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6月1日~12日の詩(Nos. 59~70)

作品No. 59(6月1日)

遊びに行こうとわがままを言って
心配事から君を引き離したい

あれが観たいと駄々をこねて
君の好きな映画を観て
あれが食べたいと腕を引いて
君の好きなアイスを食べて

君が言えないわがままを
君の代わりに叶えてあげたい


作品No. 60(6月2日)

平和な時
人の命は何より重い

狂乱の時
命は容易く消えてゆく
大義のために
国のために
家族のために
あるいは無為に

自明ではない命の質量
重く見積もるおめでたさ

手放したくないこの甘さ


作品No. 61(6月3日)

天国なんて幻想を
信じなきゃ息もできない世の中

胡乱になり切れないプライド
切実に求めた天上の
礎を自ら突き崩し
虹色の瓦礫に頬を寄せ嘆く

望むのは
天国でも
地獄でもない
凪の季節

永遠に続く平安の時


作品No. 62(6月4日)

君の繊細な優しさが
照らし出すのは僕の欠落

いつかの傷で擦り切れた
情緒の風を感じる和毛

人の心の美しさを
君のようには感じられない

幸福な誰かの不幸を願い
慈悲深い顔で哀れみを注ぎ
消えない傷を舐め合いたいと
願う無様なこの心さえ

君は美しいと言うんだね


作品No. 63(6月5日)

穏やかな人に見えるでしょう
優しい人に見えるでしょう

怒るのが下手なだけなんだ

重たいヘドロは胸の底で
ごぼりごぼりと燻っている

正しく怒りを使うには
守るためにこそ使うには
どうすればいいか誰か教えて

僕の中にある爆弾が
大切なものを壊す前に


作品No. 64(6月6日)

書き散らしたノートは
感情の五線譜

起き抜けの不協和音

昼下がりのスタッカート

夕べのヴィヴァーチェ

観客のいないオーケストラ
余韻を響かせ
譜面を閉じる


作品No. 65(6月7日)

はらからの命を貪り生く矛盾
知足と情けを償いにせめて


作品No. 66(6月8日)

似合わぬ華美な名 付けた親の望み
叶えるは子の義務ではないと
密かに冠した凪の字が
体を表すことを願う


作品No. 67(6月9日)

不織布が断つは疫病のみならず
初夏の実りのふくよかな香は


作品No. 68(6月10日)

翡翠の森に隠された大地の洞穴
淡い苔の燐光辿り
命の還る深き水脈の歌声響く

生きる祈り
捧げる喜び
絡み合う一つの生命

赦しを
忘我を
今、再生を


作品No. 69(6月11日)

獅子が鹿を喰らうのは
獅子の強さの証ではない

喰われて死ぬか
飢えて死ぬか
五分と五分の対等な闘い
敗者の獅子は草に喰らわれ
勝者の血肉となるだろう

円環の秩序に優劣など無く

人が人を喰らうのは
強さではなく狡さの証

弱肉強食なんて言葉は
狡い勝者の自己弁護


作品No. 70(6月12日)

デジタル表示の言の葉に
授けられた勲章の数
気を揉むほどに遠ざかる
たった一人の心を動かす
重み、喜び、難しさ

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