さらば、ビッグ・ガイ

ジョージ・ケネディが亡くなった。アイダホ州ボイシで、2月28日に息をひきとったそうだ。91歳。合掌。

ケネディは、私の大好きなオッサンだった。こんな名優をオッサン呼ばわりは失礼だとも思うが、まあ長年のつきあいに免じて許してやってほしい。

マスコミ各社の訃報では、アカデミー助演男優賞を獲得した「暴力脱獄」「大空港」からつづく「エアポート」シリーズ、クリント・イーストウッドと組んだ「サンダーボルト」、日本の角川映画「人間の証明」「復活の日」などが代表作にあげられている。いずれも(映画の出来はともかくとして)メジャーで知名度も高い作品だ。

だが、それこそ映画を見始めた40年前からこのオッサンが好きだった長年のケネディ・ファンとしては、やはりそうした有名作品とは別に、このオッサンがせっせと出演した映画の中から、あまり語られない映画を何本か、映画記憶の奥から棚卸しておこうと思う。

古くは「シャレード」の悪役や「特攻大作戦」の中間管理職将校、「絞殺魔」の刑事など傍役でイイ味を出す傍役だったオッサンは、1967年のオスカー受賞後に一気に活躍の幅を広げた。

よほど映画出演が好きだったのか、単なるワーカホリックだったのか、その出演数は異常に多い。おいおいそんな映画にまでといった作品にも、フットワーク軽くホイホイ出演していく姿勢が、私は大好きだったが。

そんなオッサンが一枚看板の主役を張ったのが「狼たちの影」(1975年) すでにオッサンに肩入れしていた私は、1977年になってからひっそりと日本公開された映画館に駆けつけたもんだ。テロリストに家族を殺されたコンピュータ・エンジニアが、自ら開発した予測プログラムでテロリストたちの先回りをして復讐するという、基本的には安っぽいB級アクション。当時はすでにヘビー級な体格(まあもともとデブっぽかったが)だったオッサンが、ぜえぜえ息切れしながら、テロリストたちを追って走る姿に感動した。

アクション系の映画に多く出演していたくせに、このオッサンは走るのがてんで苦手だったようで、いつもドタドタバタバタ走っては、息を切らしていたもんだ。このままだったら心臓マヒかなんか起こすんじゃないかと心配したもんだが、91歳まで生きたんだから、大丈夫だったんだな。

「狼たちの影」はその後日本でもささやかにソフト化されたが、なぜか邦題が変わっている。「電子の復讐者」 このタイトル変更の真意は謎だ(笑)

同じく主役(だったのかな?)だったホラー映画「ゴースト/血のシャワー」(1980年)では、幽霊船の船長役。難破した人々が偶然に行きあわせた漂流船に乗り込むと、その船には呪いが……悪霊にのりうつられて、乗客たちを次々にブチ殺していく姿は迫力満点だったと記憶する。とはいっても「狼たちの影」と同様、これまたB級映画あつかいだったが。じっさい、映画自体はたいして怖くなかった。

このほかにもけっこう多くのホラー映画に主演しているが、どういうわけかいつもB級ホラーから脱しないのが、このオッサンのいいところだ。「死霊のかぼちゃ/13回目のハロウィン」(1981年)とか「クリープショー2/怨霊」(1987年)とか「エイリアン・ゾンビ」(1987年)とか、まあタイトルを見ればわかるよね。人の好さがにじみ出て、いつもあんまり怖くないのも、また個性か。

フランク・シナトラと組んだコメディ西部劇「大悪党/ジンギス・マギー」(1970年)や、ジェームズ・ガーナーと組んだ密林秘境アクション「ダイヤモンド強奪作戦」(1968年)など、最初は迫力ある敵役で出てきても、じょじょに相手に丸めこまれてコミカルになってしまう役も十八番。人の好さがにじみ出て、映画自体がなんとなく楽しくなるんだな。この延長線上にあるのが、いつもレスリー・ニールセンのドレビン警部に迷惑をかけられる「裸の銃(ガン)を持つ男」シリーズだろう。そうか、この持ち味のルーツが「暴力脱獄」か。

もちろん、ユル・ブリンナーのあとを堂々と継いでリーダーのクリス役をつとめた「新・荒野の七人/馬上の決闘」(1968年)もあるが、前に書いたようにこのオッサンが主役になったとたんに、由緒あるシリーズがB級ウェスタンに変貌したあたりも、個性ってもんだろう。

ピーター・ユスティノフがアガサ・クリスティーの原作とはまったく違って大男の名探偵ポアロを演じた「ナイル殺人事件」(1978年)で、ポアロの相棒役にオッサンが起用されたのは、オッサンが体格ではユスティノフにまったく負けなかったからだろうか。まあ名探偵の引きたて役としては、あの人の好さはピッタリだったな。

私の大好きな「超高層プロフェッショナル」(1979年)では冒頭5分くらい出ていただけであっけなく墜落したて姿を消したりするが、そんな役も平気で引き受けるあたりがオッサンらしい。

こうして見ると、身体の大きさだけでなく、懐の深さも、このオッサンの魅力だったことがわかる。細かいことにこだわらない、器の大きさ。中国語でいう「大丈夫」、「ビッグ・ガイ」と呼ぶにふさわしい存在だったんだな。

いかん、いろいろ思い出していたら感傷的になりそうだ。

前にも書いたが、映画俳優のいいところは、たとえ本人がこの世から去っても、フィルムに残る姿は永遠に不滅だということだ。だから、ジョージ・ケネディの新作はもう見られないが、オッサンにはいつでも再会することができるわけだ。

ということで、とりあえずこういっとこう。

「あばよ、オッサン」

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