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未発売映画劇場「怪人マブゼ博士/恐るべき狂人」

【こちらもお読みください】→「怪人マブゼ博士の世界

というわけで、「怪人マブゼのDVD-BOX」第2弾の発売をひたすら待っていたのですが、いっこうに発売される気配がないので、あきらめて本国ドイツで発売されていたDVD6枚セットのBOXを取り寄せてしまいました。前半分の3作はダブりになるんですがね。

で、とりあえず、順に見ていくことにしましょう。

前の3作「怪人マブゼ博士/千の眼」「怪人マブゼ博士の挑戦」「怪人マブゼ博士/姿なき恐怖」に続くシリーズ第4作です。

「怪人マブゼ博士/恐るべき狂人」(1962年)

「恐るべき狂人」とは、またずいぶんと刺激的なタイトルですね。いまではいろいろ差支えがあって、まず許されないというか自粛するようなタイトルです。でもかつてこのタイトルで堂々とテレビ放送したんですから、まあ昔は大胆というか大雑把というか、まあ時代が寛容だったんでしょうね。

そういえば、北杜夫さんがこのタイトルを気に入ってマブゼのファンになったと、どこかのエッセイに書いていましたね。「どくとるマンボウ」のどれかだったかな。

前にも書きましたが、けっきょくこの時のテレビ放送があっただけで、日本では未公開のままで、VHS時代も含めて、まったくソフト化されたことがない作品であります。

ドイツ語の原題は「DAS TESTAMENT DES DR. MABUSE」 映画史に詳しいかたならピンとくるかもしれませんね。

そう、このタイトル、1932年フリッツ・ラング監督の「怪人マブゼ博士(殺人指令)」と同タイトル。こちらは、元祖「ドクトル・マブゼ」の由緒正しき続編。

じつはこの「恐るべき狂人」は、この1932年版のリメイクなのです。

前作「姿なき恐怖」では「透明人間」というキワモノにまで振り切ったシリーズでしたが、今回はしごく真面目な犯罪サスペンス。これはつまり、シリーズそのものの舵取りを修正したってことでしょうか。こんなストーリーになってます。

精神病院に収容されたマブゼ博士だったが、そこでも憑りつかれたように犯罪の計画を立案し続けていた。やがて各地で大胆な犯罪が続発する。金塊輸送車襲撃、ダイヤ取引所襲撃、紙幣偽造……警察のローマン警部は事件の手口を見て、すべてがマブゼの手口であることを見抜く。だが、マブゼは精神病院に監禁されたままだ。マブゼはいかにして、檻の中から犯罪者集団を操っているのか?

獄中から手下を操るってのは、アルセーヌ・ルパンの昔からある犯行手口ですが、このマブゼの手段はちょっと意外なもの。まあもともとの「ドクトル・マブゼ」の設定を活かしているのですが、ややいい加減な傾向のあるこの西ドイツ製のシリーズにしては上出来ですね。

ああ、そうか。リメイクだから、そのへんもいただきなんだ。

マブゼを追うローマン警部ってのも、じつはフリッツ・ラング監督の名作「M」で主人公の殺人鬼を追い詰める警部その人なのですが、そのへんもリメイクゆえの「手柄」なんですね。しかしここに名優ゲルト・フレーベを持ってきたあたりはなかなか。

それにしても、「007/ゴールドフィンガー」出演以前のゲルト・フレーベを起用しているばかりか、 ウォルフガング・プライス(このシリーズでマブゼを毎回熱演)やセクシー女優のセンタ・バーガーなど、のちにハリウッドへ進出している俳優たちが顔を並べているのは、けっこう壮観。

いやこの作品だけでなく、「怪人マブゼ博士」シリーズにはこうした国際スターの顔がそろっていることが多いのです。

よくこんなB級シリーズにとも思うが、時期的に考えると、むしろこのシリーズを足掛かりに、その後勃興した「亜流007」の映画あたりから「世界」へ進出していったというべきでしょうか。

ほーら、このシリーズにもちゃんと意義があっただろ。

クライマックスのカーチェイスも、1962年の製作ということを考えると、特筆に値するかもしれない。単純な追いかけっこではあるが、ダイナミックなカットバックのおかげで、けっこう迫力あるシーンになっている。このへんは、監督ヴェルナー・クリングラーの手腕でしょう。

あれ、ちょっと褒め過ぎたかな。

そうはいっても、この西ドイツ製のシリーズ、しょせんはB級映画ですから、そこのところはお忘れなく。だからこそ、日本ではテレビ放送されただけの「未発売映画」になっているのですからね。

でもせっかく買ったので、引き続き「殺人光線」「犯罪指令」を見ていくことにします。これはこれで、楽しみであります。

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