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ヒット商品分析図鑑 #2 LCC

日本での旅客数が2007年からの10年間で約150倍にまで成長した格安航空のLCC

実はLCCは、運賃を下げるためにありとあらゆる「削減」を行っただけでなく、その結果、航空業界を大きく変えてしまったことを知っていますか?


【1】LCCについて

1. 商品名・サービス名
 Low Cost Carrier/格安航空会社

2. 発明年・発明者
 1977年 レイカー航空(ブランド名「スカイトレイン」で最初にローンチ)

3. 概要
 LCCとは、一般的な航空会社に比べ、運賃が大幅に安い航空会社の総称です。
 1996年、それまでANAとJALしかなかった日本の航空業界に、第三の航空会社としてスカイマークが参入しました。そして、2012年ごろには、PeachやAirAsia Japan、Jetstar Japanなど様々な格安航空会社が参入したことにより、日本のLCC市場が成長していきました。
 かつては「安かろう悪かろう」のイメージがあったLCCですが、気がつけば日本でも年間3,000万人近くが搭乗するほど普及し、航空業界を変えた存在と言っても過言ではないでしょう。


【2】SCAMPER解説


LCCに対し、ANAやJALといった従来型の旅客サービスを提供している会社はFull Service Carrier(以下、FSC)と呼ばれています。

格安航空であるLCCは、FSCの様々な要素をEliminate(削除)・Reverse(逆転)することで、航空券の低価格化を実現し、FSCとの差別化を図っています。

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(出典:Jetstar Japan NTR A320 Captains
(出典:エアバス、ANAホールディングスからA320neo30機を確定受注


順に解説していきます。


<2-1>Eliminate(削除):機内サービスの削減


LCCでは、一般にFSCで無料提供されている機内サービスを削減(もしくは有料化)することで、コストを抑えているケースが多く見られます。

・音楽サービス、映像サービスの「削減」
・機内食やブランケットの「有料化」
・預け入れ手荷物の「有料化」

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<2-2>Eliminate(削除):航空機の機種数を限定することで、整備・訓練・調達コストを最小限に抑制


FSCでは、路線の距離や搭乗率などに合わせて、プロペラ機などの「小型機」からジャンボジェットのような「大型機」まで、様々な大きさの機体を保有していることが多いです。

それに対し、LCCでは機体の種類を2、3種類ほどの少数に限定することで、下記のコストを抑えています。

◾️整備コスト
航空機の部品は、機体の種類によって特有の部品を使用している場合が多く見られます。また、その部品ごとに一定の間隔や条件での点検、整備、交換が厳しく定められています。

したがって、機体の種類が多ければ多いほど、各機種に精通した整備士の雇用や育成、交換部品の保有、部品交換設備の保有などにかかるコストが増えてしまいます。

それに対し、LCCでは機体の種類を限定することで、それらの整備コストを抑えています。

◾️訓練コスト
上述の整備士を含め、運航乗務員(パイロット)や客室乗務員(キャビンアテンダント)は機種ごとに訓練を受け資格を保有する必要があります。ちなみに、運航乗務員については、誤操縦のリスクを回避するために、同時に複数機種の資格を保有することができない制度になっています。

したがって、機体の種類を限定することで保有すべき資格の数が減るので、スタッフの訓練コストを抑えることに繋がります。

◾️調達コスト
LCCでは、航空機の機体を調達する際、
・同一機種を大量購入することによる割引(ボリュームインセンティブ)
・リース会社がFSCなど他社からキャンセルを受けてしまった機種を活用

などの工夫を用いているため、航空機自体の調達コストも抑えることに成功しています。


<2-3>Eliminate(削除):職務の兼任や業務の削減による人件費の削減


先述のような運航に直接携わる運航乗務員、客室乗務員、整備士以外にも様々な人件費削減の工夫がされています。

FSCでは、「空港チェックインカウンターでの受付スタッフ」と「搭乗ゲートのスタッフ」は別々のスタッフで配置されていることが多いです。

それに対し、LCCでは、上記の仕事を兼任で同一スタッフが行なっているので、人件費を削減することができています。


また、LCCではチケットの購入を基本的にはオンラインに限定しているケースが多く、チェックインも事前にオンラインで行うことを要求されます。

これらにより「航空券販売窓口業務」と「チェックインカウンター業務」の削減につながるので、人件費を抑えることができるのです。


<2-4>Eliminate(削除):シートピッチの削減により旅客数最大化


シートピッチ(座席と座席の間隔)についても、通常のFSCより数cm〜10cm程度短く設定されていることが多いため、より多くの旅客を搭乗させることができ、乗客1人あたりのコストの削減につながります。

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<2-5>Reverse(逆転):発着時間、路線、空港内の距離におけるデメリットをあえてとることで、コストを削減


LCCを利用したことがある方は経験があるかもしれませんが、LCCの特徴として

・通常の郊外型大型空港ではなく、都市型の小型空港で運航していることが多い
・大型空港であっても、搭乗場所がかなり遠い場所にある
・飛行機に搭乗するには、バスに乗って、ターミナルビルからかなり遠くに停めてある飛行機(沖止めと呼ばれる)のすぐそばで降ろされ、タラップ(搭乗するための階段)から直接搭乗することになる
・深夜や早朝など極端な時間に発着する

など、FSCと比べると不便な点が多く見られます。

これは、ある種、Reverse(逆転)とも言え、FSCが利便性の問題から回避しがちな条件をあえて取ることで、駐機料を安く抑えることに成功しています。

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(出典:エメラルド会員おじさんがLCCに乗ってみたら驚いた!


◾️LCCをSCAMPERに当てはめると

Eliminate(削除)
・機内サービスの削減
・航空機の機種数を削減することで、整備・訓練・調達コストを最小限に抑制
職務の兼任や業務の削減による人件費の削減
・シートピッチの削減により旅客数最大化

Reverse(逆転)
発着時間、路線、空港内の距離におけるデメリットをあえてとることで、コストを削減


【3】補足


上記のように、様々な要素をEliminate(削除)・Reverse(逆転)したことにより、LCCは航空業界を
・移動+搭乗体験
・移動のみ

の2つに再定義したと言えます。

LCC登場以前は、「飛行機の旅」というのは限られた人に許された、いわば贅沢な旅であり、搭乗コストは決して安くはありませんでした。そのため、それだけのコストを払って利用する乗客は、当然それなりのサービスを求めていました。

航空会社も、そういった顧客の満足を得るために、機内食をはじめとする機内サービスを無償で提供し始めるといった「機内サービスの質」によって、他社との差別化を図っていました。

その差別化競争の結果、航空会社の競争は機内サービス贅沢化合戦と化したのでした。


そのサービス贅沢化合戦に一石を投じたのが、LCCでした。

LCCはそういった上質なサービスを求める乗客だけでなく、必要に迫られ「移動の手段」として航空機を選ぶ乗客の「できるだけコストを抑えたい」というニーズを的確に捉えることに成功しました。

そういった意味では、LCCは航空業界を「移動+搭乗体験」「移動のみ」の2つに大きく再定義したと言えるのではないでしょうか。

【4】おわりに


ヒット商品分析図鑑では、今後も世の中のヒット商品をSCAMPERに当てはめて解説し、ヒットの法則に迫っていきます。


ヒット商品分析ラボは、「ヒット商品を分析することでヒットの法則を探究する」をテーマに様々な勉強会やワークショップを行なっています。

これからも良質な学びが得られる記事をたくさん投稿していきますので、興味がある人はぜひnoteのフォロー・スキをよろしくお願いします。

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