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IT技術による経済存亡の危機

21世紀に入り、多くのIT技術が生み出され、実用化が進んでいる。今やIT技術が利用されていない分野はないと言えるほど人々の生活に浸透している。科学は人々の生活を豊かにする為に存在し、その恩恵を受けている。

単純作業は機械化が進み、AIの発達もあり、殆どの作業は自動化されるに違いない。今まで人がしてきた仕事を人がしなくてもいい時代は、それほど遠くない未来に実現する。生産性があがり、生産コストは下がり、商品価格も下がる。一見いいことばかりに見えるが、本当にそうだろうか。

世界中を見回してみよう。未だに貧困層は存在し、富の集中による格差が大きくなっていると見えるのは僕だけだろうか。

格差は、何故起こるのか。狩猟で生計を立ててきた人類は、安定した食糧確保の為に農耕を発明した。農耕により食糧の備蓄(=余剰)を得ることになる。この「余剰」により、様々な制度が生まれる。

メソポタミアで世界最古の文字が誕生したのは、農民が共有倉庫に預けた穀物の量を記録するためである。この記録は、債務(借金)と通貨のはじまりでもある。

労働者への支払いの際、主人は労働時間を穀物量に換算して貝殻に刻んで渡した。労働者は収穫後に貝殻と穀物を交換することもできたし、貝殻をほかの人がつくった作物と交換することもできたのだ。貝殻が通貨として機能するためには、将来約束の穀物を受け取れるという「信用」がなければならない。そこで、権威付けの存在として、国家が登場する。余剰がなければ、国家は存在しなかったのだ。

支配者を守る警官、国を運営する官僚、そして余剰作物を狙う外敵から国を守る軍隊も生まれなかっただろう。実は、聖職者も同じだ。農耕社会が土台となった国家の余剰配分は、とんでもなく偏っていた。その状態を庶民に納得させるために、「支配者だけが国の権利を持っている」と信じさせる聖職者が必要とされたのだ。

農耕は、自然の恵みだけで食べていける地域では発達しない。農耕から生まれた余剰が、やがてグローバルな格差、社会の中での格差へとつながっていったのである。大昔、ほとんどのものはコミュニティの中で生み出され、仲間内で交換されており、ここに商業的な意味はなかったはずだ。それがここ数百年の間に、ほとんどのものが「商品」になり、「市場社会」が生まれたのである。航海時代になり、海を隔てた地域との物流が生まれ、英国でとれた羊毛は中国で絹となり、絹は日本で刀剣に、刀剣はインドで香辛料にと、その地域にないものと交換されていくシステムが構築された。

農耕をやめ、作物以外のものを生産するようになると、農耕をしていた労働者は職を失う。土地も職もない人は、自身の労働力を売るしかない。労働市場のはじまりである。産業革命以降、労働力への需要は高まり、莫大な富を得る者と貧困にあえぐ者が共存する世界が生み出されたのだ。時代の差はあるが、世界中に格差が生まれたのだ。生活を豊かにする為の様々な営みが、格差を生んだといえる。

この格差が、現代社会において経済存亡の危機を引き起こすかもしれない。その要因の1つが、IT技術による自動化の波である。経済とは人間の生活に必要な物を生産・分配・消費する行為についての、一切の社会的関係であり、簡単にいえば、金銭のやりくりともいえる。学生が欲しいものを得る為にアルバイトをして、得た賃金で買う。これが経済である。買う人がいれば売る人もいる。

売る人からすれば商品が売れたことで利益を得て、それを資金に次の商品を生産する。単純ではあるが、この循環が継続していたのが今までの社会である。

そこに自動化が入ると、どうなるだろうか。工場が自動化されるとそれまで働いていた労働者は不要となる。労働力を売って対価を得ていた人は、売るものがなくなる。収入が減った人の消費は減り、物が売れなくなる。物が売れなければ利益をあげられなくなり、次の商品生産に回す資金が減り、商品生産量は下がる。収入が減った人は「余剰」がなくなり、消費そのものを抑える。購買意欲の低下により、消費が下がるかもしれない。自動化により人件費の削減ができ、一時的に生産者の利益は上がり、格差が大きくなるが、消費が低迷すれば、利益も減り、生産者も存続が困難になる。この循環が続くと、経済が止まるときが、いつかやってくる。

極端な話に聞こえるかもしれないが、経済存亡の可能性はあると思う。今ある仕事の49%はAIに置き換わると言われる中、労働力まで奪われると人はどのようにして生きていけば良いのだろうか。

元ギリシャ財務大臣であり経済学者のヤニス・バルファキス著「父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話」(Talking to My Daughter about the Economy)という本をご存じだろうか。経済の本質が分かりやすく書かれており、正に、父が娘に語るように書かれている。経済の話は誰にでも関係することではあるが、難しく、本質を知らない人が多い。恥ずかしながら、僕もこの本で経済のことを学んだ1人である。

表面的な社会を見て判断するには、現代社会は複雑である。IT技術が発達していくことは個人的に賛成であるが、これからはどのように活用すべきかを俯瞰して考える必要がある。経済が不安定な今だからこそ、誰もが経済について正しい知識のもと判断をしなければならない。正しい知識があれば、IT技術がプラスに働く方向へ時代の舵を切れるはずだ。

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