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ヒット商品分析図鑑 #3 スポーツドリンク

国内だけで年間45億本も売り上げられているスポーツドリンク。

そんなスポーツドリンクですが、実は、ある社会問題を解決するために生まれたことを知っていますか?

【1】スポーツドリンクについて

1. 商品名・サービス名
 スポーツドリンク

2. 発明年・発明者
 1965年 ロバート・ケード博士(フロリダ大学泌尿器科専門医教授)

3. 概要
 スポーツや重労働時などに、効率よく水分とイオンやミネラル類といった栄養が補給できる飲料。発汗によって崩れやすい体内のイオンバランスを正常に保ちやすくする効果があります。代表的な商品である「ポカリスエット」は国内だけで年間約6億本の売上を誇るほど、日本人にとって身近な存在です。


【2】SCAMPER解説


1960年代、アメリカではアメリカンフットボール選手が発汗による脱水症状や熱中症のために死亡してしまうケースが後を絶ちませんでした。その数は、なんと年間20名にものぼりました。

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(出典:スポニチ

アメフトでは、頑丈なプロテクターを装着して運動するので、練習中には実に2.5リットル以上の汗が出ていたと言われています。1日に必要な水は2.5リットルと言われているので、それだけの水分が汗となって放出されることの危険性は想像に難くないと思います。

実は、当時のスポーツコーチの大半は、練習中にどれくらい発汗するかといった医学的知識が不足していました。それどころか、「厳しい練習を乗り越えるからこそ一流の選手が育つ」といった、所謂スポ根のような考えを持っていたので、この問題はなかなか解決されてきませんでした。

しかし、スポーツ科学の発展により、科学的なトレーニングによって選手が成長するようになったため、スポーツは単なる根性論ではなく、科学的なアプローチが重要だと徐々に認識されるようになっていきました。 


これと時を同じくして、建設現場でも、炎天下で作業していた従業員が次々と倒れる問題が発生していました。

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(出典:夏の日の現場は大変!?職人さんあるある

しかし、彼らは作業現場で自由に水を飲むことが許されていたのです。それにも関わらず、倒れてしまうという問題が起きたため、それを解決すべく調査や研究が行われるようになりました。


そして調査や研究の結果、体液の濃度、つまり水分とイオンのバランスが重要であることがわかったのです。

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(出典:美味しい水とは?

人は暑い時には、汗をかいて体温を調節します。その機能を正常に働かせるためには、「体液の量が十分であること」「体液の濃度(水分とイオンのバランス)が一定であること」が重要です。

発汗によって水分とイオンが失われると、体液の量自体が減ってしまうので、脱水症になってしまいます。

そこで水分だけ取ってしまうと、体液中の水分とイオンのバランスが崩れ、体液の濃度がどんどん薄くなります。体液中のナトリウムイオン濃度が薄くなると、「低ナトリウム症」を発症してしまい、頭痛や痙攣、最悪の場合は死に至るという危険な疾患が起きてしまいます。

また、体液が薄くなると、身体は体液の濃度を元に戻そうとして、のどの渇きが無くなり、尿によって水分を排泄しようとします。その結果、体液を失ってしまい、脱水症になったり、体温調節ができなくて熱中症になるなどの症状が出てしまいます。

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(出典:水分補給とイオンと健康の深い関係


つまり、発汗した時には、体液の濃度が一定になるように、水分だけでなく、イオンとなるナトリウム等を補給する必要があることがわかりました。

その後、建設現場では塩の錠剤が支給されるようになり、水を一定量飲むごとに塩の錠剤を服用することで、倒れるという問題は解決されるようになっていきました。

上記のような経緯から、スポーツや重労働には、水分補給と、イオンとなる栄養の補給が重要であると認識されるようになりました。


そんな中、フロリダ大学のロバート・ケード博士は、同大学のアメリカンフットボールチーム「ゲーターズ」のコーチから、選手の脱水症状や熱中症を解決する方法を研究してくれないかと依頼されました。

そこで、ケード博士は水分と栄養を同時に補給できる、スポーツドリンクの開発に着手しはじめました。

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(出典:Wikipedia


そして「ゲーターズ」の全面協力のもと、世界で初めてのスポーツドリンク「ゲータレード」が開発されたのです。

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(出典:Gatorade

ゲータレードは、効率よく水分を補給できることに加え、体液の濃度が一定になるように、カリウムイオンやナトリウムイオンといった「電解質」、さらには、マグネシウムやカルシウムといった「ミネラル」が補給できるようになっています。

また、体液に近い浸透圧にしたことで、胃腸への負担が軽減されるという特徴も持っています。

ゲータレードの開発に協力した「ゲーターズ」は、ゲータレードを公式に使い始めた年に、初めてオレンジボウル(大学のアメリカンフットボールの大会)に進出し、勝利するという快挙を成し遂げたのでした。

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(出典:WRUF


◾️スポーツドリンクをSCAMPERに当てはめると

Substitute(代える)
清涼飲料水では栄養素が不足することに気づいて、普通の清涼飲料水の成分を電解質やミネラルといった成分にSubstitute(代える)した。


【3】補足


スポーツにおいて、水分と栄養補給の重要性が世界的に認識されていくにつれ、多くの企業がスポーツドリンクの市場に参入するようになりました。

今ではたくさんのスポーツドリンクが販売されていますが、それぞれ異なる特徴が見られます。

その一部をご紹介します。

・ポカリスエット(大塚製薬)
発売された1980年から、「発汗により失われた水分、イオン(電解質)をスムーズに補給する健康飲料」として売り出されました。
コンセプトは「飲む点滴」。多くの人に飲んでもらえるようにと、スポーツドリンクではなく、日常生活の中で飲む飲料を目指していました。
また、食品関係のパッケージには使われることのなかった青色を採用し、その後の日本におけるスポーツ飲料の清涼なイメージを定着させました。

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(出典:大塚製薬ポカリスエット製品情報


・アクエリアス(コカ・コーラ)
ポカリスエットの発売から3年後、ポカリスエットに対抗する商品として発売されました。
ポカリスエットが甘味が強いのに対して、アクエリアスは酸味が強く、より体液に近い商品を目指していました。現在は世界26カ国にて販売されており、国際オリンピック委員会、FIFAワールドカップの公式スポーツ飲料でもあります。

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(出典:アクエリアス製品情報


・DA・KA・RA(サントリーフーズ)
グレープフルーツ味のすっきりした甘さのスポーツドリンク。スポーツドリンクの消費者を調査する中で、スポーツドリンクが飲まれるのはスポーツ後よりも二日酔いの後や仕事の合間が多いことに気づき、脂肪分、当分、塩分といった「余分なものを排出させる」ことをコンセプトに販売。コンセプトをPRするものとして、小便小僧が登場するCMが放送されました。

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(出典:DAKARA 小便小僧 CM集01-20


【4】おわりに


ヒット商品分析図鑑では、今後も世の中のヒット商品をSCAMPERに当てはめて解説し、ヒットの法則に迫っていきます。


ヒット商品分析ラボは、「ヒット商品を分析することでヒットの法則を探究する」をテーマに様々な勉強会やワークショップを行なっています。

これからも良質な学びが得られる記事をたくさん投稿していきますので、興味がある人はぜひnoteのフォロー・スキをよろしくお願いします。


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