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「何が私に購入という選択をさせたのか」という考え方。〜「ジョブ理論」を読んで〜

こんにちは。

社会人3年目。普段、WebサイトのLP制作やSNS運用を担当しています。

話題の本の1つとして挙げられる「ジョブ理論」という本の話です。
定義(抽象的!)→具体例→再度定義するという、英語の文章の典型でしたが論文を読んでいるかのように読み応えがありました。

私の場合、読むのに1週間かかりましたが、読み終えた時に腑に落ちた感覚が忘れられないです。


この本を読む人が、頭の隅に入れて欲しい問い

日本語解説版として、最後に挿入されている訳者依田さんの言葉を引用します。まず、皆さんの頭の片隅に、この問いを思い浮かべてください。

・ニーズとはなにか?
・ビジネスチャンスとなりうるジョブを見つけるには?
・膨大なマーケティングデータに溺れないように気をつけるには?
・顧客中心の組織を作りあげるにはどうするか?
・顧客の印象に残るブランドを作るには?


ジョブの定義

ジョブとは何か

顧客はある商品を購入するのではなく、進歩するために、商品を生活に取り入れる
→この「進歩」の考え方を、顧客が片づけるべき「ジョブ」と呼ぶ。
→「ジョブ」を解決するために顧客は商品を購入ではなく「雇用」するという比喩を用いる。

一言で言われるとパッと思い浮かびづらい方へ、具体例を補足します。

皆さんは朝、出勤前(もしくは在宅でのお仕事の前)コンビニのコーヒーを飲みますか?

コンビニのコーヒーは100円程度で購入できますし、自宅でコーヒーメーカーなどがなくてもコーヒーを味わうことができます。喫茶店のようにゆったりとたしなむよりは、時間がないから手軽にコーヒーを飲みたいという要望を満たしてくれる、そんな存在のように感じます。

とある調査結果を引用します。

◆コンビニコーヒーの購入理由
コンビニコーヒーの購入理由は(複数回答)、「価格が安い」「値段の割においしい」「缶コーヒーやペットボトル入りコーヒー等よりおいしい」が直近1年間購入者の4~5割です。「味が本格的」「できたてが飲める」「気軽に買える」が各3割弱で続きます。コンビニコーヒーを主にセブン-イレブンで購入する層では、「缶コーヒーやペットボトル入りコーヒー等よりおいしい」が他の層よりやや高くなっています。
◆コンビニコーヒー購入時の重視点
コンビニコーヒー購入時の重視点は(複数回答)、「味」「価格」「香り」が直近1年間購入者の4~6割で上位3位です。以下、「容量、サイズ」「コクがある」「本格的」が2割前後で続きます。「容量、サイズ」は、女性で比率が高くなっています。コンビニコーヒーを主にセブン-イレブンで購入する層では、「味」「香り」がやや高くなっています。

ただその要望を深く追求してみると、味を求めるよりも実は目覚めるためのエネルギー源であったりしませんか?朝ごはんをがっつり食べる時間はないし、かといって菓子パンもお腹に入らない。コーヒーは健康に良さそうだし、目が覚めるし、しかも100円で飲めるから。

ここで、なぜ私がコンビニコーヒーでも「出勤前」と限定したのか。

それは「ジョブ」の考え方が「状況」に大きく関与しているからです。

以下、「ジョブ」を構成する3つの要素として本書で挙げられていた点です。

1. 進歩→顧客がなぜその商品を選択するのか。向かうべきゴールに向かう意味も含め、進歩と定義。

2. 状況→ジョブはジョブが発生した特定の文脈に関連してのみ定義できる。同様に解決策も特定の文脈に関連してのみ定義できる。
→今どこにいるか、それはいつか、誰と一緒か、何をしているときか、30分前に何をしていたか、次は何をするつもりか、どのような社会的・文化的・政治的プレッシャーが影響を及ぼすか
→状況が重要な理由として、成し遂げたい進歩の性質が状況に強く影響されるから。

3. ジョブは、継続し反復するものであり、独立したイベントであることはめったにない

コンビニコーヒーの例に当てはめて、この定義を考えてみます。

コンビニコーヒーが飲みたいという単独の欲望が湧き出るわけではありません。コーヒーと言っても現在では色んなお店でいろんなジャンルのコーヒーが販売されています。その中で私たち消費者は、どのメーカーのコーヒーを状況の中で取捨選択をし、最終的に購入したそのコーヒーを「雇用」する、という考え方なのです。

取捨選択をする際、

商品を選ぶ時間がない
自宅から最寄り駅の間に通いやすいコンビニがある
このコンビニのコーヒーの味が好き etc...

