る過程を説明して頂きました。
下の写真が、スタンパー盤です。私、もっと分厚いものだと思っていましたが、ケータリングのお皿みたいだねなんて話していました。
この工程は、今調べたら、東洋化成さんのサイトで詳しく見れるみたいです。

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そして、プレス機。
最初はアイスホッケーのパックみたいな塩化ビニールをプレスして、レコードの形へ。はみ出た余分なところはカットされ、再利用。カポッと1枚ずつ出てくる様は、なんだかとっても愛おしいです。

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今回見学にあたり、東洋化成さんにはとっても良くして頂いて、お世話になりました。
帰り際に「またぜひレコードを出して下さい」「レコード文化をよろしくお願いします」と言われ、なんだかとても胸が熱くなりましたよ。ずっとここで頑張ってる方たちのおかげで、時代がCDに変わっても工場が残り、またレコード文化に火がつき始めているんですものね。

今回アナログを出すにあたって、「昔の眠っていたレコード環境を復活させようかな」とか、「新しくプレーヤーを買おうかな」などと言って頂けることも多く、とても嬉しいです。
現在私の自宅には、テクニクスSL1200MK4がありますが、とある方から2年ほど前に頂いたもので、ミュージシャンになって沢山録音を経験してからアナログを聴くと、本当にいいなあと思いました。

余談ですが、私の周りの同業者では、高音質CDはあまり好まれていない気がします。私自身も、解像度が高すぎると疲れます。映画トランスフォーマーをIMAX3Dで観た時みたいな、情報が多すぎて脳の処理が追いつかなくて疲れるのと似たような感じがあるかも(商売柄、聴き過ぎっていうのもあるかもしれませんが)。
レコードが良いのは、デジタル化しないから解像度が高いんじゃなくて、エアノイズも含んでるから、澱みとか自然な陰影があるように思います。
マスタリングの時、マスターテープから直で音を聴いたら、CDの音と全然違うし、特にドラムがそのまんまの音に近いなあと、あと空気も閉じ込めた温度感みたいなものがあるんだなあと、改めて思いました。

先にも書きましたが、レコード世代のミュージシャンは、自分の演奏がレコードになった時、本当に嬉しかっただろうなあと思います。
今は誰でも録音してCD作れちゃいますが、昔はそういうわけにいかなかったでしょうし、手に取った時の重み、ジャケットの大きさも、やっぱり大事なものですよね。

大きいから小さく、面倒くさいから簡単になっていったんでしょうけど、やっぱり大きいからこそものを持った、ものを作った実感もあるし、面倒くさいからこそ心して聴くし、この一見効率の悪い無駄な時間こそ文化なんだなあと改めて思った次第です。

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