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#011_【倫理的行動】共有ビジョンの暗黒面(#4-106)

Resick, C. J., Lucianetti, L., Mawritz, M. B., Choi, J. Y., Boyer, S. L., & D'Innocenzo, L. (2023). When focus and vision become a nightmare: Bottom-line mentality climate, shared vision, and unit unethical conduct. Journal of Applied Psychology.

目次


この論文の目的は?

共有ビジョンは圧倒的にポジティブに描かれてきました・・・しかし・・・

ボトムライン・メンタリティの高いリーダーは、財務的目標重視の風土を形成し、更に、集団的な目的意識と方向性を捉える組織の共有ビジョンは、財務的目標重視の風土が顕著な組織において、集団的なボトムライン強化、非倫理的行動(ミスの隠蔽、賄賂、非倫理的な親組織的行動)の可能性を高める、という仮説を明らかにしていきます。

※Bottom-Line Mentalityとは、損益計算書における最終行の純利益から、包括的な結果や最終インパクトを指します。本論文では「財務的利益を追求するマインド」という理解でOKだと思います。

POINT1. エンロンとボーイング737事故の共通点

エンロンやボーイング737事件は、利益重視の体質が隠蔽につながり、破滅に至った大事件。
「こんなこと滅多に起こるわけない」って思いますか?

これらの事例には2つの共通点があります。
① リーダーが財務的な成果を極端に重視し、財務成果主義の風土を作り上げた。
② 倫理的に問題のある行為に貢献した共有ビジョンの存在。

参考
<エンロン事件>
https://www.concord-career.com/dictionary/enron/
https://www.rieti.go.jp/jp/papers/journal/0211/bs01.html
<ボーイング737事件>
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63920770W0A910C2EA1000/

POINT2. 「あの人があんなことするなんて」の原因は?

風土のこと
・風土は、リーダーが間接的にメンバーの行動に影響を与える中心的なメカニズム(Kaiser et al.)
・財務的成果主義のリーダーの場合、風土を通じて、財務成果主義がメンバーに影響を与える。
・結果、財務的成果主義の風土が形成される。

目標遮蔽理論
競合する優先事項が自動的に抑制されることで、人は最も重要な目標(本論文においては財務的成果)を達成することに集中し、気が散らないように他のことはすべて忘れることができるという理論(Shah et al., 2002)。

※いい方向に働く場合もあるが、今回は悪い方向に注目。
「結果として生じるかもしれない残余的な影響についてはほとんど考慮せず、ボトムラインの確保に近づくためならどんな行動も厭わない」という「どんな犠牲を払っても勝つ」アプローチを伴う。

POINT3. Bottom-Line Mentality Climate, Shared Vision,
and Unethical Conduct

非倫理的行為を「ミスの隠蔽」「賄賂」「非倫理的な組織的行動(UPB)」としています。

P.2060


ボトムライン型メンタリティを持つリーダーの影響は・・・
・ボトムライン型メンタリティの風土を醸成する
・グループの非倫理的行為との関連性はグループの共有ビジョンに依存する

共有ビジョンの役割は・・・
・ボトムライン・メンタリティの風土がエラーを隠蔽する効果を強める
・より深刻な形態の非倫理的行為を動機付けるための必要条件

グループやチームの優先順位が収益に一点集中している場合、共有ビジョンは望ましくない行動の動機づけを強化してしまう、というのが今回の論文の結論です。
また、ボトムライン・メンタリティを持つリーダーが率いる組織が集団的非倫理的行動を動機付ける場合を理解するには、共有ビジョンという形の動機づけ文脈が重要だ、ということが示されました。

感想

組織にとって、最終的な財務結果のみを優先させることは、努力を集中させ、従業員が横道にそれないようにすることで、短期的な業績をもたらすかもしれない(例えば、Babalolaら、2021年)。しかし、リーダーは、勝ち負けやコストにこだわる風土が生まれ、それが集団的な非倫理的行動に永続的な影響を与える可能性があることを認識する必要がある。
中略
リーダーは、財務上の業績のみに重点を置くことをやめさせるために、財務上の業績に貢献するが、それだけにとどまらない成果(倫理、安全性など)の戦略的重要性を強調する組織制度を利用すべきである。また、倫理やその他の価値ある成果が期待され、支持され、報われることを明確にするために、リーダーは表彰や報奨などの動機づけ資源を用いるべきである。

P.2064

トップマネジメントにこそ、この結びを胸に刻んでほしい。
会社が生き残る、成長するために財務指標が大事なのは当然である、わかる。というかそんなの一社員でもわかる。(もちろん責任が違うこともわかっている)

それを前提として、トップマネジメントはどうあるべきか。
改めて不祥事が続く昨今考えたいことですね。


サポートしていただけると嬉しいです! ぴよぴよ社会人博士課程の学生ですが、Organization Justiceについて研究を進めています。また、理想だけでなく実務で壁となるGoing Concern(売上、利益)といった面も考えつつ・・・模索しています。