などの選択肢を選び抜いて、皆さんが日々購入するコンビニコーヒーにたどり着くのです。

このジョブ理論では、「雇用」される商品・サービスとはなんだろう?というマーケティング観点で語られながら、発展して組織論に移っていきます。

ジョブではないもの

ニーズとは違う。ニーズは常に存在し、漠然としている。ジョブはニーズよりはるかに細かい細分化を伴うため、ニーズとは異なる。
→ニーズは「健康的になりたい」などぼんやり。ジョブは状況と常に変化するニーズを考慮する。
・ジョブ理論が重要視するのは「なぜ」の部分であり「ストーリー」であること。マーケティングでよく語られる年齢層、性別、新規・リピーターなどで切り取ることはしない。

本書でも例として挙げられている「健康的になりたい」のはニーズに分類されます。
ジョブは、「今どこにいるか、それはいつか、誰と一緒か、何をしているときか、30分前に何をしていたか、次は何をするつもりか、どのような社会的・文化的・政治的プレッシャーが影響を及ぼすか」と深掘りしていくことで明確になると「状況」に大きく関与しています。
このように深堀りしていくと「健康的になりたい」が抽象的であることが分かります。1つの点をピックアップしたものにすぎません。


では、以下よりマーケティングの観点でジョブ理論を考えていきましょう。


マーケティングの観点から「ジョブ理論」を考える

最近、顧客起点でのマーケティングが重要だという文脈でマーケティングが語られます。私はこの考え方に賛成です。

自社製品を購入するときだけでなく、使用するときに、顧客はどのような体験を求めているのか?
→この問いが分からない企業は、おそらく雇用されることはない

ジョブ理論の作者も、顧客起点の考え方を元に論を展開しています。

本書で例に挙げられていた有名な2つの企業を紹介します。

例) Uber 
・レンタカー屋での消費者の不満を、逆手に取った。
レンタルするときの返却場所、ガソリン満タンにしなくてはいけないという気遣いをしなくて済む
・タクシーでのカードリーダーを通して、カードの情報が盗まれるリスクが少なくなる。またタクシー自体走っていない地域でも、Uberにドライバーが登録されていれば数分で来る可能性もある

日本ではUber Eatsが普及していますが、外国特にアメリカでは、配車サービスのUberも普及しています。いわゆる、タクシー運転手ではない一般の人が注文を受け、依頼した人の目的地まで車で送ってあげるサービスです。

本書では前述したように、Uberはレンタカー会社、タクシー会社に対する不満を逆手にとって指示を得てきた、つまり「雇用」されてきたそうです。単に価格が安い、便利であることはもちろん、レンタカー屋でレンタカーを借り、返却した・タクシーに乗った「体験」で生まれた不満の解決策としてサービス化したと言えます。


ジョブに適していることをどう伝えるか

ジョブに適していますよ、と消費者に伝えるのに有効な方法。その1つは「口コミ」です。

例) Amazonのカスタマーレビュー
評価が星いくつか、ということを気にする人もいるだろうが、最も知りたいのは「同じジョブのためにそのプロダクトを雇用した人たちがなんと言っているか」

口コミは、その商品を購入した人つまり「雇用」した先人たちの感想が書かれています。購入する際の判断指標として重宝している人も少なからずいらっしゃるのでは。

しかし近年では「ステマ」とか「サクラ」と呼ばれる、口コミ大工業者含め関係者が故意に口コミを投稿したりすることで本来の意図とはかけ離れた口コミが存在するのも報道されています。

※実際、消費者庁も景品表示法と絡めて問題として指摘しています

口コミの影

第6章の原注に書かれていたことです。

本書の作者は、作者の地元のレストランオーナーが、開店当初Yelpで素晴らしい評価を獲得したことを悔やんでいる記事を見た。
レビューの高い評価が「隠れ家的ないい店」だったため、食通たちの目に止まったという。彼のレストランは、自他ともに認める地元の良心的な普通のお店にすぎない。そもそも彼がターゲットに考えていたわけではない食通たちが、レビューの高評価のせいで店に押し寄せ、何かに失望し、悪いレビューを書き立てた。

