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しくじり商品研究室:ホンダ・ジェイド

商品を企画する際に、ヒットに導くのは難しいのですが、反対に失敗要素を極力減らしていくことなら比較的実行しやすいです。
ここでは、失敗した商品の原因を知ることで、失敗要素を減らす参考になればと思います。
(トップ画像引用元:https://www.honda.co.jp/auto-archive/jade/2020/

ホンダ・ジェイドの例

ヒット車の後継として

ホンダ・ジェイドは、ホンダが「ストリーム」の後継として販売した乗用車です。「ストリーム」は5ナンバー枠に収まるコンパクトさと、最大で7人が乗れる便利さでヒット、2代に渡って販売がされました。トヨタも「ウィッシュ」で追随し、熾烈な争いを繰り広げました。
そんな「ストリーム」からバトンを受け取った「ジェイド」ですが、車好きの間では”売れなかった車”として有名です。
発売当初に掲げた月間販売目標3,000台を一度もクリアできず、過去3年間での累計販売台数は約2.1万台にとどまりました。月平均で約550台です。
自動車メディアでも売れなかった理由は語りつくされている感じはありますが、今回はこの「ジェイド」を見ていきたいと思います。

しくじり理由

①勝ち筋をそのまま転用したこと

「ジェイド」が発売された2015年頃、乗用車のトレンドはトヨタ「ノア」や「ヴォクシー」、日産「セレナ」といった背の高いミニバンに移っていました。実際に2015年の車名別新車販売台数では、5位に「ヴォクシー」がランクインしています。

(引用元:https://toyota.jp/ucar/catalog/brand-TOYOTA/car-VOXY/201404/10090280/)

ヴォクシーのみならず、各社の同様の車種も10位~20位にランクインしており、好調な販売だったことが伺えます。トヨタに至っては、「ノア」「ヴォクシー」の2本立てだったラインナップに「エスクァイア」という兄弟車をさらに追加して販売を強化しています。
確かに、前モデルの「ストリーム」は売れていましたが、ニーズが変わる中で、背の低いミニバンをそのままモデルチェンジをしてしまったのがしくじりポイントだったと言えるでしょう。

②競合に対して優位でなかったこと

一方で、背が低いことのメリットもあったはずです。背が低いと重心が低くなるので、コーナーでも安定してスポーティな走りが楽しめます。
この点でライバルになるのが、スバル「レヴォーグ」などに代表されるワゴン車です。

(引用元:https://www.subaru.jp/onlinemuseum/find/collection/1st-levorg/)

5人乗りで荷物も積めてスポーティー、というのがワゴン車の魅力です。ワゴン車相手なら、背も低くてスポーティ、荷物も載るし、乗車人数で勝る「ジェイド」なら勝ち目がありそうです。
ところが、「ジェイド」はモデルチェンジにあたって、3列目の頭上空間がほとんどなくなってしまいました。大人が座ると窮屈です。
それでも3列目のシート使わずに、普段5人乗れればワゴン車と互角になるはず・・・ですが、なんと「ジェイド」は2列目のシートは中央にひじ掛けがあって、この状態では4人しか乗れません。

(引用元:https://www.honda.co.jp/auto-archive/jade/2020/webcatalog/interior/cabin/)

3列目は大人が乗るには窮屈で、2列目は2人しか乗れない、つまり実質4人乗りで、ワゴン車と比較したときにもメリットがなかったのが、しくじりポイントの二つ目です。
なお、途中の改良でそれまでの6人乗りに加えて、ワゴン車と対抗できる5人乗りが設定されました。ただ、その時には月の販売目標も500台と、ホンダ側も見切った感じでした。

③顧客ニーズを捉えていなかったこと

背が低いことのメリットの一つとして、スポーティな走りができると書きましたが、そのスポーティのニーズも時代とともに変わっているように感じています。
2002年の排ガス規制から、スポーツカーは減り、自動車に求められる性能も速さより燃費に代わっています。2015年の車名別新車販売台数の9位にランクインしているのはホンダ「ヴェゼル」で、昨今のSUVブームが始まっていたことが見て取れます。

(引用元:https://www.honda.co.jp/auto-archive/vezel/2018/webcatalog/styling/design/)

かつての「スポーティ」は、モータースポーツ風の自動車自体が速いことですが、現在の「スポーティ」はアウトドアやスポーツに出かけるライフスタイルに変化しています。
その中で、ミニバンとして走りの良さをメインに打ち出してしまったことがしくじりポイントの三つ目と言えそうです。

本当にしくじり商品か?

いかがだったでしょうか。
ここまで、しくじりポイントを上げてきたくせに、最後は本当に「ジェイドはしくじり商品だったのか?」を考察していきます。
私自身、実はこの「ジェイド」に対して、ホンダ社内ではそれほど失敗作として扱われていないのではないかと思っています。
もちろん、国内市場での販売状況を見ると失敗なのですが、「ジェイド」はもともと中国で販売していた車です。中国では「とにかく人を乗せたい」というニーズが存在し、手軽なサイズに6人が乗れる「ジェイド」の売れ行きは良かったそうです。
国内市場では、トヨタが対抗となる「ウィッシュ」をモデルチェンジしなかったことからも、市場が衰退していたことは明白です。ただ、「ストリーム」でこの市場を作ったホンダとしては、「ジェイド」で実際に市場の状況がどうなっているのか、確認することができたはずです。
国内専用で新しい車を開発したのではなく、中国で売れている車を販売したのであれば、投資額も小さかったはず。若干の”残り福”を手に入れ、市場の確認ができたのあれば、まあ、それでもよかったよね、という見方もできると思います。結局、商品の成功は、投資と収益のバランスで成り立つので、ただ売れているかどうかだけでなく、複数の視点で見ないといけないでしょう。

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