見出し画像

最高のミステリ映画「シャレード」

もう40年来読んでいる専門誌「相撲」(ベースボールマガジン社)に、昔はユーモアコーナーがあった。「お笑いチャンコ鍋」という4ページくらいのコーナーに、大相撲をネタにしたジョークが満載されるページで、けっこう毎月楽しみに読んだもんだ。このコーナーは「ノミマサヒコとスクネグループ」という人たちが作っていたようで、「ノミマサヒコ」はその後「血液型人間学」で一世を風靡した能見正比古氏である。

で、その「お笑いチャンコ鍋」のレギュラーコラムに「シャレード」があった。要するにダジャレ集なのだが、妙にハマるのがあって、読みながら吹き出したりしたものだ。もうほとんど覚えていないが、今でも覚えているのは、北海道室蘭市出身の双ツ竜(その後いろいろあった)にひっかけたダジャレ。

 「室蘭でシャレをいってごらん」

 「それはちょっとムリラン」

座布団取られるレベル(笑)

で、その「シャレード」コーナーの名称の元ネタになったのが、映画「シャレード」(もちろんダイハツの車の元ネタでもある)。そのころ(1970年代)にはすでにテレビ放送もされてけっこう古い映画なイメージがあった。私もわりと早くに見た記憶がある。

夫を殺されて未亡人となったオードリー・ヘップバーンが、その直後から怪しげな男たちに付きまとわれ、戦争中に起きたある出来事を背景に、亡夫が隠した莫大な遺産の行方をめぐる争奪戦に巻き込まれるという、サスペンススリラーのお手本のような映画。1963年の作品で、監督はミュージカル映画を得意としたスタンリー・ドーネン。パリを主舞台にし、主役のヘプバーンが着こなすファッションの華やかさも売りにした「おしゃれ映画」の走りだ。ヘンリー・マンシーニの主題曲も、名曲中の名曲だ。

だが、そんなことよりも(私にとって)重要なのは、この映画が非常に優れた「ミステリ映画」だということだ。

夫を殺されたヘプバーンが巻き込まれた事件を構成する謎は、大まかにいって三つ。

 殺人事件の犯人とその正体は?

 遺産の隠し場所は?

 敵か味方かわからないヒーローの正体は?

そして、何より優れているのは、この3つの謎の説明が、いずれも映像だけでしっかり描かれていることだ。

「名探偵、皆を集めて〈さて〉と言い」はよく言われることだが、このあとに長い長い「説明」がつくのが常道。

アガサ・クリスティーの一連の映画化作品や、テレビの「刑事コロンボ」など、よく出来たミステリ映画は数多いが、この枷を逃れた作品はほとんどない。もちろん練達の俳優たちが語るのだし、再現映像などを交えながら演出するのでそう退屈ではないが、どうしても冗長になる。まあそこが脚本家や監督さんの腕の見せどころではあるのだが。

ところが、この「シャレード」にはその冗長な「説明」がまったくないのだ。謎解きは、セリフではなく、画面に映る映像で説明される。そして、それはミステリ映画では非常に稀有な事なのだ。

それこそ「ネタバレ」になるので、ここで詳しくは解説できない。ぜひひとつ、自分の目で確かめていただきたい。

ちなみに、この「シャレード」、アメリカで法手続き上の瑕疵があったせいで、著作権が消滅したパブリックドメイン作品となっている。そのため、日本国内でも安価なビデオやDVDが出回っているが、画像の美しさも売りものの映画なので、ぜひとも画質の良い正規版でご覧になることをおすすめする。

もうひとつ、この映画は私の大好きな2大俳優、ジェームズ・コバーンとジョージ・ケネディが共演している唯一の映画でもある。加えて、ケイリー・グラント、ネッド・グラス、ウォルター・マッソーといった芸達者なクセ者男優が勢揃いしていて、ぱっと見のイメージ以上に、男の子映画だったりもするのだ。ラスト付近で明らかになる、巨額の遺産の隠し場所なんか、まるっきり男の子向けだしね。

画像1

  映画つれづれ 目次

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?