見出し画像

鋼鉄の七人

ちょっと前のことですが、社のオフィスの裏でビル建設工事が行なわれていました。ヒマにまかせて、いやいや仕事の合間に、見物してましたが、鉄筋を組み、板枠を立て、コンクリを流し込む。これの繰り返しで徐々にビルが高くなってくるのは興味深いものでした(仕事はしてましたよ、ちゃんと)

その際に凄みを感じたのは、立ち上がりつつあるビルの周囲に、ビルの高さと競うように伸びあがってゆく足場でした。鉄パイプを組み合わせただけのシロモノがどんどん高くなるのですが、なにしろビルの外側、ちょっとよろめいたり踏み外したら真っ逆さまです。そこをヒョイヒョイと軽やかに歩いて作業する鳶(とび)の皆さんを、けっこう冷や冷やしながら見ていました。オレには出来ん(笑)

そして思い出したのが、「超高層プロフェッショナル」(1979年)という映画。高層ビルを組み立てる鉄骨工たちを主人公にした、スリリングかつ豪快な作品です。

画像1

圧縮して言うと、ボスを事故で失ったビル工事会社が、伝説の鉄骨工チームを雇い、同業者の数々の妨害と困難を克服してビルを完成させるまでのお話。こう言うと、ミもフタもない感じですが、でもこの単純なストーリーが、じつに面白かった。

伝説のチームのリーダーがマイク・キャットン(リー・メジャース)。今は引退してトラック運転手になっていた彼を現場に引っ張り出すのが死んだボスの娘でヒロインのキャス(ジェニファー・オニール)で、彼女の熱意に負けたマイクが散り散りになっていたメンバーを集めるのが前半の見せ場。そう、これは建設業界版「荒野の七人」なのです。

マイクのもとに参集するチームは、腕っぷしの巨漢チェロキー(ロバート・テッシア)、女たらしのバレンチノ(テリー・カイザー)、マイクに反抗的なダンサー(リチャード・リンチ)と、彼の弟子キッド(ベン・マーレイ)、クレーンの名手タンク(アルバート・サルミ)。それに、現地で加わる若手のサーファー(ハンター・フォン・リール)とライオネル( ロジャー・モーズリー)のコンビ。なかなかに個性的なこのメンバーたちが、工事を妨害して乗っ取ろうとするライバル会社(ハリス・ユーリンと、子分のR・G・アームストロング)と対決するわけです。まさに「荒野の七人」そのものではありませんか。え、8人いる? まあそのへんはゴニョゴニョ……

ほかにも、事故死するボスがジョージ・ケネディ、その部下でキャスを助けている老参謀がアート・カーニーという、まさに「通好み」のキャスティングがピタリとはまっています。

そして、全編ロケ撮影の建設現場の迫力。地上40階の高みにある現場にカメラを持ち込み、細い鉄骨の上を俳優たちも体を張って動き回ります。スタントマンも含めて、その奮戦ぶりはお見事。ただし、高所恐怖のかたにはおススメできませんが。

この前年の1978年まで続いていたテレビの大ヒットシリーズ「600万ドルの男」で主役を務めたリー・メジャースが、その儲けをつぎ込んだ(かれがエグゼクティブ・プロデューサーにクレジットされてます)と思われるこの作品、前述したようにメンバーを集める過程が似ているだけでなく、バッグひとつを下げて現場から現場へと渡り歩く腕利きの鉄骨工たちが、ウェスタンでは定番のさすらいのガンマンにも見え、まさに「現代のウェスタン」でもありました。映画全体の爽快さもウェスタンに通じるものがあります。日本では劇場公開後、VHSで発売され、その後なぜかDVDを飛びこしてブルーレイディスクで発売されています。こうした「男の子映画」が好きな人には、必見の一作です。

画像2

と、ここまで私が絶賛するのに、たぶんあなたはこの映画を知らないでしょう。それが現実ですね。

はい、アメリカと日本の両方でほぼ同時に公開されたこの「超高層プロフェッショナル」、ものの見事にコケたのです

そう、いろいろ誉めあげましたが、要するにこの映画、「土建屋の内輪揉め」を描いたにすぎないわけで、まあセールス的にはうまくいかなそうなことは容易に予想できますよね。にもかかわらず映画が実現したのは、リー・メジャースの熱意ゆえでしょうか。結果的に素晴らしい映画が出来上がったので、私は彼に物凄く感謝していますよ。私はね。

リー・メジャースはこの映画の後は、出演に専念し、二度と映画製作にはかかわっていないようです。たぶん600万ドルのギャラを、すべて失ってしまったんでしょうねえ(笑)

映画つれづれ 目次

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?