見出し画像

未発売映画劇場「新・怪人マブゼ博士」

サイレント映画の名作「ドクトル・マブゼ」に端を発し、1960年代の西ドイツ映画で一世を風靡した(かもしれない)「怪人マブゼ博士」シリーズは、その後も秘かに20世紀の映画界に暗躍し続けていた。

そのへんはこちらから → 未発売映画劇場「怪人マブゼ博士の復讐」

だがその活動も21世紀に入ると停止し、さすがのマブゼも、もはや過去のものとなったかと思われた。

ところが、またまた人知れず、マブゼは復活していたのだ。それもアメリカ映画で。知らなかったなぁ。

というわけで、タイトルもずばり「Doctor Mabuse」 2013年製作の新作だが、もちろん日本ではまったくの未紹介。

製作・監督・脚本を手がけているアンセル・ファラージ(Ansel Faraj)のワンマン映画らしい。かなりのマイナー映画だ。

でも、いちおう原作者ノルベルト・ジャックの名がクレジットされているから、正統派マブゼ・シリーズと思ってかまわないだろう(inspired by the character created byとあったから「原案」あつかい)

ストーリーといっても、これまでのマブゼものとほとんど変わらない。マブゼの犯罪計画と、それを追跡する警察のお話し。新味はまったくない。

見てみると、なんとも異様な感じ。アルトゥール・ブラナーが製作した60年代のシリーズは、いわゆる通俗スリラーで、アクションも盛り込んだ純粋娯楽映画だったが、本作のムードはまったく違う。

ほとんどが室内シーンで、それも異常に暗い背景にぽっかりと人物が浮かぶような映像ばかり。場面が屋外になっても、背景はまるで書き割りのような平板さで、通行人一人映らない。CG合成だろう。デジタル撮影らしく、カラフルな映像効果が多用されており、うっかりすると目がチカチカしてきて、ストーリーなんてどうでもよくなってしまう。

見ているうちに、ああと納得いった。

たぶんこの映画は、これまで西ドイツやスペイン、フランスやイギリスで作られた「怪人マブゼ博士」シリーズとは違い、その元祖である、フリッツ・ラング監督のサイレント大作「ドクトル・マブゼ」(1922年)のほうの継承を目論んだものなのだ。

この元祖「ドクトル・マブゼ」は見たことがあるが、ドイツ表現主義の代表作の一つともされているくらいで、正直いっていま見るとけっこう辛いものがある。テンポが遅く、動きが少ないのよ、とにかく。

たぶん、映画青年であるアンセル・ファラージくんが、この名作に感化されて実現させた作品なんだろう。彼にとっては、60年代のブラウナー版「怪人マブゼ博士」シリーズなんてのは邪道だよってことだろうな。ま、想像に過ぎませんが。

ということで、現代の娯楽映画的な視点から見れば、いったいナンジャコリャ的な映画になっているんだが、まあファラージくんはたぶんこれで満足しているんだろう。いや雲の上でフリッツ・ラング大師匠がどう思っているかはしらんが。

ただ、原作者ノルベルト・ジャックには仁義を切っているようだが、ラング師匠にはどうなんだろう?

というのも、マブゼ博士の大陰謀を追うのは、ローマン警部なのである。

「怪人マブゼ博士/恐るべき狂人」の回でも触れたように、ローマン警部はラング監督のもうひとつの名作サスペンス「M」(1931年)に登場して殺人鬼Mを追いつめる名警部なのだ。それをラングが「ドクトル・マブゼ」の続編「怪人マブゼ博士(Das Testament des Dr. Mabuse)」(1933年)に投入し、その再映画化である「恐るべき狂人」にも起用している。つまりこのキャラクターは、ノルベルト・ジャックとは関係はなく、フリッツ・ラングの著作物なのだよ。

なのにそれを堂々と投入し、ラング師匠に挨拶も無しなのはいかがなものなのかね、ファラージくん(まあホントに無断だったかどうかは知らないけど、少なくともクレジットには見当たらない)

日本ではともかく、アメリカではまだノルベルト・ジャックもフリッツ・ラングも、著作権は生きているんだからね。

ところで今回アマゾンさんを通して購入したこの映画のDVDだが、ケースの造作が悪いのか、ケース内でディスクがガタつく不良品だった。そのせいか、最初に買ったものは裏面にスクラッチがあって再生不可能。再度取り寄せたものも同じような不良ケースに入っていたが、今回はプチプチを同封してガタつきを押さえていたのか、無事に再生できた。

そんな手間暇をかけさせられた挙句に、作品自体はこの出来ばえ。踏んだり蹴ったりだぜ(笑)

で、さらに恐ろしい事実がある

じつはこの「Doctor Mabuse」にも続編があるのだ。題して「Doctor Mabuse : Etiopomar」(2014年) そしてさらにおしょろしいことに、この作品、今回のこのDVDにも同時収録されているのである。

ああ、やっぱり見なきゃならないのか(泣)

怪人マブゼ博士の世界

未発売映画劇場「怪人マブゼ博士/恐るべき狂人」

未発売映画劇場「怪人マブゼ博士/殺人光線」

未発売映画劇場「怪人マブゼ博士の復讐」

未発売映画劇場 目次

映画つれづれ 目次

ちなみに、元祖「ドクトル・マブセ」「怪人マブゼ博士」などは国内版で観ることができます。

 ドクトル・マブゼ(1922年)

怪人マブゼ博士(1933年)

怪人マブゼのDVD-BOX (「千の眼」「怪人マブゼの挑戦」「見えない恐怖」を収録)

【画像のリンク先はすべてamazon.co.jp】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?