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2021年9月26日に投稿した記事で、オーストラリアの大学での研究課程(修士と博士)への出願の仕方や研究生活について説明しましたが、論文の審査については触れておりませんでした。今回は博士課程の過程及び審査について説明したいと思います。

オーストラリアの大学では、基本的に博士課程は4年間(フルタイム)です。これには審査の期間は原則含まれていません。つまり、入学してから、論文を大学に提出するまでが4年間ということです。

ただ、最後の審査だけが審査という訳ではありません。日本の大学では中間審査(発表)というものがありますが、オーストラリアでも研究の質と進捗状況をチェックする段階があります。

フルタイム(4年間)の博士課程のスケジュールは主に以下の通りです。

入学ーFirst semester (約半年) この期間は主に文献レビュー、研究手法の勉強をします。多くの大学が、博士学生用に研究手法(Reserach method) について学ぶカリキュラムを設けていて、ほとんどの学生がこの科目を履修することが求められます(学生の経歴によっては免除となる場合があります)。

Second semester - この期間は、文献レビューをしながら研究プロポーザルを書きます。 研究の目的、明らかにしたい問いをクリアにし、研究手法について吟味をします。この期間の最後に、当大学ではConfirmation seminar と言って、この研究を進めるべきかどうかの審査(つまり、研究のオリジナリティや意義を認めてゴーサインを出すこと)があります。 セミナーでは学生が30分程度研究について発表して質疑応答があります。審査員は少なくとも2人任命され、審査レポートを提出し、それに基づき、研究を承認するか、修正した上で承認するかを決めます。学生にとってこのセミナーが大きなマイルストーンとなります。

Third semester - sixth semester - 研究が承認されれば、本格的にデータ収集を開始することができます。データによっては大学の倫理委員会の承認を受けなければなりません。 この倫理委員会の承認のプロセス(Ethics approval)は時間がかかる場合がありますので、しっかり準備する必要があります。倫理委員会の承認が下りれば、データ収集開始です。データ収集にはフィールドワークを伴う場合やインタビュー、アンケート調査などいろいろあります。データ収集が終わればデータの分析です。データ分析には、統計ソフト(例えばSPSS)やインタビューデータを分析するソフト(例えばNVivo)など、研究に適したツールを使います。 その後は、分析結果から何が読み取れるのか、研究の目的、データから何を導き出せるのかを考え、文章化する時間です。学生にとってはこれが一番難しい作業かもしれません。この期間の終わりに、 Work-in-progress seminarと言って、いわゆる中間報告をするセミナーをやる必要があります。当大学ではこれに関して審査はありませんが、 研究が予定通りに進んでいるかを報告する大事な機会です。この間に研究成果の一部を(国際)会議やジャーナルに投稿した論文として発表することもあります。

Seventh semester - 論文仕上げ - この期間は論文を書き上げる期間です。学生がよく忘れがちなのは1度レビューした文献をまたこの期間にブラッシュアップすることです。データ収集や分析をしている間に、たくさんの新しい文献が発表されていますから、常に自分の研究が当該研究フィールドでどのような位置にあるのか、自分の研究はどんな意義があるのかを確認することは重要です。 当大学では博士論文の提出前に Pre-submission seminarと言って、最後の発表をすることを求められます。こちらも審査はありませんが、論文が順調に進んでいることを確認する大事な機会ですし、セミナー参加者から貴重なアドバイスやコメントをもらって論文の仕上げに活かす事が出来ます 。

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(セミナーは学びが多い機会)

提出ー審査 ー 博士論文をいよいよ提出です。提出をすると、大学から任命された審査員(当大学では3名)に論文が送られ、審査開始となります。 審査期間は約2ヶ月です。審査結果が戻ってきたら、審査員のアドバイスに従って1.リジェクト、あるいは2.修正の上再提出、または3.そのまま合格かが決められます。そのまま合格になることはほとんどなく、多くの場合は2となります。修正した論文を提出して修正が承認されれば、ここで博士号の授与が決定となります。

博士課程というのは、各学生がいち研究者として活動する期間です。もちろんまだ駆け出しですから指導教員や大学が出来る限りのサポートをします。大変な期間ではありますが、博士号を取得して、例えば大学の教員になれば、他の業務もありますのでこれほど自分の研究に集中できる期間はないとも言えます。 これから博士課程を目指す方には、この期間を、ただ黙々と自分の研究だけに集中するのではなく多くの文献を読んで視野を広げることも試みていただければと思います 。そして、何よりも、研究者の1人として同じ年代の多くの研究者とネットワークを作って下さい。将来きっと役に立つと思います。

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