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シミュレーション・VR・3Dプリンタで素材の研究と開発を超・効率化!!〜DX事例27_東レ株式会社〜

ITコンサル×パートナーCFOのタナショーです。

このnoteではDX事例やIT活用事例の紹介を通して、経営者の方がITを身近に感じたり面白いと思ってもらえることで、企業の成長に役立つ情報をお届けしていきます。

今回は化学分野の会社です。合成繊維・合成樹脂などの化学製品の研究・開発を行う東レ株式会社のマテリアルズ・インフォマティクスを活用したシミュレーションのDXです。


マテリアルズ・インフォマティクスによるシミュレーションと、VR・3Dプリンタを利用した研究開発の効率化とは?

マテリアル・インフォマティクスという単語が登場しましたので、まずこちらから解説をします。

①マテリアルズ・インフォマティクスとはなにか?
マテリアルズ・インフォマティクスとは、統計分析などを活用したマテリアル(素材)シミュレーション技術の一種です。過去の実験や素材の分子構造のデータを元に生成したアルゴリズムを用います。従来の実物を用いた素材研究と異なり、シミュレーションを繰り返すことで目的となる新素材を探索することが可能です。

②マテリアルズ・インフォマティクスのメリットと問題点
実物を用いた研究と異なり、データ上でのシミュレーションとなることからメリットも想像がつきやすいかと思います。

まず、開発期間が劇的に短縮されます。従来の材料開発の進め方だと、類似の開発事例を参考にしながら研究者の経験と勘で素材を選定して、試作と性能評価を行います。当然、目標性能に満たなければ再度候補となる素材の洗い出しからやり直しとなり、試作と評価を繰り返すことになります。

この工程をシミュレーションで高速に実施できるのがマテリアルズ・インフォマティクスのメリットであり、従来型と比べて開発期間が50分の1に短縮する場合もあるそうです。また、開発コストの低減や、シミュレーションによる未知の化合物の発見などのメリットもあります。

逆に問題点としては、シミュレーションを行うためのアルゴリズム生成が難しい点にあります。今回の開発例で言うと、材料の分子構造や素材特性、素材を各種合成した時の反応情報がないとアルゴリズムが作れません。東レは独自の実験設備や生産設備でないと生み出せないようなフィジカルな実験データを持っており、この膨大なデータを元に、最適なアルゴリズムを作り出すことができています。

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マテリアルズ・インフォマティクスを活用した開発サイクル

③VRと3Dプリンタを活用して、更に開発期間を短縮
東レ独自のDXの取り組みについても説明します。
東レはマテリアルズ・インフォマティクスだけでなくVRと3Dプリンタを活用することで開発期間を更に短縮しています。

例えば顧客から材料開発を依頼された場合、顧客に評価してもらうために材料を試作してチェックしてもらう「顧客評価」という工程が必要ですが、東レはこの工程にVRと3Dプリンタを利用しはじめました。材料の試作時に実物を使うのではなく、VRを使って顧客に材料イメージを確認してもらったり、3Dプリンタで高速で試作を作ることで、「顧客評価」を素早くかつ、簡単に繰り返すことが可能になりました。

これらを活用することにより、素材の候補から量産までの工程においてマテリアル・インフォマティクスによるシミュレーション、VR、3Dプリンタを行うことで超効率化した材料開発が可能になっています。

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東レ株式会社HP「中期経営課題 “プロジェクト AP-G 2022”」より抜粋

経営戦略とDXの関連性について

東レのDXは全社的な取り組みとなっており、専門の組織も立ち上げています。

東レは2020年5月、中期経営課題である「プロジェクト AG-P 2022」を発表しており。重点施策の一つに「DXによる経営の高度化」を上げています。組織としても代表取締役社長である、日覚昭広氏を委員長とする「TDX推進委員会」を立ち上げ、トップ自ら指揮を執ることで全社横断した組織となっています。

TDX推進委員会は全社方針決定の機関ですが、さらにその下部に研究・技術開発と生産分野などの商品提供をする部分は「技術センターDX推進委員会」が担当。
さらに営業、財務経理などのバックオフィス含む共通業務部分を担当する「事業DX推進委員会」を設置して、積極的にDX推進を進める体制を整えています。

東レはDX取り組みで、データとデジタル技術を活用してビジネスを変革し、競争力の強化を目的に挙げています。このデジタルを活用したものづくりを「デジタルものづくり」と表現しており、商品開発も経営も超・効率化されたデジタルものづくりを勧めようとしています。

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東レ株式会社HP「DX戦略 TORAY」より抜粋

まとめ

いかがでしたでしょうか?

マテリアルズ・インフォマティクスは高度な計算処理能力が必要となるため、東レはスーパーコンピューター・量子コンピューターを利用しているそうです。素材の分子レベルでのシミュレーションをすることもあるそうなので、スパコンレベルが必要なのもうなずけます。

マテリアルズ・インフォマティクスには膨大な研究データや素材のデータが必要と書きましたが、それこそ東レの研究者が長年積み上げてきたものです。会社が長年貯め続けた成功事例や失敗事例のデータは、ITの視点から見れば価値ある宝のデータになりえます。
もちろん、そのデータをどう使うのか、どの部分の価値があるのかを考えるのが重要ではありますが、皆さんの企業にも重要なデータは眠っているはずです。会社内にお宝データがないか、今一度探してみてはいかがでしょうか?
次回の記事も楽しみにしていただければ嬉しいです。
タナショー


参考にさせていただいた情報
東レ株式会社HP
https://www.toray.co.jp
東レ株式会社HP「DX戦略 TORAY」
https://www.toray.co.jp/ir/integrated_report/pdf/report2020_11.pdf
東レ株式会社HP「中期経営課題 “プロジェクト AP-G 2022”」
https://www.toray.co.jp/ir/pdf/lib/lib_a552.pdf
NewsPicks「AIで革新素材は生まれるか? 次の50年をつくる「マテリアルサイエンス」最前線」
https://newspicks.com/news/5329051/body/
日経新聞「マテリアルズ・インフォマティクスとは 」
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO56056270W0A220C2EA2000/
株式会社日立ハイテクソリューションズ「マテリアルズ・インフォマティクスとは」
https://www.hitachi-hightech.com/hsl/products/ict/cloud/ci/or_mi.html

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