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未発売映画劇場「サント対ミイラ怪人」

サント映画完全チェックの旅はまだまだ続く。

第30弾は「Santo en la venganza de la momia」(サントとミイラの復讐)

メキシコ・ファンタスティック映画においてミイラは大スターである。かの「アステカミイラ」三部作や、女子レスラー、あるいは仮面貴族ミル・マスカラスとの対決など名作(?)がズラリとあるのだが、そういえば英雄サントとの対決はいままでなかった

人間の悪党どもはもちろん、数々のモンスターや火星人とまで対決してきたサントなのに、メキシコ伝統のミイラと戦っていないとは!

そんなことを思いついたヤツがいたのだろう。1971年12月に待望の夢の対決、サントとミイラの対決が実現したわけだ。

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メキシコ南部の奥地に(めずらしく地図でちゃんと場所を示すシーンがある)未発掘の戦士の墓が見つかる。そこにはどうやら戦士のミイラと財宝が眠っているらしい。発見した考古学者は孤立した奥地での調査のため、英雄サントや女性カメラマンらを擁して探検隊を組織、現地人のガイドとともに未踏の密林へと分け入る。苦難の末、墓所にたどり着いた一行だが、墓をあばいたとたんに、次々と怪事件が起きる。

まぁ、例によってヒネリのないストーリーだ。とくに前半は、ごく最近見たようなお話なんだが……

そう、前回見た「サント対首狩り族」とよく似ているのだ。

いや、よく似ているどころではない。リングコスチュームをサファリルックに着替えたサントがブッシュナイフを振るって道を切り開いてゆく……ほぼ前回と同じコンセプトじゃないか

しかもこの「サント対ミイラ怪人」の公開は、じつは「サント対首狩り族」のわずか1週間後なのだ(資料が正確ならば) 製作会社は別だが、ここまで似た作品をこんなに接近して公開したのはなぜだろう。ひょっとして1971年12月にはメキシコで空前のジャングル映画ブームが巻き起こっていたのだろうか。

前回はワニやヒョウと戦ったサントだが、今回も恐るべき野獣、黒ヒョウとの対決がマッチメイクされている。メキシコにそんな猛獣がいるとは知らんかったぞ(新大陸には分布していません)

といってもジャングル探検なのは前半まで。後半はいよいよミイラ映画にシフトする。財宝とともに運び出されたミイラが動き始め、探検隊員たちを一人ずつ殺してゆくのだ。おお、ホラー調だ。乾燥しきったそのマスクもなかなか凄味があるぞ。

よみがえったミイラ男は、なぜか弓矢で武装しており、おそろしく正確な射撃で襲ってくる。

いままでほかの映画で観たアステカのミイラたちとは違って、このミイラ氏は動きも滑らかだし、けっこうすばしこく、なかなかサントたちもその姿を補足できない。超一流プロレスラーにスピード負けしないのだから、大したものだ。

じつは、映画のラストにはちょっとしたサプライズ(のつもり)が仕掛けてあり、これがまぁ見え見えではあるが伏線になっている。このへんの志は悪くない。

スタジオ撮影であることが丸わかりのジャングルで次々に起きる事件は、うっかりするとコントに見えかねないほどの緊張感の無さだが、まあこれもサント映画ならではだろう。

ちなみに、このミイラの「正体」であるが、映画の中ではオパルチェ族(Opalche)の戦士ノノック(Nonoc)と明言される。実在の部族で戦士なのかと思って調べてみたが、どうやら架空のものらしい。

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映画を見ている時にはまったくわからなかったことだが、現地人ガイドの孫でなんとなく目立っている子ども(ラストまで生き残る)が重要だった。上掲のロビーカードの写真に写っているが、この少年を演じた子役はNiño Jorgitoとクレジットされている。

じつはこの少年、サントの実の息子で、のちのエル・イホ・デル・サントらしいのだ。【こちら参照】

以前に「サント対暴走野郎カプリナ」で映画デビューしているサント2世だが、この映画がデビュー第2作。デビュー作から3年、今回はその他大勢ではなくきちんと演技もしている。1963年生まれだから8歳くらいか。栴檀は双葉より芳しとか言うが、けっこう達者な子役ぶりを見せている。

エル・イホ・デル・サントのプロレスラーとしての正式デビューは1982年6月だから、この映画のおよそ10年後。

彼が父親譲りの白銀の仮面を着けてサント2世になる前の映画出演は、このあともう一本あるだけで(それもサント映画だが)そういう意味では聖者二世の素顔を拝める貴重な映画であるといえよう。いえるかな?

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けっこう美少年だったりする

さて、サント映画では欠かせない、サントの試合シーンだが、今回は映画冒頭にいきなりタッグマッチ、そして映画のラストにシングルマッチが配されている。

いずれも3本勝負で、両試合とも律義にタイスコアで3本目になるあたりサービス満点だ。プロレスの聖地アレナメヒコでの試合そのものには、さほどの見せ場はない(ストーリーとも無関係)

だが、サントの相棒や相手をつとめるのは、いずれも本職のルチャドールだ。ちゃんとクレジットもされている(Gori Casanova、Dik Angelo、Goliat Ayalaら)が、日本に来たことはないようだ。

ひとつ見逃せないのは、これらの試合に実況アナウンスが入っていることだ。これまでは観客のリアクションだけで、淡々と試合を写していたのに。

察するに、この時期にメキシコではテレビのプロレス中継が定着していたのではないか。プロレスをテレビ中継で見るほうが、会場でライブ観戦するよりも普通になっていたのかもしれない。知らんけど

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こうして時代の移り変わりとともに、サント映画も変容していったのである。ホントかよ(笑)

【前回】サント対首狩り族 【次回】サント対フランケンシュタインの娘

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