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短編小説

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うーぱーるーぱー

 中学校の昇降口を入ったところの正面に小さい水槽があった。水槽の中には、うーぱーるーぱーが一匹だけ入っていた。中学校でうーぱーるーぱーを飼うというのは一般的なことなのだろうか? ぼくは他の中学校に行ったことがないから知らない。ともかくそいつはぼくが入学してきた時から、だいたい八ヶ月後、十二月のある日にいなくなるまで、とくにこれといって生徒たちに可愛がられることもなく、壁の油絵やトロフィーと同じよう

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マッチ売りの少女からマッチを買った

マッチ売りの少女からマッチを買った。
クリスマスイブの晩だった。凍りついた大路の人通りは多く、誰も皆早足だった。僕は少女のふるえ続ける手に銀貨を一枚握らせると、そのまま手を引いて人気のない路地へと連れ込んだ。
狭い路地には風もなく、散乱する生ごみから臭気と共に立ち上る僅かな熱を感じた。紫色に腫れた足の横に籠を置こうとする少女を制し、僕は言った。
「マッチをくれ」
少女は困惑したように目を細めた。僕

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