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海外フリーランスの日本帰国時の税金の取り扱いについて

ノマドビザを発行する国が増えているおかげで、世界中で働くフリーランスの人たちも増えています。そうした中で、「日本に短期間戻ったとき、税金はどこに払うべきなのか」という疑問を持つ人が多いかもしれません。

今回は、ジョージアのケースを例に一時帰国の際の税金について解説していきます。あくまで税務の素人がまとめたものであり、参考程度に読んでもればと思います。

最初に簡単な結論を言うと、海外で働いているエンジニア系の人は、条件付きで一時帰国時の日本国内の所得税を免除されます。その他の職業については下記記事を読んでいただくと共に、税理士に相談することをオススメします。

ジョージアの税務上の居住者の場合

まず、税務上の居住者とは何かということから説明します。ざっくり言うと、居住実態があり、税金を払う必要のある国を指します。ジョージアの場合「183日以上居住する予定の方」は居住実態がジョージアにあるとみなされます。つまり、半年以上ジョージアに滞在していて、一年以上海外に居住予定であれば税金の支払い場所がジョージアになります。正確には、日本の非居住者であることも伴わせて必要なのですが、非居住者につい手の説明は今回は省略します。

次に疑問として湧いてくるのが「ジョージアと日本どっちに税金を払えば良いのか?」というものです。この疑問への回答は租税条約に記されています。ざっくりいうと租税条約とは、異なる国々で仕事をする際の税金の収め方の取り決めです。主な目的は二重課税を避けることで、私を例にすると、ジョージアの税務上の居住者である私が一時帰国して仕事をしたとしても、両国で税金を二重に払わなくても済むように保護してくれる仕組みです。ジョージアと日本の租税条約はこちらから確認ができます。慣れるまでは正直呪文にしか見えないのですが、何度か読み返したり、税理士さんに質問していくとなんとなく分かったつもりになれます。

今回は、私のようなノマド民はどうすべきかを説明したいので、フリーランスに限定して説明していきます。まず、フリーランスは租税条約上でどのように定義されているか確認していきます。P六ページの(k)に下記のように定義されています。

(k)「事業」には、自由職業そのほかの独立の性格を有する活動を含む

日・ジョージア租税条約 ページ六

めっちゃ分かりにくですね。自由職業ってなんだよって感じです。昔は自由職業の欄がある程度詳細に記述されていたらしいのですが、OECDモデルの改訂の際に多くの国の租税条約から説明が消えてしまったそうです。このため、ほとんどの国の租税条約には自由職業についての説明がなく、世界中のノマドを混乱に陥れているのです。悪いのは理解できない私たちではなく、OECDなのです。今回は奇跡的に過去の説明のまま残っているインドと日本の租税条約を通して、自由職業とは何かについて確認していきます。P八八七の第十四条の2に自由職業について記述されています。

2 「自由職業」には、特に、学術上、文学上、美術上および教育上の独立の活動並びに、医師、弁護士、技術士、建築士、歯科医師及び公認会計士の独立の活動を含む。

日印租税条約 ページ八八七

どうでしょう?私はこれを読んでも自分が自由職業に当てはまっているのかさっぱり分かりませんでした。技術士に該当しそうだけど技術士って何?って感じで、日本語の難しさを改めて痛感させられました。税理士さんに確認したところ私の業務内容は技術士に該当するとのことで、プログラミング等を生業としているフリーランスの方はとりあえず自由職業っぽいです。その他の業務内容については、個別で税理士に確認した方が良いと思います。

一旦整理すると、フリーランスでプログラミングをしていたら、自由職業に該当する自由職業の業務は日・ジョージア租税条約のページ六から、事業とみなされる。つまり事業としての収入についての項を確認する必要があることが分かります。
事業収入については日・ジョージア租税条約のページ一五の第七条、事業利得で確認できます。結構長いので、要約を箇条書きにしました。

1. 日本の恒久的施設(簡単に言うと事務所やオフィス)を通じて仕事しないなら、ジョージアで税金納めて
2. ジョージアに恒久的施設(普段している職場、例えば家)があるならジョージアに税金納めて

日・ジョージア租税条約 ページ一五

恒久的施設ってなんぞ?って思うかもしれませんが、説明しだすとそれだけで一本の記事が書けてしまうので、今回は自分の職場程度で認識してもらえれば大丈夫です。要は、ジョージア国内の自宅やオフィス等をメインの仕事場にしている場合は、恒久的施設がジョージアにあり、ジョージアにだけ税金を納めれば良いということです。

ここで疑問なのが、一時帰国時に仕事している場所は恒久的施設とみなされないのかということです。これについての回答は「一定の条件を満たしていれば恒久的施設としてみなされない」です。実は一時帰国時に、実家やホテルなどで作業したとしても、何ヶ月も同じ場所で作業しなければ恒久的施設とみなされないようです。つまり、何ヶ月も作業していたジョージアにだけ恒久的施設があることになります。よって、恒久的施設のあるジョージアにだけ所得税を納めれば良いことになります。

具体的に何ヶ月まで日本の同じ拠点で作業していいの?何ヶ月まで一時帰国していいの?ということも気になると思います。日本の税務上の居住者の定義が曖昧なため明確な答えがないようですが…同じ場所で何ヶ月も仕事をすると恒久的施設の認定リスクが高まると思います。一方、転々と拠点を変えている方は、おおむね日本に恒久的施設がないとみなせるようです。また、税理士に相談したところ一度の滞在期間はおおむね1~2ヶ月が妥当とのことでした。

