未発売映画劇場「サント対首狩り族」
もはや執念と惰性だけで続けてるサント映画完全チェック。第28弾は1971年12月メキシコ公開(らしい)の「Santo contra los cazadores de cabezas」 英語題では「Santo vs. the Head Hunters」 「the Head Hunters」っていうのはFMWなんかに出ていたプロレスのタッグチームのことではないです。
ポスターのここかしこに描かれている黒っぽいのが乾し首(ツァンツァ)ってやつ。
かつて子供向けの怪奇実話本ではエジプトのミイラなんかと同様に怪奇ネタっぽく取り上げられていた定番が、この乾し首。切断した人間の頭部を乾燥させて小さくしたシロモノで、私もどっかの博物館で(国立博物館だったかな)実物を見たことがあります。人間の頭部(の皮)が人のコブシくらい大きさになっていて、ここまだ加工されると生々しさはないんだけど、それでもその元々を知れば、やはり不気味なものでしたね。
けっこう世界各地で作られているものなんですが、なかでも有名なのがアマゾン奥地に住むヒバロ族のもの。なのでヒバロ族はよく「首狩り族」と呼ばれていたりします。
というわけで、今回サントはアマゾンのジャングルに遠征し、この首狩り族と対決するのです。あ、いやレイシズム臭ただようポリティカルコレクトじゃないネタですが、そんなことは承知のうえでしょう。
悪党二人組が首狩り族をそそのかして生贄の儀式をおこなわせようと、金髪美女の富豪令嬢を誘拐する。父親は娘を救出すべく、サントを招聘して探検隊を組織し、アマゾン奥地のジャングルへ。たちふさがる大自然の障壁をものともせず、首狩り族の村へ突入したサント探検隊は令嬢救出に成功するのだった。
例によってスペイン語オンリーの映像なので細部はよくわからんのですが、まぁストーリーの大筋はこんなもんでしょ。80分程度の映画だからね。
秘境探検ものというのはなかなか人気と伝統のあるジャンルなので、サント映画に一本くらいあるのは不思議でもなんでもないですね。
ただ、さらっと「アマゾン奥地」とか書きましたが、もちろん現地ロケなどはしていないようです。舞台はメキシコではないようですが(サントが自家用飛行機でメキシコから飛来するシーンがある)、資料などを見てもロケ地はメキシコ国内のみらしい。
じゃあ、かつて日本のテレビで伝説となった「川口浩探検隊」にも遠くおよばないですね。迫力もスケールも。
で、肝心の出来栄えはどうかというと、いやこれはけっこう出来の悪いほうのサント映画ですね。
ストーリーに捻りがないんで、ひたすらにイベントが起きてはそのつど解決するという串団子システムで作られているのですが、いかんせんそのイベントがショボい。
ワニが襲ってくる → サントがワニを押さえて隊員がズドン
ヒョウが襲ってくる → サントが投げ飛ばしてヒョウ退散
吸血コウモリが襲ってくる → 探検隊が逃げ出す
この合間に首狩り族の斥候(たぶん)が何度も弓矢で攻撃してくるのだが、そのたびに銃撃一発で射殺。
ひとつひとつのイベントがあっという間に終わってしまうので、とにかくあっけない。そして、なんといってもイベントの分量そのものが少ない。だから、たった80分の映画なのに、基本的に間がもたないんですね。
で、どうしたかというと、さらってきた令嬢を儀式の場へと連れてゆく首狩り族の行列と、サント探検隊がジャングルの中をひたすら歩くシーンが延々と続くのであります。
そしてこちらはとにかくダラダラと長い。何か起こるのかなと思って見ていると画面を横切るだけというシーンが、とにかく多く、ハッキリいって退屈以外の何物でもないですね。
そんな映画ですが、サントがワニ、ヒョウと戦うシーンは、ガチンコなので一見の価値がある(かな?) どちらもリアルな本物の動物相手ですが、さすがはサント、いっさいの手加減なしの肉体勝負。
なかでもワニとの一戦は水中戦。けっこう大きなワニ相手に水中大格闘は、なかなかの貴重シーンであります。もうちょっと水中撮影が上手ければなぁ。
それにしてもサント探検隊、最初は10人ほどいたが、ワニにやられたりヒョウにやられたり首狩り族の弓矢で倒れたりで、けっきょく儀式の場にたどり着いたのは、令嬢の父親と恋人、それにサントの3人だけ。残りの隊員は哀れジャングルの露と消えるのです(途中で帰ったやつもいるけど)
生贄の儀式では、金髪令嬢だけでなくほかにもどこから連れてきたのか数人の美女がさらわれてきているのだが、サント探検隊が救出に成功したのは令嬢ただ一人。ほかの生贄美女は見殺し。
けっきょくのところ、金髪令嬢ただ一人救出するのに、いったい何人が犠牲になったのかを考えると、いやこの大冒険、得失点差はけっこうなマイナスな気がしますね。
この映画を監督したのは、第10作の「サント対絞殺魔」をはじめ、ここまで5本のサント映画を手がけたレネ・カルドナ(René Cardona)
日本ではほとんど知られていない監督さんで、「ダークナイト・レディ」(1968年)、「暴行魔ゴリラー」(1969年)、「アンデス地獄の彷徨/航空機墜落 極限の乗客たち」(1976年)の3本がビデオ発売されているだけですが、IMDBによれば146本もの監督作品がある大物監督(もっとも往時のメキシコにはこれくらいの監督さんはけっこういますけど) ちなみにこの「サント対首狩り族」には俳優として出演もしています。
1906年生まれで1988年に死去しているのですが、その息子のレネ・カルドナ・ジュニアはやはり映画監督で、父親との共同作品も含めて100本ほどの作品を残しています(1939年~2003年) 劇場公開された「タイガーシャーク」(1977年)を含め10本ほどの作品が日本でも見られたので、この点では父親に勝っていますかね。サント映画では「サント対贋札偽造団」「サント対国際犯罪団」という大作2本を父親と共同で監督しています。
さらにいうなら、そのまた息子のレネ・カルドナ三世も映画監督で、1988年のデビュー以来すでに78本もの監督作品があるので、ヤスモノ映画監督の血筋はしっかり受け継がれているようです。ちなみに日本では「ゴゲリアン/墓場のえじき」(1985年)というホラー映画らしきシロモノがビデオ発売されているだけなので、まだまだ祖父ちゃんや父ちゃんにはおよばないね。もちろんサント映画の監督作品はナシ(そりゃそうか)
いろいろ言いましたが、なんといっても最大の不満は、サントの試合シーンがないこと。いやそれだけじゃなく、あのコスチューム(マントにタイツ姿)もナシ。
おいおい、これじゃサント映画としては失格ですよね。
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