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#005_【感情的コミットメントとダウンサイジング】Organizational Commitment, Job Redesign, Employee Empowerment and Intent to Quit Among Survivors of Restructuring and Downsizing(#4-72)

Ugboro, I. O. (2006). Organizational commitment, job redesign, employee empowerment and intent to quit among survivors of restructuring and downsizing. Journal of Behavioral and Applied Management, 7(3), 232-257.


本日の論文への惹かれポイント

日本でもここ最近(ずっと?)雇用の流動性の話がありますよね。
基本的には私も大賛成な話です。
流動性を高める、ということは、個人のProfessinalityが何なのか、ということが重要になってくるはずなので、大賛成。
ただ、それが企業側にとっての雇用調整という便利な話になってしまうとすると違うのでは、と思っています。
ベンチャーだと避けられない話でもあるリストラやダウンサイジング。どう研究されているのか気になるところです。

この論文の目的は?

組織にとって、リストラやダウンサイジング後の残ったメンバーに自主退職されてしまうと非常に困る。

Cascio (1993) は、多くの組織で、リストラクチャリングやダウンサイジングの潜在的なメリットや期待されたメリットが実現されないのは、その組織的・個人的な影響を緩和する効果的な戦略が欠如していることが一因であるとしている。
Isabella (1989)は、組織は通常、解雇される人々のニーズを満たす準備ができているが、残ったメンバーがしばしば経験し、表明する強い感情、長い適応期間、士気の低下、生産性の低下に対する準備はできていないことが多い、と指摘している。

組織のリストラやダウンサイジングの経験者における職務の再設計、従業員のエンパワーメントと、感情的組織コミットメントによって測定される退職意向との関係を、中間管理職に焦点を当てて明らかにすることを目的としています。

POINT1. Victimsの反応

MishraとSpreitzer(1998)の理論モデルでは、ダウンサイジングに対する生存者の反応を、建設的か破壊的かに分類しています。
建設的な反応:義務的な反応(冷静、安堵、献身、忠実、命令に従う、ルーチンの解決、イニシアチブをとる)
破壊的反応:恐怖(心配、恐怖、不安、無力感、引きこもり、先延ばし)から冷笑(怒り、嫌悪、道徳的憤怒、冷笑、報復)反応など。

建設的な反応のほうがポジティブで生存能力は高まると考えられています。

POINT2. Victimsの対処能力が高まるとき

先行研究より、残ったメンバーの対処能力が高まる要因として、エンパワメントと職務の再設計があることに注目。
エンパワメント>
個人的統制感を高めるので、リストラやダウンサイジングに対する建設的な反応を促進すると考えられています。

エンパワーメントを、仕事上の役割に対する個人の志向性を反映し、4つの認知(意義、能力、影響、選択または自己決定)に現れる内発的な課題動機づけと定義した。(Thomas and Velthouse (1990))

<職務の再設計>
職務の設計と再設計についてはHackmanとOldham(1976、1980)の研究に基づいています。彼らは、仕事の本質的な価値と動機づけの可能性は、タスクの多様性、自律性、アイデンティティ、重要性のフィードバック、スキルの多様性といった特定のタスクの次元に基づいていると考えました。

一般的に職務設計を考えるときにはリストラやダウンサイジングの状況であるとは考えられていない。このような状況下ではMishra and Spreitzer (1998)はタスクの多様性と自律性が重要であると述べている。

本研究の結論でも、リストラやダウンサイジング後、一人当たりの負荷が高まる→業務負荷が高まると退職意向が強くなる→再設計することで業務負荷のコントロール、意思決定の権限移譲などからタスクの多様性や自律性が高まるのではないか、と考えられています。

POINT3. 組織コミットメント

組織コミットメントには感情的、継続的、規範的の3つのタイプがあるとされています。(Meyer and Allen (1991)、Dunham, Gruba and Castaneda (1994))

<感情的コミットメント>
組織とその目標に対する従業員の感情的な愛着、同一化、関与と定義されています。
従業員にとって内発的に働きがいのある状況を作り出すのに役立つ要因が、感情的コミットメントの先行要因であるとされており、タスクの重要性、自律性、アイデンティティ、スキルの多様性、従業員の職務遂行に関するフィードバックなどの職務特性、知覚された組織的支援や依存(雇用条件や職場環境に影響を与える意思決定を行う際に、組織が従業員の最善の利益を考慮していると感じること)、従業員が目標設定や意思決定プロセスに関与している度合いなどが含まれる。

つまり、感情的コミットメントは職務設計と強く関連していると言えます。

<継続的コミットメント>
同僚と良い人間関係、退職後の投資やキャリア投資、組織特有のスキル、特定の組織での雇用年数、その他、退職して他に雇用を求めるにはコストがかかりすぎるような場合に、組織に留まろうとする意思と定義されています。

<規範的コミットメント>
組織に留まらなければならないという義務感によって誘発され、家族、結婚、国、宗教、雇用組織などの制度に忠誠を誓い、コミットしようとするほぼ自然な素質であり、制度への忠誠や献身を重視する文化の中で社会化されるもの。

<3つのタイプのコミットメントの共通項>
・従業員と組織との関係を特徴づける心理的状態
・組織への所属を継続するか中止するかの決定に影響を及ぼすもの

強い感情的コミットメントを持つ従業員は、組織に残りたいから残り、強い継続的コミットメントを持つ従業員は、組織に残らなければならないから残り、強い規範的コミットメントを持つ従業員は、組織に残るべきだと感じるから残る(Meyer, Allen and Smith (1993))

これらの定義から、組織へ残るという選択肢は組織的コミットメントが関連していると考えられます。

本研究の結論としては、職務再設計、エンパワーメント、感情的コミットメントの間に統計的に有意な正の関係があることが示されています。

特に、仕事の影響感と仕事の意義感を高める職務再設計と従業員のエンパワーメントの両方が、残ったメンバーの感情的コミットメントを促進し、退職の意思を低下させることが示されました。

なお、唯一有意な負の関係にあった能力と感情的コミットメント
これは、能力の高いメンバーは、リストラやダウンサイジングの後に組織を去る傾向が高いことを示しています。
能力の高いメンバーは、より魅力的な雇用の選択肢があるため、リストラやダウンサイジングという不確実な環境から、より良い雇用機会を求めて退職する可能性が高いことを示しています。
(そりゃそーだ!)

感想

非常に興味深いのだけど、この実験を実施したときにはすでにダウンサイジング後の自主退職者はいないのではないか、というのを読み終わった後に気付いたよ。。。
まぁもちろん残った人がどういう人なのか、という実験なんだけどさ。

個人的には結構ダウンサイジング後の自主退職は「怒り」なんじゃないかと思います。だからこそ手続き的公正なんかが研究としては多いんじゃないかと。同じ感情でも本研究とは逆のネガティブな感情ですよね。
でも「怒り」は原動力になる。
ただ、「怒り」は消耗が激しいので、同じくバーンアウトにもつながるんじゃないかなーとか頭の中でもにょもにょ考えていました。

なお、リストラやダウンサイジングだけでなく、意図しない(希望しない)人事異動などにもこれと同じ理論は適用できるんじゃないかと思いますので、大手企業で異動通達する方は、職務設計や感情的組織コミットメントの観点から異動を考えてみてはどうでしょう?

サポートしていただけると嬉しいです! ぴよぴよ社会人博士課程の学生ですが、Organization Justiceについて研究を進めています。また、理想だけでなく実務で壁となるGoing Concern(売上、利益)といった面も考えつつ・・・模索しています。