500円映画劇場「スパイダー・パニック!2012」

2002年の作品で日本でも劇場公開されたローランド・エメリッヒ製作総指揮の大作「スパイダー・パニック!」の続編……なわけはなく、まったくの別もの。しかもタイトルとは異なって、2011年の作品。まあ、500円映画では毎度のことですが

製作総指揮(つまりお金出した人)は、かのヤスモノ映画の帝王ロジャー・コーマン大先生。そりゃあ期待するなというほうが無理でしょう。大先生、期待にたがわず、ちゃんとツッコミどころ満載の映画を作ってくれました。さすがだぜ。

冒頭、どこだか知らないが(あとでアフガニスタンだとわかる。セリフだけで説明されて)砂漠みたいな荒れ地で、米軍部隊とゲリラ(あとでタリバンだとわかる。セリフだけで説明)が壮絶な銃撃戦の真っ最中。隊長の大尉ドノは足を打たれて負傷し、伍長は戦死。ところが互角の銃撃戦のさなか、タリバン側の背後から恐るべき人食いで毒を持つ(これもあとでセリフだけで説明)大グモ(みたいなもの。CG)の群れが襲いかかり、タリバン全滅。スゴイ展開だが、大尉ドノそんなことには微塵も動じず、伍長の遺体を回収してCG丸出しのヘリに乗って撤収。

舞台は変わってアメリカのど田舎(あとでアリゾナだとわかる。セリフだけで) 帰還した大尉ドノは女性軍曹と二人で、伍長の遺体と自動小銃をトラックで輸送中(どこへ? これはわからないまま) そこでシェリフ(これはすぐわかる。車の横腹にでっかく「シェリフ」って書いてあるから)が追跡中の暴走車(運転手が誰だか、なんで追跡されてたかは最後までまったくわからない)とハデに衝突事故。トラックから伍長の遺体を収めた棺が落下すると、そこから大グモの群れがゾロゾロ(遺体の体内に潜んでいたようだが、どう見ても遺体よりも体積でかいぞ) 見る見るうちに成長して数を増やした(ほんの数分で巨大な群れになっちゃう)大グモどもは、いつものようにおバカなティーンエイジャーを皮切りに、小さな町の住人たちに襲いかかる!

というわけで、いちいちツッコむのもメンドクサイくらい楽しい映画だ。だいたい原題にもなってるくだんの大グモは「CAMEL SPIDERS」、字幕でも「ラクダクモ」になってるが、じつは俗称で、ほんとうはクモですらない(正式にはヒヨケムシという。いちおうクモ綱だがヒヨケムシ目) たしかに中東にはけっこうデカくなるのもいるそうだが、それでも体長10センチくらいだとか。肢が異様に長いので、カマドウマと同じ原理でけっこうデカく見えるそうだが、人にとびかかって喰らいつくようなもんではない。毒もない。しかも調べたら、アリゾナにもいるそうだ(日本にはいない) まあそんなことは、どうでもいいけど

なんといっても作品を凡庸にしたのは、冒頭のシーンをはじめ、なんのタメもなくいきなりゾロゾロと出現する大グモの演出だろう。数が多いからどこにでもいるってのがいいわけなんだろうが、やはりこういう演出には、出るぞ出るぞのタメが大事……って、前にもどこかに書いたような気がするんだが……と思ったら、監督のジェイ・アンドリュースって、コーマン一家のジム・ウィノースキーの変名だった。ほら「コモドvsキングコブラ」のあいつだよ。そういやCGのショボさも似てるぞ(笑)

こう見ていると、たった一晩ちょっと(24時間足らず)の物語のなかで大グモが異常にその数を増やすとか、大尉ドノやシェリフとは別に逃げまわっていた生物学の学生たちはどうなったかとか、救援に来たはずの兵士たち(たった二人だけど)はどこ行ったんだとか、登場人物の運命がじつにわかりやすいフラグで明示される(「私たち結婚して夏には新婚旅行でイタリアに行くのよ」「おめでとう」もちろん大グモに喰われてイタリアには行けない)とか、フツーの映画だったら致命的な脚本の不出来(つかエラーだよな)がすべてどうでもいいことのような気がしてくる。

これこそ、コーマン・マジック

どうせ真剣に見られるような映画じゃないぜ、テキトーにつくっときゃいいんだよ、それでも観客は満足さ、という気概が透けて見える、じつに堂々とした映画作りだ。さすがは「私はハリウッドで100本の映画をつくり、10セントも損をしなかった」と豪語するロジャー・コーマン御大だ。あんたはエライ!

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