私のヒーロー
私にはヒーローがいる
どこで何をしているのかわからないどころか、名前ももう覚えていない
でも幼い頃の記憶の中で 本当に本当に大事な人
それは、幼稚園の頃
その頃の私はサイコロ集めにハマっていた
その日の帰りも玩具屋さんに寄って
たっくさんの可愛いサイコロの中から、最高にお気に入りのものを4つ買った
帰り道、お母さんが「家に帰るまで預かっていてあげるね」
と言ってくれたのだが
そのサイコロが大好きで嬉しくて、私は自分で持ちたかった
でも、ここで事件が発生
電車を降りる時、サイコロの入ってた袋を逆さまに持ってしまっていた
気がついた時には、袋の中には一つしかサイコロが入っていなかった
3個、線路に落としちゃった
心がときめいた物だったから
私はほんっとうに悲しくて悲しくて大泣き
お母さんは、はじめは「仕方ないね、また買えばいいよ」と
なだめていたのだが、
お店に最後の一つだったサイコロもあって
私は諦められなかった
しまいには お母さんが、駅員さんに相談してくれていたみたい
後日、電話がかかってきて
駅員さんが3つのサイコロのうち2つを見つけ出してきてくれたことを知った
深夜、全部の電車の運行が終わった後に、
その駅員さんはサイコロを探し出してきてくれた
すっごく小さいものなのに、3つのうち2つも見つけてくれたんだ
大好きなものが戻ってきてくれて、私は本当に嬉しかった
駅員さんにも「ありがとう」のお手紙を書いたところまで覚えている
それは幼い記憶の大切な一コマになった
胸の温かくなるお話として たまに思い出すお話だった
でもね、21歳になった今思うことは
あの駅員さんはサイコロだけじゃなくて 私の心をも救ってくれたヒーローであること
なぜ見ず知らずの子供のために、
地下鉄の暗い線路の中で 小さなおもちゃを見つけ出してくれたのか
あのヒーローは小さな私に
「優しい子になってね」っていうのを伝えてくれたんじゃないかな
この駅員さんとのお話は、思い出す度に私の心を温かく灯してくれるものになった
次第に、私も誰かの心を灯せる人になりたいと思うようになった
そうやって幸せは 人から人へと必ず広がっていくもの
そうやって 次第に世界が救われていく
誰だってヒーローになれるんだよ
あの駅員さんはそういうことを知っていて
幼い私に温かい記憶をプレゼントしてくれたんだと思う