ステマやサクラとは少し話の軸が外れてしまうかもしれませんが、何気ない流行が今までのお店の運営方法に合わず、それが「不満」として口コミに書かれてしまったこと。それはとても悲しいです。


顧客の人生を向上させているかどうかは、データでは測定しづらい

Webサイトアクセス数、訪問頻度、顧客満足度などは単純に計測できるようになった。しかし、それはあくまでもデータに過ぎない。

「ジョブ」の定義である「進歩」と関連して、作者もデータというのは顧客の人生を向上させているか否かという点においては計測できない、と述べています。

確かに、顧客満足度を見ればその商品がお客様に満足してもらっていることは分かります。しかし、サービスや商品を買ったことで、顧客の他の自由な時間ができたとかQOLが上がったなどは計測できるでしょうか。自社のサービスがどれくらい貢献したのか、計測できるでしょうか。

例えばamazonの場合、顧客の人生をどう向上させるかへの問いに対し、創業者ジェフ・ベソスは「豊富な品揃え、低価格、迅速な配送」と掲げ、これは毎分モニタリングされている。この3つの点を支持する顧客からお金をもらい、Amazonは「GAFAM」の1つに数えられるほど成長してきたとも言えます。


ジョブ理論の限界

人間の持つ幅広い動機を説明しようとしてつい「ジョブ」を使いそうになるが、私たちを動かすものすべてが、片づけるべきジョブではない。ジョブは、発見するにも正しく理解するにも努力を要する。

気を付けるべき点

・同僚が片づけるべきジョブを、あなたが形容詞や副詞で説明しているとしたら、それは有効なジョブではない。顧客が必要としている「体験」を説明している可能性はあるが、ジョブと体験は異なるもの。
例) 「便利な」→顧客が自社の商品を選ぶ理由かもしれないが、ジョブではない。
ジョブの場合、「手作業でタイプしたり編集したりしなくてもいいように、本を口述で書く必要がある」と表現する。

・ジョブには適切な抽象度が必要
同種のプロダクトでしか問題解決できないのであれば、それはジョブではない
例) 350mlの使い捨て容器に入ったチョコレート味のミルクシェイクが欲しい→ジョブではない。
通勤中、私の目を覚まさせ、運転に専念できるもの。さらに10時~始まる会議のあいだに空腹を感じさせないように、小腹を満たせるもの。このジョブにはバナナ、スニッカーズ、コーヒーを雇用することが考えられる
→これらはすべて異なる商品に属しており、適切なレベルの抽象度。

ここまでご覧頂いた方は、「ジョブ」の定義を理解して頂くとジョブ理論の限界もご理解頂けると思います。


ps. デザイン思考との関連

デザイン思考は、顧客への深い共感理解と発散思考、および解決策の機敏な反復を重視する。デザイン思考の中心をなす要素は、ユーザーの体験をプロダクトの属性よりも高い優先順位を割り当てること。
→ジョブ理論と考え方の土台が同じ


この本を読んで

先日、「「心」」がわかるとモノが売れる」という本を読みました。「ジョブ理論」を読み進めていくと、同じことを指摘していると気づいたのです。

つまり、95%無意識に支配されている人間の心をどう捉えるか。
何がその人の行動に影響を及ぼしたのかを考えることの重要性
を再認識したのです。

「ジョブ理論」では実践よりも概念について述べている印象でしたが、実践方法については「「心」」がわかるとモノが売れる」という本をぜひご覧ください。

▼私のnoteで簡単にまとめています。

そしてジョブ理論の考え方は、「デザイン思考」「UX」(ユーザー体験)の考え方とも似ている部分があり、これらを勉強している私にとっては点と点が線でつながったような感覚になりました。


最後に、この本を読む上で(そして今後も)大事な5つの問いを再掲しておきます。

・ニーズとはなにか?
・ビジネスチャンスとなりうるジョブを見つけるには?
・膨大なマーケティングデータに溺れないように気をつけるには?
・顧客中心の組織を作りあげるにはどうするか?
・顧客の印象に残るブランドを作るには?

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ここまでご覧いただき、ありがとうございました。
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