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未発売映画劇場「サント対黒魔術」

いよいよ第40弾を迎えたサント映画完全チェック。とはいえ、サントを含めた製作陣にそんな意識はカケラもないでしょう。前にも書いたけど、そもそもサント映画の製作順は資料によってバラバラだしね。

1年間で6本ものサント映画が公開されたサント映画「黄金の1973年」の最後を飾るのは、メキシコで1973年10月に公開された「Santo contra la magia negra(サント対黒魔術) 英語タイトルでは「Santo vs. Black Magic Woman」が知られているようです。

わりと正確に中身を表わしているポスターだが、サント師のマスクの色が……

なんとなくわかるように、「黒魔術」といっても錬金術とかいった欧州的なそれではなく、ラテンアメリカ色満載のブードゥー教。恐るべき邪教集団がサントの前に立ちはだかります。

物語の舞台はブードゥーの本場、ハイチです。映画そのものもハイチの映画会社との共同製作。ラテンアメリカ諸国との合作シリーズの一環ですね。

水爆以上の威力を持つ核爆弾をつくるための鉱物がハイチの奥地で発見される。その鉱山の秘密を握る謎のブードゥー組織とスパイ組織(ソ連なのかな)が結託して、西側の科学者たちを次々と毒牙にかける。世界の平和を守るため、科学者たちを守り、組織から鉱山を奪回すべく、インターポールは秘密捜査官のサントをハイチへと派遣する。だが到着早々のサントを襲うのは本場のゾンビ軍団。そしてブードゥーの呪いが科学者を狙う。スーパーナチュラルなパワーにどう挑むのか、サント。

物語の背景にブードゥー教を配した「007/死ぬのは奴らだ」が1973年夏の作品だから、時期的には微妙ですが、まぁあちらにヒントを得て(パクって)作られた映画なのは間違いないでしょう。ブードゥー教の儀式の描きかたなど、あきらかに似ています。

ただし007のそれにくらべると、本場ハイチのブードゥー教の描写はかなりえげつないものです。いけにえの子ヤギを屠るのなんか、あれリアルにやってるぞ。動物虐待だ。気の弱い方は直視できないだろうし、現在では絶対アウトです。これを見ると、007で描かれたブードゥー教はかなりマイルドにアレンジされていたんだとわかりますよ。

そんなブードゥー教集団を率いるのは、謎の黒魔女。呪いの儀式は、サントをもあわやの危機にさらします。

演じるのはサーシャ・モンテネグロ(Sasha Montenegro) ユーゴスラビア系で、1948年生まれですから当時25歳くらい。まだデビュー早々ですが、じつは先の「サント対物体X」にも出演しています(この後にもサント映画に出演) 妖艶かつ凄味のある美形ですね。

黒髪豊かなモンテネグロ女史。サントよりも長身?

このモンテネグロ女史、のちにメキシコ合衆国第51代大統領のホセ・ロペス・ポルティーヨの夫人におさまっているのだから、じつはとんでもない大物なのであります。サント映画の豪華な共演陣の系譜に名を連ねるのにふさわしいといえましょう。

対するサント側にも大物女優エルザ・カルデナスがヒロイン(科学者の娘役)で配置されています。「サント対コロンビア・ギャング」に出ていたあの人で、サント映画ではおなじみですね。ただ今回はややババを引いた感もあります。ちょっと美しさに影が差している感じなんです。どうしたんだろう、体調でも悪かったんだろうか。

生贄にされそうなのがカルデナス嬢。手前のモンテネグロ女史よりも扱いが小さいでしょ

さてさて、肝心のサントですが、今回はわりと可もなく不可もなく、無難に演じたようです。まあ年に6本も主演してりゃあ、中には力の入らない作品もありますよね。今回は遠くハイチまで遠征したから、それだけで疲れたのかな。

その証拠に(?)サント映画の最大の見どころであるはずの試合シーンに大いなる難点があるのです。

劇中に挿入されるのは2試合。この試合数は、まあアベレージかな。ハイチのカーニバルにあわせて遠征してきたとかいう設定らしいです。相手レスラーは名前も出てこない黒覆面と赤覆面。

ん? どっかで見たような……そうです、「サント対女吸血鬼の復讐」で見た相手と同じじゃないでしょうか。

資料を調べると、やはりあの映画から流用したものだとか。いやいやあの時にも物足りなかった試合を、なぜまた流用したのか? 今回はそのへんを誤魔化すためか、時間も短いし、不自然なトリミングが多いようで、まったく乗れなかったぞ。

ついでにいえば、あの時の黒覆面を演じたのは(たぶん)盟友のフェルナンド・オセス。そのオセス氏、本作では敵方のスパイ役で出演してるじゃないか。一人二役かよ。

余談ですが、映画の最初のほうでサントを襲撃するゾンビたち。前にも書いたように映画に登場するゾンビには大きな分水嶺があり、名作「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」(1968年)の前と後で古典ゾンビと現代ゾンビに分類できます。以前に「サント対ゾンビ軍団」でサントと対したゾンビは古典ゾンビでしたが、では今回はというと、すでに「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」の5年後にもかかわらず、依然として古典ゾンビなのです。しかもこいつらはブードゥー教の儀式で復活しているのだから、科学実験で復活していた「サント対ゾンビ軍団」のゾンビよりも後退しているといえましょう。そういえば鉱山で労働に励んでいるし。まあ本来のゾンビ伝説には忠実ってことですかね。

さて「黄金の1973年」はこれにて終了。サントが死去したのは1984年2月5日なので、いよいよファイナル・ディケイドに入っていきます。ラストスパート? いえいえ、まだ15本もあるんです(笑)

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