世にも奇妙なぼく物語【金縛り】
そんな風に、親しげに言うもんだから。
うっかり、招き入れてしまったじゃないか。
これは、ぼくが実際に体験した話だ。
だから、特にビックリするようなオチがあるわけではないんだけど、最後まで読んでくれたら嬉しい。
今思えば、最近の天気にしては珍しく雨の日だった。早朝に誰もいない職場で仕事をして、長めの昼休憩を取って、夕方からテニスのレッスン。最近のぼくの仕事のルーティーンだ。
その日も、家でお昼ごはんを食べて眠くなったからベッドに潜り込んだ。アラームもセットしたし、20分。20分だけ仮眠を取ろう。そんな予定通りにいかないことは、ぼくが一番よく分かっていたんだけど。
・・・・・・・・・
パッ。と瞼をこじ開ける。
…あー、嫌な夢見た。ぼくは現実味のある夢が一番の悪夢だと思っている。今見た夢は、ジュニアレッスンだっていうのに、大人が紛れ込んでいて「打つ量が少ない」だの「子ども騙し」だのクレームを言うのだ。ジュニアレッスンだから当たり前だろ。
時間は…うわっ、1時間以上寝ちゃったのか。まぁ予想通りっちゃ予想通りだけど。夢見が悪いとどうも寝つきが悪い。いや、寝つきが悪いから夢を見るんだったっけ。どっちでもいいけど。
家を出る時間まであと20分ぐらいあるな。ぼくは18分のタイマーをセットして目を閉じた。
……閉じなければ良かったかな。
・・・・・・・・・
-今年の夏に転勤した上司がぼくの目の前に立っている。肌の焼けた小太りな陽気なおじさんだ。ぼくは少し懐かしさもあって、「いいですよ」なんて快諾してしまったー
返事をしてすぐ、ぼくの世界から光が消えた。
・・・・・・・・・
ぼくは目を閉じている。ここはどこだ。ベッドの上だ。どこの。自分の部屋の。目を閉じてるからそんなの分かるワケないんだけど、でもこの感じはぼくの部屋だ。
ぞわわわわワワワわワわワッ。
全身の毛が逆立つのを感じる。誰か。誰かがぼくの側にいる。
姿も見えない。息遣いも聞こえない。でも、確実にダレカがぼくの側で立っている。気配って、このことを言うんだ。
恐怖で筋肉が萎縮してしまっている。怖くて目なんか開けられない。この時ようやく異変に気づく。
― 身体が、動かない。―
・・・・・・・・・
これが金縛りってやつか。動かない身体に反して、脳みそはフル稼働。生まれて初めての体験だなー...じゃないんだよ!
力を振り絞ってるのに、身体は一切動いてくれない。ダレカがぼくを上から覗きこんでいる。気持ち悪いキモチワルイきもちわるい。
そうだ、声を出そう。声を出せばダレカもびっくりしてどこかにいくんじゃないか。せーのっ。あーーーーーーーーーーーーっ!
ぼくの声は脳内で反響しただけだった。喉が締まっている。皮の外から締められているというより、内側の声帯が締めつけられている感じだ。
全身が粟立つ。目は開かない、身体は動かない、声も出せないやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい
・・・・・・・・・
ダレカがさらに近づいている。ぼくの毛布をたくし上げて。姿は見えないのに。
ダレカは、笑っている気がした。
・・・・・・・・・
てんてんてんてん、てんてんてんてん。
iphoneのアラームの音で目を開く。あれは夢だったのか…夢にしては現実味がありすぎる。あー。ちゃんと声は出る。恐る恐る身体を起こして、周りを見渡しても勿論ダレもいない。
あっ、やばい。もう着替えて職場に行かないと。ぼくは急いでベッドを飛び出して支度をする。靴を履き替えて玄関のドアを開ける。
……今日もこの家で寝ないといけないのか。
この記事を書き残すために思い返すだけで鳥肌が止まらなかった。
瞼を開ければいつも通りだったことを考えても、きっと夢だったんだろう。…だから現実味のある夢は嫌なんだ。
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