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未発売映画劇場「サント対地獄人間」

先に見た「サント対悪の頭脳」に続く、サント映画第2弾

といっても前回紹介したとおり、正確にはサント主演映画ではなく、犯罪スリラー映画に脇役としてサントが登場しているだけ。後年のメキシコ・ファンタ映画のシリーズとは別物と思ってもらったほうが良い。

前後の経緯からして、「悪の頭脳」と同時にキューバ・ロケで撮影されたものだろう。1958年に勃発したキューバ革命の直前にハバナで撮影していたというから、間一髪セーフだったようだ。

キューバの麻薬密輸組織に単身で潜入する捜査官(たぶんメキシコ警察)の苦闘を描くもので、しごく真面目な犯罪スリラーである。

冒頭に、潜入捜査官(演じるのは「悪の頭脳」では悪役だったホアキン・コルデロ)と4人のギャングの銃撃戦。捜査官は一人を撃ち倒すが、弾丸を喰らって倒れる。よほど人のいいギャングなのか、とどめを刺さず、さらには倒れた仲間を顧みることもなく引き上げようとするが、そこへオープンカーで駆けつけたのが、われらがサント。

倒れている捜査官をいっさい気にすることもなく、ギャングと大乱闘。「悪の頭脳」では格闘に弱かったサントだが、今回は強いぞ。拳銃で武装した3人相手に大立ち回りでノックアウトした(らしい)

いっぽう倒れた捜査官には、通りかかった牛乳配達の兄ちゃんが通報してくれたおかげで、救急車出動。

この救急車が現場に駆けつけるまでを延々と移動撮影で追うのがメインタイトルのタイトルバック。音楽もなく、ひたすらサイレンの音を響かせるだけで、なんか催眠効果がある。

タイトルバックでは夜のハバナの街を走っていたはずの救急車は、なぜか真っ昼間の現場に到着し、捜査官は無事救出される。そしてそこから彼の潜入捜査の回想に入っていくのだが、おかげでサント対ギャングの大乱闘は尻切れトンボだ。

まあ真面目な犯罪スリラーとしては、定石通りの上手い入り方ではある。

にもかかわらず、潜入捜査官との連絡役としてバックアップするのが、白覆面にタイツ姿のサントなのはいかがなものなのだろうか。目立ってしょうがないと思うが。

麻薬は海路で密輸されるので、必然的に舞台は海辺近くになるのだが、だからといってサントが登場するたびに海から上がってくるのも、どうなのか。そして用を済ませて帰るときには、毎度毎度、海へとダイビング。おいおい、いくら不世出のレスラー、サントといったって、リングシューズ着用のまま泳ぐのはしんどくないか?

このちょくちょく登場するサントその人が、映画の最大の弱点かというと、じつはそうでもない。そんなことはとっくに折りこみずみだよ、こっちは。問題は違うところにある。

なんか知らんが、犯罪スリラーとしては、やたらとムードがユルいんだよね、この映画。

ストーリー的には何の意味もなく、ヒロインが一曲歌ったり、ナイトクラブのショーが延々と続いたり、といった無駄なシーンが多いせいなのか。

いや技術的な問題として、カットとカットの継ぎ目が、ほんの数コマのことだろうが、微妙に長いせいもあるだろう。なんか間延びするのだ。

さらに、海辺のシーンが多いことは先に触れたが、そのシーンのたびに、律義に波の音が流されるのも問題だろう。単調な波の音には、やはり催眠効果があるのだろう。見ていて、こちらの緊張感がどんどん弛緩してくる。

まあこうしたユルさが、そもそもメキシコやキューバといった南国の、のんびりした雰囲気なのかもしれない。

せこせこした気持ちは捨てて、のんびり楽しめということか。

それにしては、「地獄人間」(意味不明だよ)とはまた、ずいぶん仰々しいタイトルだが、これは後年、サントのファンタ映画がヒットしてから後付けでつけられたタイトル(原題「Santo contra los hombres infernales」) 「悪の頭脳」と同じパターンだ。オリジナルタイトルは「Cargamento blanco」 「白い積み荷」という、いかにも麻薬密輸を思わせる、いちおう犯罪スリラー風のタイトルだ。

そんな具合なので、けっきょくキューバ革命が無くても、この2作で打ち止めになったであろう、サント助演の犯罪スリラー映画・イン・キューバ・シリーズであった。

このあと1961年になるまで、サント映画は一服することになる。

ま、そのへんの映画はまた追々見ていくとするか(見るのかよ

といいつつ、今回も、ひとつ発見してしまった。

じつはサント映画は、この「悪の頭脳」と「地獄人間」が最初ではないらしいのだ。

前回もちょっと書いたが、サントがリングの人気者となってから、最初にメディアミックスされたのは映画ではなく、コミックだった。

1952年にホセ・G・クルーズというコミック作家がサントを主人公にしたコミックを開始し、大ヒットする。そこですぐに映画化が企画され、同じ年に実現しているのだ。

Santo, el Enmascarado de Plata(銀色覆面のサント)」という12話の連続活劇として撮影された(実際には一本にまとめて上映されたとか) ただし、この映画には、じつは当のサントは出演していない。

なんでも、映画がヒットするとは思わなかったサントは出演を断ったんだそうだ。

かわりに別のレスラーがサントに扮したのだが、さすがに聖者・サントの読みは鋭く、この映画はその後に続編が続くことはなかった。そりゃそうだろう、サントの出ていないサント映画なんだから。

これまた幻の映画だが、これをいま見るのは難しそうだな。今後の課題にしましょうか(笑)

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