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[DX事例58]電気の使用を抑制すれば電気が生まれる?関西電力の仮想電力DX(VPP)_関西電力株式会社

ITコンサル×パートナーCFOのタナショーです。

このnoteではDX事例やIT活用事例の紹介を通して、経営者の方がITを身近に感じたり面白いと思ってもらえることで、企業の成長に役立つ情報をお届けしていきます。

今回はエネルギー分野からです。関西の発電事業を行っており、電気の販売量でも国内TOP3に入ります。関西電力株式会社(KEPCO)の発電DXです。


電気の使用状況をチェックし、電気量を抑制することで仮想的に電力発電?関西電力のDX事例

仮想発電所(VPP:バーチャルパワープラント)という考え方があります。民間企業や一般家庭にある①太陽光発電、②蓄電施設、③省エネ努力により生まれる余剰電力。これらの電力リソースをまとめ、ひとつの発電所のように機能させるシステムを指します。

今回関西電力では上記の③省エネ努力により生まれる余剰電力を可視化させることで、VPPに参加するための統合プラットフォームを開発しています。そんな関西電力のDX事例を紹介します。


①顧客の電気使用状態を1分単位で見える化「K-VIPs」
リモートワークが当たり前の世の中になってきましたが、お家で過ごす時間が増えるということは家庭電力の利用が増えるということでもあります。工場や企業側の電力使用量は減っているようなので全体的な電力使用量には影響ないかもしれませんが、今後ますます電力の需要量が予測しづらい状況になると思います。

電力会社は停電を起こさないため、需要量を見極めた安定した電力供給が必要となります。安定した電力供給の解決策の一つがVPPであり、関西電力は需要者の電力使用量を確認できるプラットフォーム「K-VIPs」を開発しました。

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関西電力株式会社「関西電力とVPP(仮想発電所)を一緒に作りませんか?」より抜粋


「K-VIPs」は顧客内設備に取り付けたスマートメーターから電力使用量を取得して表示したり、電力会社と顧客が共同で電気の需給を調整するイベント「デマンドレスポンス」の見える化をサポートしています。

上図でも登場しているデマンドレスポンスとは「電力不足等で電力需要を減らしたいとき、顧客側が電気の使用を中止または利用時間をずらすなどで使用量を減らすこと」を指します。太陽光発電の売電と同じように、デマンドレスポンスに協力してくれる企業には「K-VIPs」で計測した電力抑制料に応じて報酬が発生するそうです。

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関西電力株式会社「「K-VIPs」の描く将来ビジョン」より抜粋

「K-VIPs」は今後、蓄電池や空調、EVなど社会を取り巻く様々なVPPリソースと接続していくことで、エネルギー市場分野への活用だけでなく、低炭素社会の実現や社会課題の解決に貢献する情報プラットフォームにしていきたいと語っています。


②電柱もDX? 電柱をIoT化して交通安全への活用や、電柱交換・寿命の予測
こちらは実証実験の段階ですが、ユニークな取組ですのでご紹介します。関西電力は、自社が保有する電柱270万本に対してIoT化することで電柱DXに取り組んでいます。電柱DXの実証実験は2つあります。

1つ目は電柱に取り付けられたセンサが車や自転車、歩行者を検知して、その位置や速度、方位データをバスに送信する取り組みとなります。交差点などの死角にいる歩行者の情報をバスの運転士に伝えることで事故を未然に防ぐ狙いがあります。危険な場合、骨伝導イヤホンで運転士に伝えることができるそうで、実験では安全性の効果が確認できたため、実用化を検討中とのことです。

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関西電力送配電株式会社「路車間通信および車車間通信による安全運転支援実証の概要」より抜粋


2つ目は電柱のAI寿命予測になります。一般的にコンクリート電柱の寿命は60〜70年だそうですが、立地や降水量などの環境により寿命は大きく変化するとのことで、従来は勘と経験で電柱交換時期を判断していましたがAIが代替します
データ入力自体は人が行いますが電柱のヒビの劣化状況、経年や電柱間の距離、降水量や海からの距離などの40種類のデータから、更新が必要な時期を予測するモデルを構築しています。AI予測により130年使える見込みの電柱もあるそうで、最適な交換時期を見つけることでメンテンナンスコストを下げることが期待されています。

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関西電力送配電株式会社「スマート保安の課題と具体的取組み事例について」より抜粋


DXと経営戦略の関連性について

関西電力は統合報告書「関西電力グループ統合報告書2020」において、DX戦略を重点課題であるマテリアリティの一つにあげています。さらに、2019年度から2021年度の3カ年で約700億円のDXに関する投資を実行しています。

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関西電力株式会社「関西電力グループ統合報告書2020」より抜粋


DX推進体制としても、社内外の専門知見を活用するためにアクセンチュア株式会社と共同で「K4Digital株式会社」を設立しています。上図のように社長をトップとしたDX戦略委員会、各部門、K4Digitalの3つの組織が連携しながらDXを推し進めています。DXに関する取り組みも関連プロジェクト総数が約450件に登るそうで、その勢いがわかります。

関西電力は、電力自由化・エネルギー安定確保の事業課題や、脱炭素化・地球温暖化等の社会的課題に対応しつつ、お客様に新たな価値を提供するために活動を続けています。


まとめ

いかがでしたでしょうか?
今回は「VPP」をキーワードに、電力を新たに作り出す(仮想的に作り出す)という事例でした。

「顧客に電力使用を控えてもらう」=「仮想的に電力を作り出す」というのがユニークな考えですよね。VPPでは電力会社と顧客が共同で電力需給を調整する「デマンドレスポンス」をすることで、電力需要の負荷をコントロールしながら無駄なコストを減らすことができます。

今後もエネルギー分野では、太陽光発電や風力発電を代表とした再生可能エネルギーによる「創エネ」、電気を蓄える「蓄エネ」、そして今回紹介した「省エネ」。様々なエネルギーの利活用をしていくことで、低炭素かつ持続可能な電力供給を模索していくこととなります。
世界中の人たちが使う莫大な電力を安定供給しつつ、電力負荷を平準化していくためにはITの活用が不可欠でしょう。今後も安心して電気が利用するためにも、電力DXはどんどん発展していってほしいですね♪
タナショー


参考にさせていただいた情報
関西電力株式会社HP
https://www.kepco.co.jp
関西電力株式会社「関西電力グループ統合報告書2020」
https://www.kepco.co.jp/share_corporate/pdf/report2020.pdf
関西電力株式会社「「K-VIPs」の描く将来ビジョン」
https://www.kepco.co.jp/energy_supply/energy/vpp/system/index.html
関西電力株式会社「関西電力とVPP(仮想発電所)を一緒に作りませんか?」
https://www.kepco.co.jp/energy_supply/energy/vpp/vpp/index.html#parentHorizontalTab3
関西電力送配電株式会社「路車間通信および車車間通信による安全運転支援実証の概要」
https://www.kansai-td.co.jp/corporate/press-release/2021/pdf/0315_1j_01.pdf
関西電力送配電株式会社「スマート保安の課題と具体的取組み事例について」
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/sangyo_hoan_kihon/pdf/002_02_01.pdf
日本経済新聞「関西電力、電柱が「自動運転の目」 270万本寿命予測も」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF144TM0U1A910C2000000/
ゆめソーラー「VPP(バーチャルパワープラント)とは?VPPのメリットや補助金」
https://www.yumesolar.jp/column/vpp-infrastructure/

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