煮え切らない回答ですが、あまり作業場所を固定しすぎたり、滞在日数を増やす程、曖昧な日本の所得税法の餌食になる可能性が上がっていきます。下手にリスクを取らず、うまく一時帰国することをおすすめします。

また、仕事の内容によっては注意が必要なケースがあります。例えば、日本に事業に関する倉庫を持っていて、倉庫に在庫を抱えている場合などです。この場合、恒久的施設が日本にあるとみなされ、日本で税金を払う義務が発生する可能性が高いようです。その他にも、デザインや動画などの著作物を扱うケースもちょっと特殊なため、場合によっては日本での納税義務が発生します。例えばYoutubeで日本語の動画投稿をして利益をあげているとします。この場合、動画が視聴されているのは主に日本になるため、日本で利益が生まれたとみなさます。つまり海外で法人化してない場合、日本での納税義務が発生する可能性があります。

ここまで話すと、「フリーランスエンジニアは安泰」だとか「多分私の仕事内容なら大丈夫」と安心されたかもしれません。しかし、まだ気をつけなければいけない点があります。帰国時にこの租税条約の恩恵を受けるためには、租税条約の届出を日本の税務局に提出する必要があります。出し方はいくつかあるようですが、私は租税条約に関する届出書に必要事項を記載し、取引先を通して税務署に提出してもらいました。
ちなみに、私は複数社と取引をしているのですが、その内の1社は「租税条約に関する届出書なんてよく分からんし、リスクありそうだからヤダ」と断られてしまいました。結果的に、その会社からの収入は源泉徴収されてしまい、ジョージアと日本で二重課税されてしまいました。

結論

ここで「えっ、逆にちゃんと申告したら二重課税されるリスクあるじゃん」って方が出てくると思います。その通りです笑
っで、私は結論に至ったのです…租税条約とかもはや出さなくていいんじゃないかと…
出さなくても徴収ミスなのは取引先の責任ですし、取引先を思って提案しても二重課税を強要される…それなら、しれっと帰国してやり過ごす方がベストな気がします。なお、私が揉めたのは取引先というよりも取引先と契約している税理士です。国際税務に弱い税理士からすると「よくわかんねーし、ワンチャンリスクかもしれんし、関わらねーわ」といったスタンスなのかもしれません。
とはいえ、大事な取引先に対しては後々揉めないように、適切に租税条約の届出を提出する必要があります。その点は、気をつけましょう。

その他の国のケース

おおよそジョージアと変わらないと思います。自身で簡単に確認したい場合は、居住国と日本の租税条約の和文を確認しましょう。「自由職業の定義」と「事業利得」について確認し、ジョージアと同じである場合、租税条約の届出を出せばOKなはずです。また、個人で税理士に相談しなくても、取引先が税理士と契約しているはずなので、取引先の税理士が色々とサポートしてくれる可能性があります。

その他の職業

インドの租税条約の自由職業の説明を見て、私は大丈夫だという方はそれで良いともいます。一方、自分は大丈夫なのかよく分からないという方もいると思います。そういった場合は、素人で判断するのは難しいと思いますので、税理士への相談をお勧めします。

ただ、国際税務に強くない税理士に相談してしまうと、まともな回答が返ってこないどころか、正反対の回答が来たり、ノリでデタラメな回答をしているだけだったりすることがあります。私も複数の税理士と話してみて色々とやばいやつに当たりました…なので、しっかり国際税務に詳しい方を探すことをお勧めします。

日本以外でノマドした場合

これについては、居住国がどの国と租税条約と締結しているかを確認する必要があります。「double tax avoidance treaty」と居住国名とかでググれば締結国一覧が出てくると思います。ジョージアの場合、58カ国と締結しているので、対象国では租税条約の届出を出せば税金を払わなくても基本OKなはずです。あるいは、国によっては届出を出す必要がないかもしれません。ここについては旅先の国の税務署等に問い合わせないと正確な回答がわかりません。ただし、あくまで二重課税を避けることを条約として結んでいるので、恒久的施設のある国で税金を払っていればあまり心配はいらないのではないかと思います。

一方、気をつける必要があるのが、ワークパーミッションがないまま旅先でリモートワークをしてしまうことです。これは労働許可がないのに不法労働していることに該当します。タイでは、労働許可なしのノマドワーカーが空港で止められたという事例があったようです。この件では、最終的にお咎めなしだったため、告発されない限りあまり問題にならないというのが共通認識になっている気がします。ただ、今後海外ノマドの増加とともに注意が必要になってくるとも思います。

個人的には、世界の法整備や規制が追いついていないだけなので、自己責任で世界を楽しむ分には全然アリなのでは?と思ったりもしますが…

帰国時適用されるのは短期滞在者免税じゃないの?

これよくある誤解ですが、短期滞在者免税は正社員のケースです。駐在員向けの制度だと思われます。たまに、フリーランスの税務相談をした際にこの短期滞在者免税を持ち出すチンチクリンな税理士がいるようですが、やべーやつなので他の税理士を探しましょう。


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