#57. 月の向こうから、失礼します
福沢諭吉は、戊辰戦争で上野が戦場になったさなかにも、大砲の音を聞きつつ講義を続けたという話がある。
先週の記事で、いまこの状況でくだらない言語ネタを書いていくのは、世間とのずれをひしひしと感じ、抵抗があるということを書いた。世界が大きな混乱にある中、なにを書くべきなのだろうかと。
しかし、上記の福沢諭吉の逸話を知って、すこしだけ肩の荷が下りた。自分が本当に書きたいことがあるのなら、外の世界がどのようであれ、我を貫いていくべきだろう。
◇
ドイツ語には、「浮世離れしている,世間知らずである」ということを表すフレーズとして、hinter dem Mond leben という表現がある。
直訳すると「月の裏側に住んでいる」という意味である。
実際の会話例はこんな感じ:
Tim: „Atemlos durch die Nacht“… Kennst Du schon den neuen Song von Helene Fischer?
Jan: Helene wer? Noch nie gehört!
Tim: Alter, lebst Du hinter dem Mond? Helene Fischer, die berühmte Schlagersängerin, die immer im Fernsehen ist.
ティム:「Atemlos durch die Nacht」ってヘレーネ・フィッシャーの新曲、知ってる?
ヤン:ヘレーネって誰?聞いたこともないな!
ティム:おいおい、きみは月の裏側にでも住んでるのかい?ヘレーネ・フィッシャーはいつもテレビに出てる有名な歌手だよ。
たしかに、月の裏側に住んでいるなら、地球でいま起きていることなど、なにも知らなくて無理はない。
この先ぼくが世間ずれしていると思ったときには、「あいつは世間知らずだな」などと物騒な言葉を使うのではなく、ぜひ「あいつは月の裏側に住んでいるから」と、洒落た言い回しでオブラートに包んでほしい。
◇
ということで、今後どんなことを書いていこうかしばらく迷っていましたが、
あたかも別の惑星にでもいるかのように、月の向こうから世相とはなんら関係のない言語ネタをつぶやくことに決めました。
と言っても、ただコロナ以前のテイストに戻るだけですが、どうぞよろしくお願いします。
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