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desk飯#2 熱気と刺激!タイBBQ弁当!

小洒落た看板。綺麗なキッチンカー。
自分と関わることはないものだと壁を作っていた。
いつから素直に「入れて」と言えなくなったんだろう。

ここは大東京。
昼飯を選ぶにも無限の選択肢がある。今日も僕は理想のdesk飯を探す。

夏のサプライズ登場がニュースでも取り立たされた6月某日、僕は辟易としていた。夏という季節が持つ圧倒的な一軍感。彼らは受け手のことなんて考えずに、嬉々としてサプライズをかましてくるタイプだ。喜ぶことを強要される受け手の苦労も知らずに。

そんな30°を超える昼休みだ。僕の足どりは重い。今日はコンビニで冷やし中華とおにぎりかもしれない、そんな安易かつ安定の選択をしようと僕は事務所を出た。

その瞬間。漂ってくる香りは僕を強烈に揺さぶった。
香りは記憶の引き出しをノックする。中学校の修学旅行で買った扇子を香れば、いつだって清水寺へ向かう坂道を歩いたあの日に戻れるように。

香りに包まれ、僕は3〜4年前、大学の授業で訪れたタイの空港にいた。
日が落ちているというのに圧倒的な暑さと湿気。
混沌とした力強さに、落ち着かなかったのを覚えている。

そんな懐かしさにつられて僕はその前に立った。
「タイのBBQ料理専門店」
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列に並んだ僕は、何処となくお洒落な雰囲気に飲まれていた。
僕は身なりの整ったお洒落さんに囲まれていた。
だからこんな小洒落たキッチンカーに並びたくなかったんだ。
自分は場違いではないか、少量過洒落過飯が出てくるのではないか。
そんな不安から何度も逃げ出しそうになった。
それでもあの日の香り、あの日の記憶が僕をこの場所に押し留めた。

前の人の注文に耳を澄ます。情報収集を怠るな、瞬時に判断しろ。
この店で注文すべきメニューは何だ?熟練のテクニックから僕は答えを導き出す。
「あっ、タイスタイルBBQコンボをください。」

弁当を受け取った時、既に不安は消えていた。
手中に収めたものが美味なる宝であることを確信していた。
キッチンカーは一種のパフォーマンスだ。
自分の注文したものが目の前で調理されていく。
その過程だけでもたまらないのに極めつけの直火グリル。
圧倒的な火力と熱気。あんなパフォを見せられて期待しない訳がない。

事務所で弁当を開けると、香ばしい香りに過去へトリップしそうになる。
大学生に戻りたい気持ちを抑えつつ、現実を見る。

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グリルされたチキンと豚トロ。脇を固めるヤムウンセンと後がけナンプラー。
更にはパクチーとチキンにかかったスイートチリソースが彩りを添えている。

この出会いに感謝した。並んでいた人々も実際はみんな良い人だった気がする。
落ち着け落ち着け。この弁当の存在がもたらす幸せオーラによって何の根拠もない性善説を唱えそうになっていた。

6切れあるという安心感からチキンを一口。
ジューシーな鳥モモ肉は皮がパリパリで香ばしい。
スイートチリソースとの相性は疑いようもないベストカップルだ。

そして豚トロ。正直言ってこの豚トロが楽しみ過ぎた。
僕にとって豚トロは公園でしか会えない名前も知らない親友といったところ。
彼と焼肉屋以外で相見えるのは初めてかもしれない。
一切れ口に放り込めば、特有のコリコリ感と吹き出す脂。
ジャスミンライスで追いかければ、これまた最高の組み合わせ。
マラソン大会でゴールまで一緒に走れるタイプの二人組だ。

箸休めのヤムウンセンも嬉しい。
程良い刺激と酸味が後半戦への期待を高める。

ここからはナンプラーとパクチーでブーストしていただく。
弁当の中の最強コンボの一撃を喰らって、僕はトリップした。

タイの夜。先輩に何故か連れて行かれたガールズバー。
急に始まったダンスタイム。ノリでカウンター内に入れられ、誰からも相手にされず一人で訳の分からないダンスを踊り続ける。最初は面白がっていたガールズはもう別のテーブルへ。カウンターを挟んで酒を酌み交わす僕ら。

「入れて」なんて言葉がなくても飛び込めたあの時。勢いとノリ。
そんな根拠のないものに身を任せて新たな挑戦をするのもたまには良い。

はっ……………!美味すぎて謎の思い出まで辿り着いてしまった。
回想を終えると弁当は空になっていた。
ごちそうさまでした。

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