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伝わらないタイプの対人不安

 落ち着いてるねと言われることが結構あった。他人からそう認識されているということは自分は落ち着いた人間なのかなと漠然と思っていた。

 心の中を覗いてみれば不安と葛藤が渦巻いて波立っていることも多いのだが、比較対象となる他人の心を覗くことはできないから、自分の波が平均よりも高いのか低いのかわからない。これが落ち着いているということならば、他の人はもっと激しい嵐の中にいつもいるのだろう。もっと大変な思いで日々を生きているのだろう。

 にも関わらず他の人たちは周りと上手くやっているように見えた。みんなより低いはずの波をどうして乗りこなせないのだろう。圧倒的な技量不足、努力不足。そうとしか考えられなかった。

 どうやら普通の人はそこまで高い壁を乗り越えてきているわけでもないらしいと気付いたのは大人になってからだった。

 では落ち着いているという評価は何だったのか。

 おそらくそれは波の下にいる状態だった。波に煽られて脆い小舟は転覆した。僕は水中から荒波を見上げている。まるで他人事のように。

 限界を超えて頭が真っ白になってぼんやりしてしまっている様子が、外側から見れば冷静沈着に映るのだろう。魂が抜けているかどうか、普段を親しく知らない人が判断するのは難しい。

 できればこの心の中に嵐があることを知ってほしい。平静を装う技術よりも、混乱を顔に出すことを学んだほうがいいかもしれない。

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