Book with Sofa Butterfly Effect

長崎市にある本のセレクトショップ店主 読書について、本について、文学について 長崎県長…

Book with Sofa Butterfly Effect

長崎市にある本のセレクトショップ店主 読書について、本について、文学について 長崎県長崎市油木町15-13 08051890191 keiko31@icloud.com

マガジン

  • バタエフェニュース

    長崎市にある本のセレクトショップ、Book with Sofa Butterfly Effectの読書案内。本の紹介から、読書案内、風変わりな誌上講座まで。

最近の記事

名もなき怪物の憂鬱

「頭に釘が刺さっていない」 Facebookのコメント欄に貼られた一枚の写真を見た私の感想。ジュネーブにあるフランケンシュタインの怪物像だった。200年前に書かれた名作で、何と作者は若い女性で、父にアナキズムの先駆者、母にフェミニズムの創始者を持つという。生まれて初めてフランケンシュタインに興味が湧いた。 フランケンシュタインといえば、失敗作の凶暴な人造人間。私たちの慣れ親しんだ怪物くんに出てくる「ふんがふんが」の温厚なあの子と本物は違うらしい。子どもの頃に聴いていて固

    • 甘ったれる

      「ニャーン」猫に話しかけられたことのある人なら、その時に胸の奥から湧き上がる甘美な気持ちを知っているだろう。甘い甘い、逆らいがたい喜び。さっきまで必死に話し掛けても知らんぷりしていた猫なのに、まっすぐにこちらを見つめながら「ニャーン」とひとなきして歩み寄る。なんとも嬉しい瞬間だ。 谷崎潤一郎の「猫と庄造と二人のおんな」は、庄造の気を引く為に、猫に翻弄される女たちの話、または女たちに板挟みにされ翻弄される猫と庄造の話とも言える。 スキャンダル王の谷崎だから、この話の裏にも、

      • 恋の基本と結婚のカタチ

        #「ホモとアル中の夫婦」なんて自嘲的な呼び方。「夫がゲイで妻が依存症患者」ではなく「ホモとアル中の夫婦」。1991年に書かれた江國香織の小説「きらきらひかる」の主人公・笑子が自分たちを表現する時の言葉だ。時代的にこの呼び名にデリカシーのなさを感じなかったのだと見做すことも出来なくはないだろうが、普段、ものの名称にこだわっているこの作家が、なんの頓着せずにこの呼び名を選んだとも考え難い印象的な呼び方。 読書会はいつものように、年齢もバラバラ、結婚観や夫婦観、生活感などもバラバ

        • 自由という苦痛

          ある説によると、現代を生きる若者のコンプレクスは、人と変わっていることではなく普通であること、特徴のないことらしい。自我の確立していない状態で、個性を際立たせようと考えれば、思いつくのは、隣人と比較し、隣人がしていないことをするしかなく、結果巡り巡って没個性となってしまうジレンマが彼らを苦しめるそうだ。 注目と承認に頼って生きる若者なんかにとっては、なるほど、没個性は死活問題なのかもしれない。 さて、先日の読書会のテーマ、安部公房「砂の女」は、1962年新潮社より発行され

        マガジン

        • バタエフェニュース
          0本
          ¥500

        記事

          自意識のゆりかご

          「キャッチャー・イン・ザ・ライ」または「ライ麦畑でつかまえて」は私の気に入りの作品だ。当店では2回も読書会をした。世間的には中二病の代名詞のように扱われ、ジョンレノンを撃った犯人も、レーガンを撃った犯人も同様にキャッチャーを持っていたという不名誉な伝説までつきまとう良くも悪くも影響力の高い作品である。 主人公のホールデン少年は、まるでくまのプーさんのように、いつ本を開いても、どのページを開いてもホールデン少年のまま。変わらない、成長しないままいてくれる。普通、少年を主人公と

          孤独とひきかえに

          フランソワーズ・サガンの「ブラームスはお好き」の読書会以来、恋愛・パートナーシップについて考えているから、どの小説を読んでいても、恋人達へ目が向く。 今、日本にあるリア充とか、モテとか、そう言った言葉は子どものおもちゃに過ぎないのだと強く感じる。 少し古いが、だめんずや、こじらせ女子なんてカテゴライズも、表面的な自分や相手を合理的にジャッジして、自省的に生きることからの逃げ口上として便利だったのかもしれない。 私なんかは、こういうカテゴライズを見ると、この国では恋愛にお

          ホリーたちに

          「ティファニーで朝食を」と聞けば、多くの人はジバンシイの黒いドレスを着こなすオードリーを思い浮かべるだろう。先月というタイミングでカポーティの「ティファニーで朝食を」の読書会を開催することに決めたのも、店のすぐ側の美術館でオードリー展が開催されていたからだ。 しかし、私にとっての「ティファニーで朝食を」は映画のイメージではないのだ。原作の切ないイメージが勝つのだ。アンバランスで素っ頓狂なホリーの言葉が、私のある記憶にピタリと重なっていた。一方で、カポーティと思わしき主人公の

          人生に寄り添う本

          今月、私の店では、ペコロスシリーズの作者・岡野雄一さんをゲストに迎えて語らう会を開く。講演会やトークショーではなく、語らう会。皆で車座になって話すのだ。作家先生を捕まえてこんな無礼な企画を…と思うが、ご本人が「そんな風がよかよね」とおっしゃたので、私は悪くない。話に乗るくらい図々しいだけだ。 さて、ペコロスシリーズは、介護エッセイコミックというジャンルに分けられていることと思うが、私は古典にもなりうる文学作品だと思っている。というのが、何よりこの作品は、介護世代の心に寄り添

          恥ずかしくて叫べない詩人の会発表作品第一回テーマ「恥」

          ドーナツの穴のほとりで 古屋桂子 ドーナツの穴のほとりでお会いしましょう 誰にも言ったことはありませんが 私はドーナツの穴を持っているんです 嘘じゃありません 本当です あなたに初めてお会いした日に 私は心底驚きました ドーナツの穴をポケットに入れて いつでも形を確認しているのですから

          有料
          100

          恥ずかしくて叫べない詩人の会発表作品第一回テーマ「恥」