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#46. 「好きな英単語」はなんだろう


英語オタクを公言していると、たまに「好きな英単語はなんですか?」という質問をされることがある。

素朴極まりない質問だが、これに答えるのはそう簡単なことではない。いまこの記事を読んでいる人で、「好きな日本語はなんですか?」と聞かれて即答できる人は果たしているだろうか。

なんの縛りもなしにいきなり「好きなのはどれ?」と聞かれても、分母があまりに大きすぎる。

これがもし、「好きな母音はなんですか?」とか「五十音図でいちばん好きな文字はなんですか?」、また「好きな漢字はなんですか?」とかそういう風に分母を小さく絞ってくれれば答えることも可能になる。

好きな母音は「い」、五十音図でいちばん好きな文字は「り」、好きな漢字は「流」だ。

...... と、日本語の話はさておき、「好きな英単語はなんですか?」の質問に、御託を並べてお茶を濁すのもそろそろ飽きてきたころなので、

今回は(あまり需要はないと思うが)、ぼくが独断と偏見によって選んだ個人的に「好きな英単語」計 3 語を、「発音部門」「意味部門」、そして「ネタ部門」という 3 つのカテゴリーに分けて紹介してみようと思う。

1. 音部門:響きが好きな英単語


◆ limpid:透明な;理解しやすい;冷静な,落ち着いた

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Her eyes are the blue of a limpid stream of water.
彼女の瞳は澄み切った水のせせらぎのような碧色だった。

発音は下のビデオから:

カタカナにするなら「リンピッド」という感じだろうか。

先述のとおりぼくのいちばん好きな母音は /i/ の音なのだが、好きな子音は /l//p/ なので、この単語は短いながらにこの 3 音を無駄なくすべて含んでいて、響きとしては申し分ない。

主に、水や瞳の「澄んだ」様子を表す形容詞で、意味も非常に美しい。

残念なことに、さほど日常で耳にすることのないレアな単語だが、なにか透明で美しいものを見た際には、ここぞとばかりに使ってみようと前から密かに思っている。


2. 意味部門:単語の表すモノが気に入った英単語


◆ petrichor:久しぶりに雨が降ったときに草花から漂う香り

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Other than the petrichor emanating from the rapidly drying grass, there was not a trace of evidence that it had rained at all.
足早に乾いてゆくその草花から漂う香りの他に、雨が降ったということを示す証拠は何一つとして残っていなかった。

発音は下のビデオの 4:28 あたりから:

Plus, I love the smell of soil when it rains. That smell is called "petrichor".
それから、ぼくは雨が降ったときの地面の香りが好きだ。「ペトリコール」って言うんだけどね。

長い日照りが続いた後でようやく雨が降ったとき、草花や土から漂ってくるあの独特の香りと言えば、きっとだれでもピンとくるだろうが、それを表す英単語があるということを知っている人は多くないだろう。

ぼくもこの英単語に生まれて初めて出遭ったとき、その意味の美しさにたいへん感動したのを覚えている。日本語で同じ香りを表す単語は、果たしてあったりするのだろうか。

ちなみに同じくらい意味が好きな英単語として、「冬の日に感じる太陽の温かさ」を意味する apricity という単語もあるが、これはネイティヴですらほぼだれも知らない、辞書にも載らない古語(廃語)なので除外。


3. ネタ部門:思わずツッコミたくなる語


◆ defenestration:窓から人を放り投げること

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いやいつ使うんだこんな単語。とんだサイコパスでない限り、おそらく一生使うことのない単語だろう。

だがその意味を知ったときの衝撃(笑撃?)があまりに大きかったため、いまでも忘れず、ずっと頭に残っている。

辞書にはいちおう載っている。apricity は使われなくなり辞書から消えたにもかかわらず、こんな気の狂ったような意味の defenestration がいまだに残っているというのはつくづく不思議なことである。

下の動画は、イギリスの BBC で行われている University Challenge というクイズ番組の一幕。イギリスにおける二大名門大学である、オックスフォードとケンブリッジの学生が、さまざまなトピックに関する問題に答えていく。日本でいえば、東大生と京大生がクイズで競っているような感じだろう。

10:24 あたりで、次のような問題が出題される:

And finally, associated with events in the history of Bohemia, the act of throwing a person out of the window.
最後に、ボヘミアの歴史的事件に関係している、人を窓の外に放り投げる行為のことを何と言うでしょう?

答えはもちろん defenestration なのだが、観ての通り、ケンブリッジの学生がそれに真面目な顔で即答するのが面白い。君たちいったいどこで、こんな単語に出遭ったんだ。

たぶんぼくなら、この単語が使えるまたとないチャンスに、もっと嬉しそうな感じで答えてしまうと思うのだが、やはり彼らは国を背負って立つエリートである。こんなところでウキウキしていてはいけない。

ぼくにもこの単語を使うチャンス、どこかで巡ってこないだろうか。

ということで、もしもこの先「好きな英単語はなんですか?」とだれかに聞かれることがあったら、「音なら limpid、意味なら petrichor、ネタで言うなら defenestration 」と答えるだろう。

ただこれはあくまで現時点での話なので、これからさらに語彙力が増していったら、この 3 単語を凌駕するほど魅力的な語に出くわす可能性は、まだ十分に残っている。

defenestration を超える単語は、しばらく出てこないだろうが。


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