見出し画像

5月21日~30日の詩(Nos. 46~58)

作品No. 46(5月21日)

優しいあなた
ひとのためにと言葉を呑み込み
心を影に溶かしたあなた

自分の影に訊いてみて
逐一逐一訊いてみて

どう感じたの?
好き? 嫌い?
それはどうして?
どうしたい?

鬱陶しいほど何度も何度も

暗い沼からすくった答えは
醜く見えても大切なもの
あなただけのきらめく原石


作品No. 47(5月23日)

彼は醜いアヒルの子
仲間外れのアヒルの子

そこらのアヒルと一緒にするなと
鼻で笑って遠ざけて
強くて綺麗な
本当の
白鳥の両親待ちわびて
今日もひとりで羽繕い

水鏡から逃げ続け
何も変わらず大人になって

自分は醜いアヒルの子だと
思い込んでるアヒルの子

誰より惨めな普通のアヒル


作品No. 48(5月23日)

肚の底にある憎しみに
蓋をするから苦しいのだ

幸せの色に塗りたくり
すごいだろうと見せびらかしても
蓋の裏には真っ黒なヘドロ

憎しみは膿
中心の傷は小さくても
手当てを怠れば死も招く

攻撃を愛と受け取って
嫌いな人を好きと思って
幸福を気取るのはやめにしよう

消毒の痛みは覚悟の上だ


作品No. 49(5月24日)

うねる煌めき
葦の群れ

手招き
している

おいでよ
おいで

お池を
越えて

こっちへ
おいで

幾星霜の
彼岸の煌めき

招かれ沈んだ
亡者の望郷


作品No. 50(5月25日)

生きる意味を問う時は
生きているのが辛いのだ

それでも生きていたいから
生きねばならない理由を探す

燦然と輝く目的さえ
神聖な理想さえあったなら
汚辱の泥に塗れようとも
栄光に連なる傷は勲章

生が喜びに溢れていたなら
生きることに意味は要らない

うららかに微笑む野花のように


作品No. 51(5月26日)

涙は言葉
無音の声

痛みを
怒りを
悲しみを

受け止めてほしくて
心は叫ぶ
透明な声で

涙は手紙
あるいは祈り

届けることを諦めない
往生際の悪さの証


作品No. 52(5月27日)

喪失を受け入れる
喪失を諦める
喪失に抗わない

喪失を振り返らない
喪失を予期しない

今を生きる

もっと自由になるために


作品No. 53(5月27日)

あなたが今を生きている
生きているということこそが
あなたによく似た誰かさんへの
密やかで確かなメッセージ

どんなに歪で不恰好でも
生きていてもいいんだよ
生きることができるんだよ、って

どうか伝えてあげてほしい


作品No. 54(5月27日)

人生の海
浅瀬でパシャパシャ楽しんで
そのまま終える人もいれば
急な高波に攫われる人
遠く沖まで泳ぐ人
ボンベを担いで潜る人
海溝で宝を拾ってくる人
海底帝国を創る人

どう過ごしても生は生

翡翠の海は全てを許し
全てを溶かす

忘却の泡沫
人は夢


作品No. 55(5月28日)

脳味噌で生きるのをやめてみる

手で生きる
脚で生きる
耳で生きる
肌で生きる

頭が病んでも脚は壮健
腹が痛くても日差しは快い

意識だけが僕じゃない
目だけが僕じゃない
胸だけが僕じゃない
指先だけが僕じゃない

全部まとめた総体が僕
全身で生きる


作品No. 56(5月29日)

言葉の列車
尻尾に必ず窓がある

目の前を過ぎるその一瞬

華やかな列車のがらんどうな車内
地味な列車がたなびかすシャボン玉
黒塗りの列車から漏れる菊の香

隠せない窓の内側

その一瞬に痛みを覚え
その一瞬に背中を押され

ガラスの閃きを交わして生きる


作品No. 57(5月30日)

同じような一日一日
ほんの少しずつ違う毎日

一日一日 視線がずれて
一歩一歩 別々のほうへ

一日一日 確かめ合わず
一日一日 先延ばしして

遥か彼方に行ったあなた
一歩一歩 追いかけるけど
一日一日 あなたは遠くへ

埋まらぬ距離に 立ち止まる


作品No. 58(5月30日)

罪を憎んで人を憎まず
ならば罪に復讐を

あんなことをしでかした
その理由にこそ復讐を

生まれに
育ちに
世界を動かすからくりに
苦しみを生む装置に罰を

罪の理由を磔刑に処し
罪人の心に安寧を

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?