ヤスモノ映画大将軍

「500円映画劇場」をやっていて、あらためて映画という世界の奥深さ、いや底知れなさを感じました。ほんと、下には下があるもんだ

その500円映画で、何度か遭遇したのがジム・ウィノースキーという監督。わずか十数本見ただけなのに、そのうちもう3回も、このオッサンの映画にぶつかってるんだから。

もともと知らない名前じゃない。かのヤスモノ映画の帝王ロジャー・コーマンの門下生で、もっぱらコーマン・スクールの大量生産部門を請け負っているやつだということは、たしか『映画秘宝』かなんかで読んだことがあるな。

1996年にカリフォルニアのアナハイムで開催された世界SF大会に行った時のこと。大会のゲスト・オブ・オナーがロジャー・コーマンだった。大会メインのイベントだったコーマン御大のトークショーを見たのだが、御大は自分のトークショーに子分どもをぞろぞろ引き連れてご登壇。御大ご自身はあんまりしゃべらず、もっぱら一の子分のジョー・ダンテが話していたのがオモシロかったが、その子分連中の中にウィノースキーもいたらしい。さだかではないが。

なんの趣味なのか、やたらと変名を使うのもウィノースキーの特徴で、知られているだけでも、H・R・ブルーベリー、J・R・マンディッシュ、サルバドール・ロス、ジェイ・アンドリュース、ノーブル・ヘンリー、ロブ・ロバートソンと6つもの変名が……と思ったら、世界最大の映画データベースIMDB(インターナショナル・ムービー・データベース)ではじつに22もの変名が登録されている(いやなかには1字違いとかで単なる誤記っぽいのも多いんだが) いったい何を考えているのか、それとも誰かに命でも狙われていたんだろうか?

そこでこのオッサンがどれくらい映画を作っているのかと思って調べたら、なんということか、そのIMDBで、ウィノースキーの監督作品数は、ちょうど100本!(2015年9月15日現在)

100本? ちょっと信じられない数字だ。ウィノースキーは1950年生まれで、監督デビューが1986年、キャリア30年くらいあるのだからけっこうなベテランではあるが、それでも100本は多過ぎるだろう。詳細に見てみると、年に4本監督なんて年もあるのだから、まさに多作家。いや、作品の質も考えて言えば、「粗製乱造」以外の何物でもなかろう。

ではここで、その監督作品の邦題一覧をお目にかけよう。まさに目をみはる、いや目を覆わんばかりの邦題の大行進だ。

「未来戦士エンジェル・コマンドー/帝国の崩壊」「キルボット」「勇者ストーカーの冒険」「ビッグ・バッド・ママ2」「トレイシー・ローズの美女とエイリアン」「怪人スワンプシング」「ダイハード・ビクセン/地獄の巨乳戦士」「デビルコール/魔界からの誘惑」「まんちい」「インモラル女医」「ジュラシック・アマゾネス」「グーリーズ/肉体の小悪魔」「不倫法廷2」「シスター・エスカレーション」「ザ・フェイス」「ヴァンピレラ」「ブロンド・イグニション」「トイ・ソルジャー'96」「シューティング・ゲーム」「パンドラ・プロジェクト」「シルバーホークス3」「ステルスファイター」「アトランティック・プロジェクト」「ブレイク・スルー」「レンジャーズ 特・殊・部・隊」「アブレイズ」「ジュラシック・シティ」「アルティメット・ストーム」「ジェラティノス」「チアリーダー・マサカー/戦慄の山小屋」「トレジャーアイランド」ヘル・ファイヤー「コモド・リターンズ」「ガーゴイル」「エアポート'05」「サブ・ゼロ」コモドvsキングコブラ「デラックス・ウィッチ第一章:魔女3姉妹と魅惑の森」「デラックス・ウィッチ第二章:魔女3姉妹と官能の森」「ショック・ウェーブ」「スパイ・エンジェルズ」「富豪熟女殺人事件」「スケルトンライダー」「何も着ていない悪魔」「ヴァンパイア・イン・ラスベガス」「ファイアー・フロム・ビロウ」「ボインフィールドPAFUPAFU」「ダイナクロコvsスーパーゲイター」スパイダー・パニック!2012「ピラナコンダ」

まさに「邦題の墓場」 おのずと映画の出来もわかろうというものだ。それこそ500円映画のオンパレード。どんなに困っても、こいつらの真似だけはしたくはないぞというレベル。もっとも、すでにコレ自体、ほとんどがなんらかの真似やパクリなのだが。

しかし、よく考えてみよう。

100本もの映画を監督するということは、それだけプロデューサーや出資者に信頼されている証拠でもある。でなければ、これだけのお座敷は、絶対にかからない。彼の作品を見ていると、信じられないようなことだが、ウィノースキー監督、ある種の腕前がいいのだろう。作品の出来はともかく

それが「面白い映画」を作る腕前じゃないことは、まず間違いない。では、なんの腕前か?

ここで私自身の仕事にかこつけて言えば、「締め切りを守る」だろうな、きっと。撮影スケジュール、予算などの決まりをきっちり守り、何の文句も言わずに作品を完成させる。これは製作側にとっては、ありがたい。作品の出来はともかく。

たぶん、ウィノースキー監督、究極のイエスマンなんだろう。製作側からいろいろ注文がついても、きついスケジュールを申し渡されても、予算をカットされても、当初の自分のプランをないがしろにされても、ビクともせずに仕事を続ける。そんなやつなんだろう。これは製作者にとっては「使い勝手がいい」監督だぞ。私だって、そういうやつはきっと使い続ける。作品の出来はともかく。

けっきょくのところ、映画を作るってことは、資金を投入し、それを回収するのが第1テーゼ。作品の評価とか、映画賞を取るとか、歴史に名を残すとかは、まずは赤字を回避してからの問題なのだ。その第1テーゼをクリアするのが最高に上手な監督が、ウィノースキーなのだろう。作品の出来はともかく。

ということで、儲かりゃいいんだというヤスモノ映画の帝王ロジャー・コーマンのもとで育った最高の働き手であるだろうウィノースキー監督は、コーマン帝国の大将軍というわけだ。作品の出来はともかく。

そしてその証拠をひとつあげるとすれば、ウィノースキー監督の映画は世界中でちゃんと見られているということ。彼の100本の監督作品のうち、日本で何らかの形で見られた映画がどれくらいあるかというと、上記のように、なんと100本中50本が日本公開済みなのだ(ちなみに劇場公開はほとんどなくビデオやDVD発売だけの作品ばかりだが) これは「ウィノースキー映画は売れる」「ウィノースキー映画は売りやすい」という大きな証拠だ。作品の出来はともかく。

還暦も過ぎて今年は65歳になるはずのウィノースキー監督だが、まだまだ衰えるはずもないだろう。これからもザクザクと映画を量産し、その映画は世界中に送られ、世界中の私みたいなバカモノに買われるのだ。作品の出来はともかく。

ところで、その記念すべき「監督100本目記念作品」がなにかと思って調べてみたら、いまポスト・プロダクション中の最新作「Sharkansas Women's Prison Massacre(シャーカンサス女子刑務所の虐殺)」 予告編見たけど、いやはや(笑)いずれは出るであろう500円映画の発売が楽しみだよ。作品の出来はともかく。

  映画つれづれ 目次

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?