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8月11日~20日の詩(Nos. 113~124)

作品No. 113(8月11日)

それはふとした思い付きか
誰かの指図を受けたのか
それとも逡巡の末なのか

いきなり身近に灯った熱に
私は蒸発してしまいました

気体の私は散り散りになって
衝突しながら逃げ道を探し
雲の鎧をかき集めました

貴方の熱が不意に去り
私は迷いと後悔に濁る液体になり
恐怖は去ったと知るのです


作品No. 114(8月11日)

男に興味が無いのなら
レズビアンに違いない
恋をするのが必然ならば

自分の胸の膨らみを
好きにできてラッキーだ
欲情するのが当然ならば

女であると思えないなら
男であるしかないだろう
世界に男か女しかいないなら

全部違った
規格に合わせたかっただけ

恋も性も要らない
愛だけをください


作品No. 115(8月12日)

闇の流れる河に
光の中洲
生を刻む御影石の列
灰の桃源郷

蛍光灯が穿つ
彼岸の抜け穴
線香の香に乗る
気配だけの亡霊

懐かしい背中を
見つけられたなら
遊びに行ける
いつだって


作品No. 116(8月14日)

蜃気楼にからだを合わせる
はみ出た指が灼かれる
軽やかに噴き出す笑いの煙に

揺れる蜃気楼は僕からは見えない
煙に追われて踊る
踊る

煙を吐くあなたは
蜃気楼を見失わないように必死で
僕を見るには目が足りない

ぐるり取り囲む目が
目が
目が
砂の渦にあなたを封じる

目が
目が
陽炎を生む


作品No. 117(8月15日)

戦車が轢き潰して行く
誰かが絶滅から守った花を
汗が刻んだ約束を
轢き潰して行く
規格外の詩を歌う子らを
戦車に乗らない者たちを
轢き潰して行く
未来を示す古いページを
存在の礎を
最上級の否定形で
残りかすの大地に
怨みだけを焼き付けて


作品No. 118(8月16日)

巡る流れに捩じ込まれた
陸の論理の針に掛かり
生きたいだけの抗いは
「男」と「男」の勇猛なる闘いとされ
敗れた私を
戦利品として守ろうと
彼は屍肉食者を殺しました

彼は敗れ
私は真白い骨を残し
無数の肉片で
海を育む母となりました

彼が殺したものは皆
陸の物語から降り
海の命を巡ります

(ヘミングウェイ『老人と海』の感想)


作品No. 119(8月17日)

私はロボット
あなたは管理者

調教
改造
私のために

お導き感謝しています
でもこの涙は何でしょう
間違いと教えていただいたのに
止められないのは何故でしょう

あなたに与えられていないのに
心がある気がするのは何故でしょう

網膜に映るあなたの姿が
ロボットに見えるのは何故でしょう


作品No. 120(8月18日)

蝉の声が降る
歯車を回すように
ジジジジジジ
ジジジジ

音波に圧縮された蝉が
頭蓋の中で解凍される

ジジジ
ジジジジジジジジジジ
高速回転の歯車が
声を削り
理性を削り
丸めた紙を粉々にする
大切なことを書いていたのに
ジジジジジジ
グリスの染みばかり
ジジジジジジジジ
ジジジジジ
ジジ


作品No. 121(8月19日)

相手の心に寄り添うことが
正しいことだと思っていた

誰かを排除したい心でも
私を痛めつけたい心でも


作品No. 122(8月19日)

本当に欲しいものは決して欲しいと言えない私の
欲しいものをわかってくれたのはあなたでした

強請られるばかりで決してもらえはしなかった
大好きという言葉
惜し気なくくれたのはあなたでした

お気に入りの子を可愛がっただけでも構いません
あなただけは愛をくれた

あなたのことが大好きです


作品No. 123(8月19日)

生きる意欲は少ないほうが
けっきょく楽かもしれません
誰もが死するさだめなら


作品No. 124(8月20日)

犬の子たちがじゃれ合うように
裸で転げ回りたい
甘噛みして肌を寄せて
全身で親しみを伝え合いたい

男と女に分かたれて
恥で綺麗に武装した
賢く愚かな人間たちが
子犬になりたいと望むなら
恋人と書かれた棺の中に
二人して入るしかないらしい

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